14話 放たれし雛
私の提案通り浜辺の洞穴で彼ら彼女らの実力を見ていた。フリードも指導結果が気になってはいたようだった。
私たちは最初はお坊ちゃまお嬢ちゃま4人でどこまで行けるかを見ていた。それがまず彼ら彼女らの実力を見る上で早いからだ。全員が王都の外に出ていないと聞いていたのでそれでどこまで戦えるかは少し興味もあった。
勿論万が一に備えて私やフリードに加えてグレンも備えてはいる。死なれても困るのでね。
4人が押され始め私たちが助け出したのは3階層からだった。
本音を言えばを大口を叩くからには4人で5階層くらいは突破してほしかった。
だけど危険な目にあったことが無いにしては怯えること無く戦ったのは称賛に値する。それは私だけではなく歴戦の武人であるフリードも同意見だった。グレンは「なんだコイツら」くらいの侮蔑の目を向けていたけどこれは仕方が無い、若いのだから。
「もう無理だ……」
私たちが手を貸しても4人とも5階層に辿り着く頃には完全にバテて戦うことすら叶わなかった。
「貴方たちは実力も持久力も足りていない。これが現状よ、正しく認識しなさい。ここからは私が前に出て道を切り開きます。フリードとグレンは4人の護衛を頼むわ。尤も討ち漏らすつもりは無いけどね」
「期待せず進ませてもらいましょう」
「おう!」
さて、ここからが本番だ。10階層まではこの体制でも保つだろう。
4人に本当の実力者と言うものを見せてやる!
ここ浜辺の洞穴は潮の香りのする迷宮で水辺も多い(海水だけど……)。故に水陸両用の魔物が多い迷宮だ。
4人は急に水中から飛び出してきた魔物に特に苦戦していた。
だけど私からしたらカモだった。
サメの様な魔物が飛び出してきたところに大太刀を振り抜き叩き斬る。
サメをぶった斬ったところで半魚人の魔物が群がる様に上陸してきた。コイツらは凄まじい勢いで水を吐き出してきたけど、防御魔法で攻撃を受け止めつつ一気に接近して纏めて斬り捨てて回った。動きが遅いから幾らでも蹴散らせる。それに吐き出される水も例のドラゴンに比べれば弱いから何ら問題も無かった。
「す、凄い……。これが『迷宮の剣聖』が認める真の実力者……」
「こんな子供に負けたのか……クソっ!」
5階層を突破する頃には背後からは既に敗北を認める言葉が聞こえて来ていた。
「既に彼女は儂の全盛期を越えておる。彼女は残歴転生をしておる。転生前は、儂を上回る剣の才能を見せ、剣の実力でSランクに届かんとした英傑だ。それが転生し多種多様な魔法を活用しておるわけだ。お主ら、この意味が理解できたか」
「同世代だと!?」
「確かに勝てるわけがありませんわね……」
「だとしても保つのか!?既に体に相当な負荷が掛かっているはず。耐えられるとは思えない……」
いや、残歴転生のことは伏せて欲しかった。
だけど4人ともその意味を理解していた。
「持久力が保つかって?保つに決まってるじゃない。少なくとも『パステルの砦」はソロで25階層まで行ったわよ」
もう誰も突っ込まない。実力差があり過ぎたことを理解したからだ。
「もう6階層は行かなくて良い、降参だ」
リーダー格の男の子がそう言った。皆も同調している。
どうやら実力は認めてもらえたようだった。
ーーーーーーーーーー
迷宮を出た後、私たちはフルケン侯爵から屋敷に招待された。
アステリアは先に侯爵邸に出向いて事情を説明していらしく、戻ってきた私たちは門番に止められそのまま馬車に乗せられた。
ちょうど良かったので馬車の中で自己紹介を聞いていた。何しろ迷宮に出かける前は私への不信感からか自己紹介すらしてくれなかったしね。
「俺はシバス・フォン・ウェスティンだ。宮仕えが嫌で冒険者を目指している。親は宮仕えしろって言ってくるけどな」
そりゃそうでしょうね。ウェスティン家って侯爵家だし。ウェスティン侯爵の三男がガサツでやんちゃだと言う話は貴族界では有名だ。社交にも出てこないし当然私も初めて会った。本来なら既に面識があって当然の身分なんだけどね。
「ラーシア・フォン・リーマリドですわ。継母となった第一夫人が嫌でここにいます。亡き母と同じく冒険者の道に進むつもりですわ」
リーマリドって確か初代王の弟が興した公爵家だったわね。何でそんな名門の公爵家の令嬢がここに居るのか、普通なら疑問で仕方が無い。しかし第一夫人によって平民出身の第二夫人の子供たちが虐められていると言う噂があったのでそれだろう。と言うことは第二夫人は第一夫人によって誅殺されたと見て間違いないわね。
身なりは非常に良いし、礼儀作法も出来ているので父親からは愛情を受けていると見えるわね。
「私はレテシア・フォン・ボールトネスです。騎士を志望しています。実力不足は理解していますが諦めるつもりはありません。ご指導お願いします」
女性の兵士はいない訳ではない。勿論騎士団にも何人かはいたわね。彼女らは高い志と卓越した技術の持ち主であることが多い。
男性に比べて女性の非力さは軍においては不利となる。故に軍事は男の仕事とされていた。それでもそこに居続けるということは、志と能力の両方を示し続ける事が求められる。
それを目指すということは覚悟は決めているのだろう。当然4人の中では一番やる気に満ちていた。順当な領主貴族の娘でもあるからか、しっかりした受け答えに加えて、貴族ではない者の接し方も穏やかに見える。
「僕はウィルス・フォン・ザートレスです。身を立てる為に騎士になりたくて……」
何処か辛そうな雰囲気を感じる。ザートレス家までは把握できてないけど多分家庭環境が悪いんだろうなぁ。爵位だけ維持してるような没落貴族は家庭環境が悪いことが多いのでその影響かしらね。そうでもなければ貴族がこんな感じにはならない。同情はするけど容赦はしない、ビシバシ鍛えてやろう。それこそ実家を見下せる程にね。
「今の自己紹介で各々のことについては概ね予測が付いたわ。ビシバシ鍛えるからしっかり付いてきなさいよ。ま、私個人の修業に付いてこいとは言わないけどね」
その後は特に重要な話をすること無く侯爵邸に着いた。
肝心のフルケン侯爵の要件は私たちへの支援を打診だった。フルケン家が商人に根深い家とは知っていたけど、王国との国交のない国にまで繋がりがあるらしく、その繋がりを通じて支援したいらしい。
そして何故か侯爵から宿の予約とかがキャンセルされたらしく、私たちは船が来るまで侯爵邸に泊まることになった。多分、もてなしたと言う実績が欲しかったのだろうなぁ……。それにしても強引過ぎるわ……。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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