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16話 隠された公爵令嬢

 晴天の空の下、船は穏やかな海を進んでいく。


 出港の日。フルケン侯爵は態々東に向かう商船に乗る私たちを見送りに来た。


 侯爵の信仰心は良いのだけど、ちょっとめんどくさいわね。


 そんなことを考えながら船に揺られていた。


 この商船、なんとも先進的なことに魔道具を用いた動力航行機能が付いている。仕組みは知らないにせよ、通常の船より早く航行できるらしい。本来なら一部の軍船くらいにしか使われていない技術だ。


 その先進的な高速船であっても出港地のシートリア港から航路の目的地であるイナキ王国ツセツ公爵領オカサオ港まで2ヶ月程かかる予定だ。通常の帆船なら2〜3倍はかかるとのことだった。

 世界って広いわね。


「ジャンヌちゃんはまた……日焼けで美人が台無しになりますわよ」


 船の甲板で海を眺めていたところ背後からラーシア嬢から声を掛けられた。振り向いて見れば日傘をさしていた。

 貴族社会が嫌だったのに貴族らしい趣味を持つこのギャップには呆れを隠せない。そんな私はやっぱり王族なんて向かないんだろうな。そもそも貴族らしい趣味とかは好きでも無いし。


「剣士に日焼けは関係ありません。戦場は外であることの方が多い。私からすれば日焼けなど気にするのは愚か者の証拠です」

「流石に戦場では気にしてられませんわね。しかしこんなところで日焼けするのは女として如何なものかと思いますわね。貴女も私と同類でしょうに」

「はて、何のことやら」


 フフフと笑う彼女を見れば私の正体を知っていると想定すべきね。まぁ一応とぼけて誤魔化しを図るけど……。


「シートリア市に滞在中にお父様から手紙が届きました」


 まぁ普通に考えれば娘が心配だったのだろう、と考えるところではあるのだけどそうでは無いのでしょうね。


「こうやって外に出さざる終えなかった後悔と謝罪が書かれていました。それと裏から支援する意向もあるようなのです」

「父親としては娘が心配なのでしょうね。貴族としては手駒が欲しいのでしょう。手駒を捨てさせた第一夫人の事を良く思って無いと思うわ」

「え……?」

「貴族とはそういう存在、碌な存在じゃない。極端なことを言えば最も卑劣な人種よ。欲にまみれた商人の方がマシなくらいよ」


 どうやら貴族の醜い部分を理解していたわけでは無かったようね。家族の確執くらいなら平民でも有り得る話でもある。彼女は貴族でありながら真の意味で貴族を理解してなかったのだ。


「政略結婚は貴族の宿命。良く言われるけど要するに己の権力の為に子供の自由を奪って当然ってことだからね。正直なところ、私には馬鹿にしか見えないわ。……とは言え第一夫人のせいで貴女に政治的価値は低いけどね。だから外に出ることが許されたのよ。そういう意味ではマトモな心を持った方ではあるかな」

「お父様はそんな人では無いです!」

「ま、知らない方がマシな話だね。少なくとも今の貴女は政略結婚の駒としては利用できない。だけど我が子への愛情は深い。少なくとも悪い親とは言えないわね」

「実はお父様の手紙には第二王女殿下の事が書かれていました。やはり貴女が出奔した王女なのですね」


 やはり手紙に私のことが書かれていたか。そこから薄々気がつくのは必然ね。この子はその程度のことに気付けないほど愚かではない。


「その地位は捨てている。貴族の馬鹿げた権力闘争に付き合ってる余裕はないの。そんなものに関わるなんて神々への反逆に他ならないわ」

「神は実在するのですか!?」


 王女であったことより神々への反逆に驚いているわね。そもそもあの国では信仰心が薄れて久しいものね。信じられなくても仕方が無い。


「会った事すらあるわ。私がこの歳で圧倒的強さを誇るのは神々の加護があるからよ。自分で言うのもおかしな話だけど私の身体スペックは明らかに歳不相応だし」


 鍛えれば鍛えるだけ伸びる基礎体力、デタラメに多い魔力量、これは私の圧倒的な実力の下地になっている。

 たとえ技術に長けていても体のスペックによってはそれを活かし切る事はできない。


「それと神々のことや私が王家の血筋であることも他言無用、バレると面倒だからね。使命を果たすまでは結婚なんて以ての外だし、あの息苦しい環境は好きじゃないの。継母を嫌う貴女なら分かるでしょ」


 釘は刺しておく。

 余計なことされては敵わないからね。


「えぇ、お父様には申し訳無いのですが隠しておきます。何かあった際に流石に一個人で背負えるものではありません」


 どうやら公爵は私を見つけたら知らせてほしかったらしい。


 手紙の内容を聞いてみれば、私の身柄を確保してその手柄を娘に与えることで第一夫人を黙らせようとしたらしい。私の予想通り政治が絡む面倒臭い手紙だった。


 実際に見せてもらったけど、私を連れ戻せれば正式に誰にも文句言わせること無く娘として迎え入れるとあった。これは政略結婚の駒として使いますって意味だけど本人は誤解していたらしい。

 貴族と言うのは権力の為に駒にされるものなのだ。故に私は気に食わない。


 その後はトラブルもなく予定通りに船は目的地の港へと到着した。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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