表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/196

3話 動き出すフリード

 時が来た。

 ここからは進むは王国貴族の路ではない、儂が征くは己の信念と友を助ける旅路、手筈は全て整えた。

 王国貴族としての最後の勤めと位置付けたワルカリア掃討戦は既に終わっている。


「オヤジ、何故俺なんだ?考え直さないか?」


 息子のエリックは武人の道を選び、近衛騎士になっていた。だが今では次期当主だ。いや、間もなく当主となる。


「グレンなら次期国王であるアリシア殿下と良好な関係を築けている。それに対して俺はただの騎士で殿下とも関係はない。家のことを考えればただの騎士より……」

「言いたいことは分からなくもない、だがアヤツには貴族当主は向かんだろう。騎士となったお前の方が貴族としては素質がある。それに殿下は次期国王ではない、まだ王太子宣下も行われていない。王の座を継ぐのはローラン殿下であろう」

「王弟閣下も動かれました。すぐにでも戻って来ることでしょう」


 コヤツはまったく……。


 本来はジャンが継ぐ予定であり、本人も当主になりたくないという希望があるのは知っていた。抵抗するのも家督を継ぎたくないという思いが滲み出ておる。


 コヤツにとってもあの大馬鹿者が引き起こした一件のせいで全てが狂ったのだろう。儂が孫のグレンを養子にしたことで逃げられると考えていたようだ。

 尤も儂にはグレンに家督を継がせるつもりは無い。グレンは既にアリシア殿下、いや、アンに忠誠を誓わせている。既に教国で彼女の支援に奔走しているはずだ。


 エリックにはグレンの動きも彼女の正体も明かしてはいない。グレンも儂の密命で動かしているとしか伝えていない。これも彼女の動きを隠匿する為だ。知る者は少なければ少ない程良い。


「お前は彼女を舐め過ぎだ。あの王弟閣下が動かれたところで無駄だと言い切れる。いざなれば己の道に立ち塞がる閣下を斬り捨てるだろう」


 エリックは彼女の前世を知らない。知っているのは表向きの、王族として擬態していた彼女の姿だけに過ぎない。


「なっ……」

「故に陛下の命を王弟閣下が果たすことはない。であれば王位を継ぐのはローラン殿下だ。それならばグレンの人脈は意味を為さない。お前の方が逆に適任だ」

「兄者がいれば……」

「あの大馬鹿者のことは考えるな。それにな、そろそろ儂も自由に動きたいのだ。これまで貴族として己を徹底的に伏せてきたのだ。そろそろ解放してくれんか」


 嫌そうにはしていたものの、何とかエリックを説得することができた。これでようやく家督を譲り渡せる。王国貴族院に届出を出さねばな。


ーーーーーーーーーー


 無事に王国貴族院に届出を出したことで正式にエリックに家督を譲り、儂は社交のサポートを行うことで引継ぎも終わらせた。

 領地の経営は今は亡き妻の実家であるフルケン侯爵家に依頼してある。何しろ領地同士が隣接しているのだ。流石に侯爵も近衛騎士に無理に領地経営をさせようとは思わないだろう。纏めて管理してくれるはずだ。


 そもそも引継ぎ自体は昨年から進めている。エリックなら十分やっていけることだろう。


 そして儂は今、パルメルン市にいる。目的はヤツスナ殿と面会することだ。


「ほう、あの『迷宮の剣聖』と謳われたフリード殿か。本日は何用だ?」

「ジャンヌが依頼していたカンナ鉱の刀は出来とるか?」

「あぁ、この前完成した。……国境の噂を聞く限り依頼人に運ぶ手段が無いがな」


 前にもこの鍛冶師と会った事があるが前はこんなに存在感はなかった。恐らく彼も依頼の作刀の中で大きく成長したのであろう。だがそんな彼でもあの国境を越えることはできない。

 故に儂の出番となる。


「儂が運ぼう」

「良いのか?お前さんは貴族だろう?」

「家督はエリックに譲った。引継ぐことも早々に引き継いでおる。動けるというわけだ」

「だがあの国境はどう越える?」

「簡単な話だ。あの国境を通る必要はない。シートリアからポルルガトに行けば良かろう」

「船か……」


 流石にここまで言えば理解はできるか。

 彼の言う通り船を使い陸の国境を通らなければ良い。既にシートリアを治めるフルケン侯爵家からの協力を得ることに成功している。


 フルケン侯爵領の領都シートリアとポルルガト帝国のモータル市の港には商船の定期便が存在する。それを利用する計画だ。向こうにも知人が居るので会いに行くと言う名目なら不審に思う者は現るまい。


 長旅も久しぶりだ。王国貴族に列してからは一度も行っていない。冒険者として世界中を動き回っていたあの頃が懐かしい。


「それにしてもやけに楽しそうだな」

「まぁ久方ぶりの長旅だからな。貴族という立場はままならぬものよ」

「お前も面倒な道を選んだものだ」


 面倒……か。確かに貴族になって動きにくくなったな。

 儂が貴族になったのは傷心状態でありながら荒れていた己を諌めてくれた亡き妻とその実家の義理立てだ。流石に冒険者では高位貴族の令嬢なぞ娶れん。


「だが悪くはなかったと思うぞ」

「それなら良いがな」


 二人では大声を上げて笑い合い、そして刀を受領した。


 運搬し彼女に届けるのが我が任務だ。

 確実に届けてやろう。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

良ければブックマーク、評価、感想、レビュー等お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ