2話 同行者
私とグレンが武器を慣らし終わった頃、鍛冶師ヤツスナ待ち望んだ報告が来た。
3ヶ月掛けてようやくカンナ鉱から大太刀と太刀を拵える事ができたらしい。
先日届いた本人から手紙には当に修業だったと書かれており、加工するだけでも相当大変だったらしい。
何しろ初めは何をしても上手くいかず、色々と試行錯誤したとのことだ。
しかし彼は諦めること無く素材に向き合い、遂にその力の流れを掴み、加工の糸口へと繋がったらしい。職人技と言えば職人技だけど……聖人として覚醒してるか覚醒一歩手前まで来てる気がするのは気のせいかしらね?
ただ相変わらずグレイシア王国とチバンガ教国の国境は検問が厳しく、直接こちらに刀を運び込むのは困難と言う結論に至ったそうだ。
まぁこればかりは仕方が無い。何しろ教国とバルテシア王国は極めて仲が良く、戦時下である以上かなり警戒されているらしい。グレイシア王国では迂回してバルテシアに入らないように、武器等の軍需物資は越境させないようにしているとのことだった。
「ジャンヌさん、いつ出発されますか?」
「そうね……皆の日程が揃えば行けそうよ。まだグレンと出発日については話がついてないのよね。済まないわね、アステリア」
アステリアから遂に催促が来てしまった。
彼女も結局同行することが決まった。どうやら私とグレンだけで赴くのは手数不足では無いかと言う判断が教国上層部から下されたらしい。最終的にはアステリアとレインが同行することが決まった。やっぱり先日の迷宮行きは同行者選定の目的もあったらしい。
アステリアは元冒険者であるので十分やっていけるだろうと判断されたそうだ。私やグレンからしたら実力は低いけど、そこは私たちが鍛えてしまえば良い、簡単な話だね。
因みにユーリスティアは能天気で問題を起こしそうという理由で外されていた。本人は残念がっていたけど仕方が無い。
実力で言えばレインよりユーリスティアの方が上だったりするけど、レインはただの賢者で動きやすいのもある。
まぁそれでも大聖女だけあって彼女は魔力量多いので、同じ魔道士タイプでただの賢者でしか無いレインでは勝てるわけもない。魔法戦に於いては魔力量は正義だわ。
「と言うか、私たちに同行することになったのは良いんだけど……聖別された武器無しで本当に大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないですね」
だよねぇ〜。
でも話を聞けば二人にも後日武器が渡されるらしい。私の懸念は杞憂だったわね。
だけどレインは別のことが気になったらしい。
「それよりもカンナ鉱で造られた武器はどうするんだ?取り寄せは難しいぞ」
「それについては解決してくれたわ。フリードがポルルガトに運んでくれるそうよ」
「おいおい、フリードってあの迷宮の剣聖だったよな?確かドリビア子爵だったはずだ。そもそも動けるのか?」
「ミハイルが言うにはドリビア子爵家の家督を次男のエリックに譲ったことで機動性を確保したそうよ。昨年から準備進めていたみたいだしね。一年ある引き継ぎ期間に引き継ぎとかをあまり行わなくても大丈夫なんだってさ」
「おいおい……子爵家の先代当主を呼び捨てにして扱き使うとか恐ろしいぜ……」
「ん?フリードとは知り合いだし、ちゃんと関係築いてるから問題はないわ」
グレイシア王国では生前に家督相続させる場合は一年の引継ぎ期間が設けられる。この間は領地のことや社交のことを次代に引き継がせる為に公職に就くことが禁じられる。そうのると必然的に身動きは取りにくくなるのだ。
だけど家督を譲る前に引継ぎを始めてしまえば引継ぎ業務を少なくしても文句は言われにくい。
それにフリードは元冒険者で貴族として動かない限りは多少の無礼があっても見逃してくれる。
彼は当然のように私に全面協力してくれているけど、協力しているグレイシア王国貴族は彼だけではない。彼の働きかけで海運に強いフルケン侯爵家まで味方に付けたらしい。あの家も王家と協調して反体制派と化したブランデン侯爵家やトスリロテ侯爵家と盛大に政争を繰り広げてる状態で良く動けるわ。
それにしても何をどうしたら私の王太子就任に終始賛成していたフルケン侯爵家を引き摺り込めたのだろうか……?あの家に関しては何もかもが本当に謎だわ。
何がどうあれ、出発日がまだ先なら二人にはやるべきことがある
「二人はこれからしっかり鍛えるわよ。今の二人では実力不足なのは分かってるでしょ?グレンが長期依頼から戻って来るまで時間があるからみっちり訓練できるわね」
「うげぇ……どんな特訓が来るか知れたもんじゃないな……」
「訛った体を何処まで戻せますかね……」
二人とも顔を青くしている。
まぁ楽な訓練をさせるつもりはない。今のままでは話にならないからね。最低でもCランク上位からBランク程度の実力にはなってもらわないと困る。でもその程度ならそこまで時間かからずとも行ける気はする。
一応アステリアも元はCランクだしレインはユーリスティア程じゃないけど聖人だけあって魔力量は少なくない。つまり二人とも素質は十分過ぎるほどにあるのだ。頑張ればすぐに目標を超えられるはず。
「じゃあ、今日も訓練始めるわよ」
この日から私たち3人は頻繁に聖都の外に行くようになる。当然実戦を経験させた方が成長は早いからね。
前世から続く冒険者生活の経験則から正しいと言い切れるので私には躊躇いは無い。予定通り二人はヘトヘトになっていたけど……。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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