12話 激流の竜
ドラゴンは私に向かって接近してきている。私が船から飛び立つと同時に船に向かって下げつつあった高度を戻しているようだ。
どうやら相手のドラゴンも魔力で相手の位置を探っているようね。
人間としては規格外の膨大な魔力を持つ私のことを危険視した、と見て間違いないでしょう。これはちょっと予想外だけどこちらとしては好都合だった。狙われるのは私、船は多少離れるだけで巻き込まれることはほぼ無い。
私も船から離れドラゴンに飛行魔法で接近していく。少しでも船から離れた方が船が安全だからね。そうしていく内に遂にドラゴンが目視できる距離まで近づいた。
「さて、出てきたわね」
全身が薄青色の鱗で覆われ、ところどころ魚のエラみたいな器官がある以外は見た目は普通のドラゴンだった。
だけどこれは普通のドラゴンではない。直感がそう告げている。
正直、コイツは初めて見るタイプのドラゴンで名前は知らないし、どういう特性を持っているのかすらも分からない。情報があまりにも乏しい手探りの戦いを強いられる可能性があるわね。
とは言え、多少の推測はできる。コイツは恐らく海を生息域とする特殊竜種なのだろう。なので水に関する攻撃や、水域を活用した戦法を取ってくることが考えられる。
交戦距離に入るなりドラゴンがブレスの構えを見せた。
当然私もそれには気がついてるし、そのまま受けるつもりは無い。
軌道を予測して回避行動をとりつつ防御魔法を展開する。
開かれた顎からは強烈な、強烈過ぎる激流が飛び出した。激流本体は避けることに成功した。しかし……
「嘘でしょ!!?」
なんと水飛沫だけで防御魔法が削られていく。そう、余りにも激し過ぎる水のブレスだった。
これはマトモに喰らったら即死だった。
ブレス本流から外れた水飛沫だけでこの威力は想定外と言わざる終えないわね……。
何度も放たれる激流のブレスを避けつつ接近してドラゴンの死角へと潜り込んだ。死角から強烈な一撃を放ったり羽を斬り落としたりとそういった手を狙う為だ。
だけどまたドラゴンは予測していなかった手を打ってきた。
まさかの急降下、恐ろしい勢いで海面に向かって飛んだ。何とか避けるので精一杯だった。風圧で防御魔法が破壊されたことで吹き飛んでしまい飛行魔法のコントロールを失ってしまった。
それでも何とか体勢を立て直して海面を見下ろした。
どうやらドラゴンは着水したらしい。エラらしき器官から水を吸っていた。あのブレスは取り込んだ莫大な水を吐き出す技だったのね。タネが判ってもアレは脅威だけど……。
やはり給水ができたからなのか馬鹿みたいにブレスを吐きあげてくる。まるで噴水の様に見えるけど本当に洒落にならない。水に浸かってるので幾らでも水は補充できるから事実上無制限で攻撃してくるわけだ。それだけ私のことを警戒してると言える。
ここでふと思ってしまった。
あのエラから水を吸っているなら水以外のナニカを吸い込ませたらどうなるのか?本当に水が吸えなくなれば厄介な激流のブレスを封じ込める事ができるかもしれない。いや、ほぼ確実に封じ込めれるだろう。
試してみるか……。
向こうは遠距離から水吐き出してくる一方で近づくことはできない。腹立たしいことに私から距離を保つように泳いでやがる。まぁどちらにせよ魔法を使った方が早いか。
と言うことで『爆炎球』を十発纏めて叩き込んだ。エラの辺りを狙って……。
強烈な爆音とともに水飛沫と白い蒸気が巻き上がる。少し遅れて悲鳴が上がった。
「グギャギャギャギャ!」
悲鳴を上げたことからも非常に効果があったことが伺える。視界が晴れてくるとそこには右半身が焼け爛れたドラゴンがそこにはいた。
半身が思う様に動かないのか泳ぎも拙くなっている。機動力は壊滅的に低くなっていた。思った以上の効果があったようだ。
コイツ、妙な能力持ってる割に防御力自体は低い。これは良い情報だ。初めて戦う魔物、情報の無い敵との戦いは試行錯誤の連続であり情報は貴重だ。これは必ず活かさねばならない。
吐き出される水も少なくなったのもあって非常に近づきやすくなった。これなら至近距離から攻撃可能だ。
しかし近づこうとすると今度は潜水を試みられた。潜水をされると私では追撃できない。まぁ潜水は無意味と思い込ませるしか無い。
と言うことで追加で強烈な炎系の大魔法を何種類も何度も叩き込んだ。
炎魔法の圧倒的熱量は海水を一気に蒸発させドラゴンを露出させた。無論露出してからは炎魔法が直撃しており、もはや虫の息にまで追い込むことができた。
表層は脆くとも中はしっかりしているらしく、致命傷とまではいかなかった。
「さてトドメを刺しますか。ちょっと手こずったけど逃がすこと無く倒せたわね」
もう泳ぐこともできないらしく海の上でぷかぷかと浮かんでいるだけだ。これで死んでないだけでもコイツが如何にタフかがよく分かる。
もうこのドラゴンはマトモに動けず抵抗することすらできない。頭に着陸して頭に刀を刺して脳を破壊した。これを以てトドメだ。
ドラゴンを倒して終わりというわけではない。コイツを回収して帰る必要がある。
信号用の魔法を打ち上げて船を呼び、この死体を回収することで今回の依頼は達成することができた。
これでようやく航路が利用できるわね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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