13話 シートリアの領主
「これはこれは、ご無沙汰しております。神使アリシア殿下」
何故この人がここにいるのだろう?
あのドラゴンを討伐した翌日、遂に船に乗ることができた。航海は順調で何事も問題なく進んでいた。
ただ航路の都合で経由せざる終えなかったシートリア市で予定外の人物が待ち受けていた。
ヴォルクス・フォン・フルケン、この街を中心とする領地を持つフルケン侯爵家の現当主で国政で大鉈振るっている人物でもある。非常に忙しい王都生活を送っているはずの人物が何故ここにいるのだろう?
私とともに来た全員が顔を唖然としている。
フリードですら呆れ顔を晒していた。
「良いのか?陛下の信の厚いお主が王都を離れられるとは思えぬのだが……」
「大丈夫ですぞ、義兄上。陛下には領地のことが心配だと言って許可はとっておりまする。当家の気質をよく知られる陛下は渋々ですが認めていらっしゃいましたぞ。それに神使がお越しになられるのであれば無視はできますまい」
何故ここにこの人が居るのかは分かった、分かったんだけど、本当にどこをどう突っ込めば良いのか全く分からない。
まず何で現役の侯爵が隠居した子爵に義兄上と呼んでいるのか……。血縁関係が存在したと言うのは理解はできなくはないけど、どう考えても立場に差がありすぎる。
それに私の父をどう黙らせたのか、全く糸口が掴めない。政情を考えれば国王に政治的に近い大貴族を自由にさせておける余裕はないはず。故に領地も安定しているフルケン侯爵家は王都に残る様に王命が出ていてもおかしくはない。どこまで本当なのか不思議で仕方が無い。
そして何故私の生まれや秘密をこの場で言ってしまうのかしら……。ほらっ!レインが青褪めてるじゃない!それに神使だって話も広められたら困るんだけど!
「何をお考えかしら、侯爵閣下?」
威圧感を与えるような笑みを浮かべて問い詰める。こっちが怒ってることくらいは察してもらいたいのだけど……。
「勿論、陛下の希望通り殿下が次期国王となられることを望んでおります。しかし陛下は大局を見ておりません。殿下は神使、神々より与えられし使命を果たさねばならない。柵で縛れば使命を果たせぬかもしれません。故に政治的な話は全てが終わった後にすべきでありましょう。であれば英雄としての泊も付きます」
ある意味正論ではあるのだけど……私の意志は無視かしら?そもそも王位継承権なんて要らないんだけど。
「一つ訊くわ。まさかとは思うけど、私が指導する予定の貴族の子たちに余計なこと吹き込んでないでしょうね?」
「は……?何の話にございましょうか?」
「ふむ、前提を知らぬ侯爵には後で儂から話すとしよう」
そもそも侯爵は何も知らなかったらしい。
フリードが教えなかった以上は失言だったわ。
「それよりも先にこの小僧の亡命処理を頼みたい。どうやら祖国のバートラル公国に追われてるようでな。『聖人としての任務より公国の戦争に参加せよ』と言われたそうだ」
「バートラル公国……。開戦準備をしていると言う噂は耳にしておりますが、切羽詰まっているとは聞いておりません。何があったのでしょうか?」
「本気の大動員を試みているようだ。標的はブリューラルかバルテシアだろう。どちらに攻め込んでも驚きはしないが、儂は舐め腐ってるブリューラルと予想する。その辺は小僧が良く知っておるわい」
「詳しい話は屋敷で聞きましょう。レイン殿でしたな、ひとまず屋敷に向うぞ。亡命の手続きを含めて速やかに行うのでな。義兄上、また後ほど話をします」
ここで一度フルケン侯爵とレインは屋敷に向かった。残った私たちはフリードの案内で一つの宿に向かった。私が受け持つ予定のフリードの弟子たちと面会する為だ。
しかし私が面倒見る予定のフリードの弟子たちには疑問点がある。
それは貴族出身でこんな活動は普通は行わないと言うことだ。
本来貴族の子女は籠の中で育つような存在であり、長期に渡って家を離れるなど以ての外と教育されているものだ。私も転生してからはそんな感じだったしね。
そう考えると少し不気味さを感じるわね……。
宿には暗い顔をした4人がいた。
「お主ら、お前たちに指導してくれる者を紹介するぞ。大聖女のジャンヌ殿だ。歳の頃はお前たちより少し若い。だが侮るな。遥かに多くの実戦経験を積み、魔族の単独討伐すらこなす世界でも有数の実力者だ」
返事は今一つだった。
自分より低い年齢で実力者と言われても納得はできないだろう。それも二十歳にも満たない貴族の子女なら使用人に蝶よ花よと扱われ、万能感に浸ってることも少なくない。歳下の少女に劣ってると言われて反感を持つのは自然なことだった。
まぁ対処法がないわけではない。有無を言わさない実力を見せてやるのが一番早い。ただ対人戦は悪手でより反感を強めるだけだ。なので魔物討伐で彼らが倒せない魔物を余裕で倒すのが有効と言える。
都合の良いことにこの街の近くには『浜辺の洞穴』と呼ばれる迷宮がある。深い階層で魔物をどんどん倒していけば彼らも文句は言えないだろう。身の程を知ってくれるはず。
「フリード殿、流石にこんな子供に劣るとは侮辱ではありませんか」
「外国は安全、なんですよね?」
「彼女は紛うことなき実力者だ。問題はない。お主らがそこまで気になるなら実力を試してみるが良かろう。まぁ彼女に勝てるとは思えぬがな」
ここまではフリードにとっても予定調和と言ったところかしらね。
あっ、3人とも焚き付けられているわ……。強い敵愾心を感じる。本当に単純な子たちだわ。
この流れなら逆にありがたいくらいだけど。
「私の指導を受けることが不満なら実力を見せてみると良いわ。街の近くに『浜辺の洞穴』と呼ばれる迷宮がある。そこでどこまで深い階層に耐えられるか、試してみる?」
「それは構わぬが……。流石にフルケン侯爵には言伝を残しておくべきであろうな。無言で行けば何を言われるか分からんぞ」
フリードの言うことは正論だ。確かに今フルケン侯爵を敵に回すのは危険、彼を敵に回せば何をされるか知れたものではないわね。
「アステリア、済まないけど残ってフルケン侯爵に事情を伝えてもらっても良い?」
「仕方が無いですね」
フルケン侯爵への対応はアステリアが残ってやってくれることになった。
さてヒヨッコ共の実力を見るとしますか。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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