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6話 戦争前の街

 聖都を発った私たちは教国西部の国境を越えバートラル公国に入国していた。


 既に全員が冒険者ライセンスを取得している。つまり冒険者として入国したことで面倒事を避けたのだ。これが聖人としての立場を明かすと政治的ゴタゴタに巻き込まれるからね。


 とは言え国境を越えるなり雰囲気が一変してしまった。


「とりあえずこの街で情報を集めましょう。情勢が変わってないとも限りませんし」

「確かに緊張した雰囲気があるな」


 アステリアとグレンがおかしい事に気がついたらしい。二人の言う通り雰囲気がおかしい。安定した平時とは思えないような感じがする。


 これ、聖人じゃなくても面倒事に巻き込まれる可能性あるわね……。


「あまり離れないようにね。この雰囲気は危ういわ。戦争の予感がする」


 そう、この感じは戦争の予感を感じさせるものだわ。前世でも戦争前はこんな感じだった。何処かピリピリしていて物価も上がっている。それに若者が少なめに感じる。と言うか社会が混乱気味な気がする。


 戦争前になると国が物資を集め出すので物価が上がる傾向が強い。それに若者が少なくなるのも徴兵されて連れて行かれるからだ。特に冒険者には盛んに傭兵依頼が勧められる。

 そんなこんなで社会が混乱するのだ。


 だけど皆はそれを知らなかったらしい。


「え?」

「どういうことなんだ?」

「おいおい、この国も戦争起こすのか……」


 その場で説明しようかと思ったけど、この場で話すのは危険過ぎる。下手にバートラル公国の手の者に聞かれると厄介だ。


「一旦この場を離れるわ。そうね、早いけど宿を探して入るわよ」


 室内に防音の結界を張れば大抵の盗聴は防ぎ切ることが出来る。まぁすり抜ける手も無くはないのだけどね……。そこまでしてくるとは思えないから大丈夫なはず。


 ちょうど近いところに良い雰囲気の宿があったのですぐにチェックインした。部屋は男女で分けて二部屋借りることにした。


 最低限の宿泊準備を整え男性陣の部屋に行き、そこで全てを説明した。当然男性陣の部屋に入った段階で部屋に防音の結界を張っている。


「もしや弱ったバルテシアを切り取るつもりなのか?」

「戦略的には十分あり得るわね。アステリア、バートラル公国の外交情勢は知ってるかしら?」

「私は知りません」


 原因はどこにあるのか、それを知る者がいた。


「俺、実はこの国の貴族でね。実家は爵位返上すら検討するほど没落しててな。だからこんな感じで自由に動けてるわけだが……」


 レインはまさかのこの国の貴族だった。

 貴族は外したつもりだったんだけど没落貴族がしれっと紛れ込んでいたらしい。


「実家からの手紙で国の上層部が弱っているバルテシアから領土を奪おうと画策したと言う話があった。だが国力が国力故に起こさないだろうと考えられるとも書かれていた。恐らく戦争が決まったのはここ数日、ザリファスの死でゴタゴタしている間に決定したのだろう」


 確かに理には適っている。戦争の判断はそんなに易々とは行えないのが常識だ。判断の時期が被ってしまい情報がない状態で入国する羽目になった可能性はあるのか……。


 仮にその判断が下されたとしたら問題が存在することが確定してしまう。

 それはバルテシアの弱体化が余りにも著し過ぎるということ、若しくはバートラル公国の上層部が余りにも愚かな可能性、そしてその両方とも考えられる。


 これはいよいよキナ臭くなってきたわね。


「周辺諸国から武器やら兵士やらを徴収していたのが引き金になったか……クソッタレが……」

「因みにバルテシア攻略の件はブラフの可能性もある。本命は南西の隣国ブリューラル王国と言う話もある。あちらとは最近関係が悪化しているらしい。公主を王国の一貴族と看做そうとして揉めたそうだ」


 憤るグレンに対してレインはさらに続けた。仮に戦争になるとしても相手国は何処か判らないんじゃ厄介過ぎる。だけどバートラルとブリューラルはほぼ同格の国力なので戦争になっても五分五分の勝負はできる。バルテシアとやり合うよりはマシなのかもしれない。


「どちらにしても長居は避けるべきね。下手に情報収集で動くとスパイ疑惑を持たれるわ。情報収集しておきたかったけどそうはいかないわね。レイン、立場明かした以上はフルネームを教えてもらえる?」

「あぁ、俺の本当の名前はレーネイン・フォン・ウォルネス、略してレインというわけだ。実家の階級は男爵、しかも没落貴族だから気にすることはない」


 ウォルネス男爵家ね、名前すら知らなかったので本当に没落しているかは別として弱小貴族なのは間違い無い。それに仮に没落しているのであればよく戦争の噂を入手できたものだ。普通はそんな情報は入ってこないからね。


「それが本当なら俺達が連れ扱いされかねん。纏めて戦争に駆り出される可能性もあるな」

「それは……あるかもな。実家の格を上げると嘯いて俺達に寄ってくる可能性はある。しかし俺がこの国の貴族だと分かるものなのか?」

「大抵の国には貴族の家族構成を掌握する為の組織が存在するわ。その気になればすぐにでも接触が来てもおかしくないわね。明日以降、急ぎ南下するわよ。経費は度外視で切り抜ける必要がありそうね」


 この会議で情報収集は中止、明日以降は急いで南下してこの国を抜けることを決定した。

 私としてはこの国でも稼ぎつつ南下したかったけど、あまりにも危険が多すぎる。全員がそういう判断に至った。そして南下する経路も獣道を抜けていくことが決まった。その方があまり見つからずに済むだろうという判断だった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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