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5話 葬儀

 ザリファスの葬儀は何故か私が執り行うことになった。

 御遺族が教国内に居住しているのは言え、すぐには動けないことが判ったからだ。


 彼の長男からは「仕事で動けないので亡き父の知人であり聖人である私に喪主代理を要請する」と連絡があった。遺族が喪主として葬儀を実施できない場合は原則として聖人が代理を務めることになるので要請自体に不思議はない。

 だけど親の死に目に立ち会えなかったのだから責めて葬儀には来なさいよ、とは言いたかった。何故なら家族関係が良くて尚且つ信心深い信徒らしいからね。ん?私は別よ。聖人だけど親とは仲悪いし、熱心な信者というわけでもない。それに為すべき使命があるからね。


 ただ聖人が故人の喪主代理となると葬儀の礼拝も喪主代理が仕切らなければならない。


 そもそも聖人でありながら神官の資格を持ってないし、そっちの勉強はあまりしていない。なので残念なことに簡易的な葬儀しか執り行うことができないのよね。


 そうした事情もあり、シーネリアからは依頼を断るように勧められてしまった。

 そもそも普通は面識の無い聖人に指名で喪主代理を依頼すること自体が望ましくない。それに指名した相手が高位聖人ともなれば無礼とされている。前世の面識は兎も角、今世では最近会ったばかりだから断っても角は立たないとのことだった。


 だけど私は受けることにした。

 前世での繋がりは捨てたくはなかったのだ。今の私があるのはあの時代を駆け抜けたからに他ならない。それを共に歩んだ知人を見捨てるなんて私にはできない。


 当日、聖都の影響圏内に住むザリファスの関係者が恐ろしい程集まった。


 簡易葬儀の礼拝とは言え、大聖女が執り行う葬儀だ。そんな礼拝に立ち会えるのは善き事とされるので縁ある者たちが集まった。


「ここに眠りしザリファスの御霊が天に上らんことを」


 私の祝詞で礼拝は始まった。これは簡易葬儀だろうと完全な形式に則った葬儀であっても神官の祝詞で始まるのだ。


 だけど簡易式と本式とで大きく違うのは祝詞の量だ。兎も角多いし特有の楽器も使わなければならない。今の私にとてもじゃないけど覚えてる暇は無いのである。


 葬儀の礼拝では祝詞の後に神官に続き参列者が遺体の前で死後の幸福を祈るのだけど、今回は異常な程に多い。簡易式では絶対に有り得ないらしい。この規模だと複数の神官で対応する様な葬儀の礼拝にするのが一般的だそうで、余りの長さに一部の参列者が顔を顰めていた。


 これでもかと言う程の参列者全員の祈りが終わった。

 本式だとここから色々とあるのだけど、簡易式なので最後の祝詞と共に皆で祈り礼拝は終わる。


「神々よ、我らの祈りを聞き届け給え、今は亡きザリファスの御霊を天に召し給え」


 最後の祝詞でこの礼拝を締めた。


 簡易式でもここから説法を行うこともあるのだけど、私の場合は神々の教えに関してそこまでの知識は無いので難がある。であれば、ここで締めてしまった方が無難である。


 しかしこの規模だとそうもいかなかった。


「え?説法は無いの?」


 参列者の一部が動揺を隠しきれず妙なボヤキを発してしまったようね。マナー違反だけど私のやってることも大概なので文句は言えない。


「まさかこの規模で簡易式、しかも説法も無いとは……」

「大聖女が喪主代理なのですよね?」


 あー、これはやらかしたかな……?素直に他の子に支援を頼めば良かったなぁ。


 どのみちここで下手なことはできないので先に進めてしまおう。


 葬儀の礼拝が終われば埋葬となる。


 埋葬にも手順がある。


 まず遺体を墓地の祭壇に置く。

 これを神官が炎で灰にする。この際、聖気で炎を起こして遺体を焼くことになっている。聖気の取扱が出来ない神官の場合は炎魔法で行う。なので一人前の神官になるには聖気か炎魔法を使えないといけない。聖人が行う場合は聖気一択だ。

 これは私にとっては難しくない。因みに参列者は焼いている間は祈り続けるのだ。


 火が収まったら残った遺骨を集めて埋葬用の木箱に蔵める。


 そして最後に木箱を決められたところに埋めて埋葬は終わる。


 祭壇に上り、遺体と相対したところで聖気で高火力の炎を起こし、遺体を焼いていく。

 それと同時に背後で参列者たちが祈りを始めたのが感覚的にわかる。この辺のカンは冒険者として培ったものなのか聖人としての能力なのかは判らないけど気にはしていない、いや、気にしてはいけない。


 遺骨を集めるのは補助の神官が行う。火の収まったところで墓地管理を行っている二人の神官が前に出る。私のような高位聖人は遺骨を集める作業は行わない事になっている。その間は私はお祈りだ。


 最後の地に埋めるのは私の仕事だ。決められた場所を掘って彼の遺骨の蔵められた木箱を納めて土で蓋をして墓標を建てる。

 掘り始めてからは無言で行わなくてはいけない。死者が声に反応して戻ってきてしまうとされているからだ。実際のところはどうなのかは知らない。本当は違うのかもしれないけど……。何しろ聖典の内容が正しいとは言い切れない例を知っているから疑ってしまうのよねぇ……。


 無事全てを終えたところで最後に喪主の挨拶となる。今回は代理人である私が行わなければならない。


「本日は我が友、ザリファスの葬儀の礼拝、そして埋葬に立ち会ってくださったこと、心より感謝申し上げます。喪主代理としてここに感謝を申し上げると共に皆様の御多幸をお祈りし、挨拶とさせていただきます」


 あまりにもシンプル過ぎた自覚はある。だけどコレを咎める者は流石にいない。これで葬儀に関する全ての儀式が終わり解散となった。


ーーーーーーーーーー


 その日の夜、聖人院の共通区画の一室に武者修行の旅に出るメンバーが集まっていた。グレンも特別許可を与えて入場させている。


「出発日の延期はもう無いという認識で良いですね?」

「そうね、葬儀が終わったので引き伸ばす必要は無いわ」


 そうなのだ、アステリアに指摘された通り、葬儀の礼拝を実施するに当たって出発日を延期していたのだ。


「グレン殿、情勢について何か変化が起きたとかはありますか?」

「いや、市中にそのような情報はなかった」

「バルテシアが問題を起こしたとかは?」

「それも聞いていない。どうやらバルテシア王国が劣勢だそうだ。グレイシア王国がしっかり国境を固めているようで返り討ちにされている。最早国力も低下して身動きがとれんだろう」


 私やレインの懸念は杞憂だったらしい。グレンの情報網には不穏な話は聞こえてきていない。これは好機ね。


「出発日は明後日よ、皆もしっかり準備してね」


 全員が頷いたところで解散となった。


 しかし……


「ようやく出てきたわね」


 部屋を出るなりシーネリアに捕まった。

 こめかみに青筋が立っている。これは嫌な予感がする。


「あんた、今日の葬儀の礼拝で無様を晒したらしいじゃないの。ちょっとこっち来なさい」


 どうやら簡易式で行ったこと、説法が無かったこと、そして規模に見合う準備をしていなかったことが気に食わなかったらしい。

 彼女の耳に苦情が入ったという知らせが入り激怒していたようだ。


 そのまま私はお説教を受けることになってしまった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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