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8話 ミノタウロスキング

 今回の様な場面における定石は各個撃破だ。だけどそれを簡単に許すほどあの群れは馬鹿じゃないことが予想される。まったく面倒ね。


「今回は各個撃破を目論むわ。そうなる以上は早さが命よ」

「早さ?他のチームが来る前に決着をつけろってことか?」

「それはどう考えても不可能なのではありませんか?」

「目立てばより早く敵も現地に辿り着くだろう。ジャンヌ殿、その考えは矛盾を抱えているのではないか?」


 実力のあるグレンは何をするのか思案しているようだけど二人は不安みたいね。

 まぁ私の異名を知っていれば何をするかは何となく想像できる気がするんだけど……。


「勿論正面からやるつもりはないわよ。大規模な魔法攻撃で敵陣形を粉砕してしまえば良いのよ。後は残党を処理するだけ、それなら速攻を仕掛けても増援到着前に撃破も可能なんじゃないの?」


 予測外からの奇襲、それも大規模魔法攻撃が飛んでくるともなればとてもじゃないけど防ぐのは難しい。これだけでも集団が全滅する可能性すらある。


「それが『流炎の虐殺者』やら『パステルの英雄』やら言われている理由か……。ワルカリアの大規模拠点を粉砕したとか言う次元違いの魔法攻撃ならそれも可能ってわけか」

「本来大規模魔法攻撃は手間が掛かるから戦術的には不可能とされていたはず……。いや、前科がある以上は不可能ではないのか。グレイシア王国が恐れられていた真意を理解させられたな……」

「な、何をするおつもりですか?」


 アステリアはよく分かってないみたいだけどまぁいいや。


「さっさと片付けるわよ。大規模な魔法攻撃は目立つから短期決戦、それに近づくまでは気配を極力殺して進むわよ」


ーーーーーーーーーー


 進んだ先にいたのは種族ごっちゃ混ぜの15体の魔物だった。これくらいならほとんど漏らしは出ないわね。


「アレが最初の標的か」

「まるで災害だ」


 グレンもレインも戦闘態勢に入ってるわね。アステリアは青褪めつつも構えている。

 これなら問題はなさそうだわ。


「始めるわよ」


 既に魔法の準備は済んでいる。

 大魔法『獄炎滅却』が開戦の狼煙だ。


 私が放った火炎弾が着弾した。その火炎弾は着弾と同時に爆発して魔物の集団ごと炎上させた。


「グギャァァァァァ!」

「ピギィィィイィイ!」


 魔物たちが悲鳴を上げながら焼かれていく。ほとんどは焼けたけど何体かは生き残っている。

 森の中で延焼すら起こさない程の強烈な熱量と圧縮性を持つ炎に焼かれても死なないとは中々強いわね。

 当然高い火柱も立っているので他の魔物たちにもバレているはず。救援するべく駆けつけてきた増援が来る前に一刻も早く殲滅しなければならない。


「さぁ、お掃除の時間ね」


 生き残った魔物を相当すべく全員突撃だ。ビビっていたアステリアもどうやら恐怖を克服したらしい。数が少なくなったことで何とかなることくらいは判ったからだろう。


 強烈な炎に焼かれて手負いの魔物如きに苦戦はしない。あっという間に殲滅できた。


「一旦ここを離れるわよ。増援がこの地点に駆けつけてくるはず、正面からは不利よ!同じ様に他のところも倒すわ」


 全員が私の指示に従いこの場を離れた。


 そして数刻後……。


「これで残りは本隊だけか」

「なるほど、これがバルテシアを衰退させた炎ってわけか」

「意外と何とかなるものなのですね」


 他の部隊も同じ様に焼き払い、最後にボスの居る群れだけが残った。


 流石にボスの群れは大きい、魔物だけで数百は最低でもいる。

 さらに遠目に頭に6本もの角を生やし、とんでもない大きさの石斧を持った魔物が見える。アレがボスと見て間違いない。それにしてもアレはちょっと厄介ね。


「まだ終わっていない。あそこにいるのはミノタウロスキングで間違いないわ。アレが群れを組織していたのね」


 ミロタウロスキング、Aランク上位とされる非常に強力な魔物として知られている。ミノタウロスと言う種族の魔物はお手製の斧を持つ二足歩行の牛型の魔物でその頂点に立つのがミノタウロスキングだ。

 その引き締まった筋肉が為す破壊力と防御力は非常に危険と言わざる終えない。しかも筋力のみならず知能も高いので搦手を使ってくることもある。それどころかコイツに至っては大規模な集団の統率すらしている。


「向こうも必死に気配を探っているようね。まぁ手下をコテンパンにされたら怒らないわけもないか」


 何が何であれ奴はここで死ぬ、それが定めである。

 流石にこの群れをチマチマ叩くのは危険が多いと言わざる終えない。一撃で蹴散らしてやろう。


「さて、撃ち込みますか……『厄災の豪雨』起動」


 パステルで放った私が扱える最強のオリジナル魔法、今ここで使おう。そうでもしなきゃあの群れをまとめて潰すことはできない。


 降り注ぐ魔法の雨が地獄の厄災を体現させる。

 群れを構成する魔物は次々とその生命を散らしていく。


「この規模の魔法が存在するのか……」

「す、すげぇ……」

「文字通り厄災ですね……」


 見ているだけの3人が怯えている。

 でもそれだけの破壊力があることは理解している。尤もこんな規模の魔法はそんなに撃てるものじゃないけどね。今の私ですら万全の状態でも連続して撃てるのは2回までで、2回も撃てばほぼ魔力が枯渇してしまう程の魔力消費量をほこる。


「コレの生き残りの始末が最後の手間ってわけだが……生き残りいないんじゃねぇか?全て消し炭だろこんなの……」

「ちょっと気が早いんじゃないかしら?」


 グレンは魔法が苦手だ。身体強化等の簡単な魔法は習得しているけど探知系は習得していない。

 なので判らないのは理解できる。そう、生き残りが出てしまったのだ。


「どうやらボスが耐えてしまったようですね……」

「周りを犠牲にして生き残ったのか……。正に暴君そのものだな」


 周りの魔物を犠牲にして一匹だけ生き残っていふ魔物がいた。ミノタウロスキングだった。手負いだけど……。


「ジャンヌ、お前は少し休んでろ。後の始末は俺がやる。あの規模の魔法だ。かなり消耗してるんじゃないか?」

「一割あるかないかくらいね。確かに魔力は枯渇気味よ。でもグレン一人で行ける?手負いとは言え強いわよ」

「任せろ、ボロボロの手負いに負けるほど俺は弱くねぇ」

「……なら任せたわ」


 グレンの目から放たれる鋭い視線からは獰猛な獲物を狙う狩人の欲望を感じた。

 現に私と会話しながら彼が見ていたのは敵の方角だった。


 ミノタウロスキングも流石にこちらに気がついたらしい。傷だらけでフラフラになりながらも雄叫びを上げて走ってくる。


「こいッ!デカブツの牛めがぁ!」

「ブゥモオオォォォォォオオオ!」


 グレンもミノタウロスキングに向かって走り出した。


 両者は距離を凄まじい勢いで詰める。そしてミノタウロスキングは石斧の射程に入ったタイミングで石斧を振り降ろした。一撃で粉砕するつもりだったのだろう。

 しかしグレンはそれを見切っていた。見切っていた彼は振り降ろされる石斧を避け、勢いを殺さずにミノタウロスキングの右脚を斬った。


 右脚を失い片脚では体重を支えきれないミノタウロスキングは前方へと倒れる。

 ミノタウロスキングはそもそも片脚を失い倒れたぐらいで終わるような魔物ではない。すぐに身を起こして座り、グレンに次なる攻撃を仕掛けようとしていた。


「へぇ、思ってたよりグレンも強くなってるじゃない」


 グレンの動きは素早かった。体勢を立て直すのは許したけど既にトドメを刺す準備を整えていたのだ。ミノタウロスキングの攻撃が走る前にグレンはヤツの首に剣の刃を当てていた。


 スパッ!


 何かが斬り裂かれる音がした。

 次の瞬間ミノタウロスキングの頭が首から離れ地面へと落ちた。


 グレンも強くなってる。間違っても教国に入る前の彼ではこんな芸当はできなかったはずだ。

 実際ミノタウロスキングの首は一撃で切断するのは難しい。それをあっさりやってのけたことから技術も一撃あたりの威力も増してる。


「負けられないわね」


 彼が実力を見せたのだ。私ももっと強くならないといけないわね。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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