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9話 戦時下の国境

 ミノタウロスキング率いる魔物の大軍を退治した後、運良く近場に壊滅した山賊の基地を発見できた。

 そこら中に魔物の攻撃の後があったので間違いなく先の群れによって山賊たちは逃げ出したのだろう。ありがたく屋根付きの場所で寝ることができた。予定から遅れていたので野宿すら考えていたから非常にありがたい。


 その後、2日かけてようやく国境の町に辿り着くことができた。


「何とかこの街まで辿り着けた……この前とは大違いだ……」

「やっぱり戦時下の国境だけあって他の街より監視体制は厳しいわね」

「あぁ、明らかにピリピリしてやがる」


 恐らく出国も容易にはいかないだろう。

 それくらいは簡単に予想できた。


「幾ら聖人が集まっているからと言って容易には通さんだろう。この国の戦時下の徴兵はエゲツナイからな……。冒険者でもある以上、徴兵候補として見られるから場合によっては対応を考える必要がある」


 レインはこの国の貴族出身者として思うことがあるらしい。

 まぁ人口少ない国だと戦闘経験保有者は貴重な戦力だから逃したくない公国政府の気持ちは理解できる。とは言っても教国と揉める可能性を負ってまで私たちを確保するのは外交的に悪手だとは思うけど……。


「最悪の場合は教国との関係悪化をチラつかせることも考えて良いわね」

「それは流石にやりすぎです。教皇猊下からはその許可は貰ってないでしょう?」

「現場を脅して抜けるくらいだったら十分効果あると思うわよ。戦時下である以上は余計な問題は避けたいだろうから外交問題になる前に公国が折れると思うよ」

「しかし……」

「脅しはあくまでも最終手段だけどね。とりあえず国境を抜けましょう。話はそれからよ」


 向かった先の国境検問所には長蛇の列ができていた。それだけ出国審査が厳格化している証とも言える。現に一件一件の検査時間が長い……。


 待ちに待って夕方に差し掛かる頃、ようやく私たちの番が来た。


 出国するに当たって身分の照会、そして持ち物の検査が必要になる。

 前者は犯罪者を逃さない為であり、要人等の動きを掌握する目的がある。後者は禁制品の持出を防いだり経済活動の動きを掌握し課税する目的で行われている。


「グレンとアステリアは行って良し、ジャンヌとレインの両名はこちらに来い」


 どうやら私とレインは弾かれたらしい。持ち物検査で引っ掛かる物は持っていないし、犯罪者でもないので何らかの理由で国内に留まらせようとしていると考えられる。

 まぁ心当たりはあるんだけどね。


 連れて行かれた先は取調室だった。


「まずレイン、本名はレーネイン・フォン・ウォルネスだったか」

「はて、何のことだ?」

「惚けても無駄だ。戦時下の国に帰ってきた貴族が他国に行くなど赦されると思うか?軍に入ってもらう。お前の名誉の為にも実家の名誉の為にも強制だ」

「お前分かってねぇな。うちは貴族の地位が要らねぇから爵位返上すら検討してる家だぜ?名誉なんざ要らねぇよ。そんな処分取り消せや。あぁお取り潰しでもどうぞ」

「何ッ!?」


 なるほどね、非常に分かりやすい構図だわ。

 と言うか沸点低いなぁこの取調官……。


「舐めてるのか?」

「忠臣を裏切る利権しか見てない愚物の大臣なんかに付き合ってられるか」

「おいッそこッ!コイツを拘束しろ!」


 やってしまったね。聖人として教皇の命を受けてる以上、教国に喧嘩売ったのと同義なんだけどね。


「ジャンヌと言ったな。お前、なんでCランクなんだ?ランク詐欺だろ。先日の近隣山林での騒ぎやパステル市での活躍は聞くに、Sランクでもおかしくない実力者であると分かる。則ちBランク以上と同義であるので出国禁止だ。公国国内で軍に入るか治安維持の為に各種依頼を受けるかしてもらう」

「レインの件を含めて教国への宣戦布告と捉えて良いかしら?」

「この国の内政権に関わる問題だ。教国は関係ない」


 どうやらここで私も拘束すれば終わると考えてるようね。

 私はゆっくりと立ち上がり取調官を見下した。


「あぁそう?神使として使命のために活動することを教皇から指示されている。私と行動していた3人もその補佐役を命ぜられている。教皇に唾を吐いたのよ。処分をこの場で取消し出国させなさい、私に歯向かうのなら容赦はしないわよ」

「立ち上がるとはいい度胸しているな。それに神使?教皇の任務?そんなものは関係ない。どうやらここで死にたいらしいな。公主令547号違反で処刑だぞ?」


 どうやらどうしても私たちを拘束しておきたいらしい。ため息しか出ない。

 公主令547号って、さっきチラシで見たけど戦時下の出国禁止措置に関わる諸制度が規定されてたものだったわね。確か越境に関して他国籍の人に関しては国際国境規定で犯罪等が理由でなければ出国禁止はできないはずだから無意味なんだけどね。


「ここまで馬鹿だったとはね。国際国境規定は知ってるかしら?知らないわよねぇ?だから貴方たちには死んで償ってもらうわ」


 こうなればここにいる連中に容赦はいらない。

 穏便に済ませるつもりだったけどその必要はもうない。何故なら国際国境規定を恣意的に破った担当者は死刑という決まりがあるからだ。この場で始末してしまっても然程の問題にはならない。なら時間短縮を図るべきだからね。


 瞬時に『雷撃』を発動し、全員を麻痺させた上で首を斬った。断末魔すら上げさせない。

 ここにいる連中はこれで片付いたので後はレインを救出し、ポルルガト帝国に強行入国するだけだ。


 幸い探知魔法で彼のことは追っていたので彼の入れられていた独房まで力業でぶち抜き、彼を回収した。


「めちゃくちゃしてんなぁ」

「それよりもさっさと逃げるわよ」

「あぁわかってる」


「おいッコラッ!逃げんな!」


 既に追手が来てるわね。

 検問所を破壊して私たちはポルルガト帝国側の検問所まで逃げきった。


 ポルルガト帝国の検問所ではグレンが事情を説明していたらしく、あっさり入国できた。それに元々教会から知らせが行ってた事もあってか、帝国側では悪いのは不当な拘束をしたバートラル公国が悪いと考えているらしい。

 最悪の場合、帝国と教国とで手を取り合って公国を圧迫するつもりだとか……。


 因みに取調室には脱出を図るまでに兵士の血で警告文を残しておいた。


ー国際国境規定くらい守れー


 とね。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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