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1話 教国宝物殿

 聖都を発つ日が決まって早々、私とグレンは教国宝物殿に赴いていた。

 当然私たちでは入ることができないので教皇ガルブリエの引率付きだ。


 目的は私のカンナ鉱が使われた専用武器が完成するまで繋ぎとして使う剣の選定と、グレンの武器の選定だ。どちらも対魔族戦を考えて聖別された代物を選定する手筈になっている。


「聖別された武器はこの教国宝物殿に収められています。魔族と戦うとなれば確実に必要になることでしょう。次の旅路では何が起こるか判りません。用心するに越したことはありません」


 ガルブリエの言うことは正しい。教国神言院で調べ物をした結果、私が武者修行の地として目的としたイナキ王国は魔族信仰の民族が住む地域との最前線の一つだと判っている。


 イナキ王国の隣接地域はかつてカウチュ帝国と言う魔族信仰の国があったそうだ。魔族の助力や邪悪な加護の力で強力な軍事力を誇っていたと記録されている。さらに思想面でもかなりおかしな国であり、自国の民と魔族以外は全て奴隷として従属すべきでありカウチュ帝国こそが世界を支配すべきとされていたらしい。


 国家自体は教国から来た残歴転生者や周辺諸国の手によって滅ぼされている。

 しかしその地域の民族は滅んではいない。その書類が作成された時点では大昔の思想を継ぎ、邪悪な加護を受ける民族が跋扈している危険地帯とされていた。

 今はどうなってるのかは情報がない。つまり魔族との遭遇する可能性も十分に考えられるのだ。


「イナキ王国とは教国は国交があります。異教の国ですが、対魔族や対魔族信仰で共闘した時代から伝統的に繋がりがあります。先日の聖人覚醒の儀に参加された使節から伺った話では今でもカウチュ民族の侵攻が続いているそうです。魔族に遭遇こそしなくても魔族の邪悪な加護を受ける者からの襲撃が考えられます」

「なるほどね。危険だけど良い修業の場にはなりそうね」

「戦況は?」

「いえ、詳しい状況は不明です。ただ、国境の砦を中心とした防衛線で侵攻を阻止できていると聞いています」


 過酷だけどそれだけ強くなるチャンスでもあると……。実戦に勝る修業なんて無いからね。


 どちらにしても武芸者が多い国としても知られているので修業の地としてはかなり良質と考えていた。


 3人で会話しつつ宝物殿に入り、その中を進んでいく。

 そして無骨なとある扉の前でガルブリエが足を止めた。つまりこの部屋に聖別された武器が収められているわけね。


「御二人とも剣を所望と考えてよろしいでしょうか?」

「えぇ」

「あぁ」

「分かりました、案内します」


 ガルブリエは扉の鍵を開けて先に進んでいく。

 部屋の中は数多の棚が並んでいる。その並んでいる棚には無数の武器が納められている。しかし無秩序に並べられているわけではない。武器の種類に合わせてゾーンが分けられている。まぁこの程度は当然か……。


 武器も斧から槌の様な重厚な武器から、弓や個人携行型の投石機の様な飛び道具まである。当然一般的な武器となる剣や槍も大量に収められている。


 ガルブリエの案内で剣が納められている区画に辿り着いた。


 剣もひたすら雑多な剣を陳列しているわけではない。ショートソードはショートソード、大剣は大剣といった感じで細かい分類に合わせて固められている。

 当然のようにここにある武器は経典にあるタイプのものしか存在しないけどね……。なので刀はここには存在しない。残念だけど仕方が無い。


 因みに武器の素材にはカンナ鉱が使われているとは限らない。祝福の儀式によって聖別されただけのただの鉄剣なんて物も納められている。


 ただ一つ言えるのは、ここにある全ての武器から聖気を感じる。それだけで聖別されているのが判る。しかし時が経つと弱くなるのか、元々然程強力な加護を受けていなかったのか、あまり強くない聖気しか放っていない武器もあるけれど……。


 なので私が鑑定していく必要があるわね。聖気を感知できないグレンでは誤ってあまり強力では無いのを選んでしまう可能性もあるからね。


「グレン、気になる武器があったら一度持ってきてね。鑑定するわ」

「ん?なんで?」

「聖別されているのは間違いないんだけど、その聖気には差があるわ。聖人ではないアナタでは判らないでしょう?」

「そりゃ仕方が無い」


 グレンに鑑定の必要性を説いたところで武器選びを開始する。


 武器の形状、聖気の強さ、手に取った感触等を確かめていく。

 何しろ数があまりにも多いので時間がかかる。

 選択肢が多いということは選ぶのも難しくなってしまう。

 それでも一つ一つ吟味していく。なぜなら武器は命を預ける道具なのだ。妥協なんて許されない。妥協なんてして死んでしまったら全てが終わる。そんなのは受け容れられない。

 故に真剣に吟味していく。


 そして長い時間を掛けて私は1つの剣を選択した。


 長さは冒険者が使う標準的な刃渡りの剣より少し刃渡りが長い剣を選択した。

 私の戦闘スタイルならこれが合う。鍔の形もあまり邪魔にはならず、重量も良い感じの重さだった。当然聖気もそれなりに強い部類なので魔族に対して手痛い打撃を与えれるだろうと考えてソレを選択した。


 因みにグレンは冒険者にとって標準的な長さの物を選んでいた。

 彼の武器選びは私より時間が掛かっている。まぁ一々私の鑑定を受けているので無駄に時間が掛かっていた。それでもグレンも真剣に武器を選択していた。


 これで納得がいく武器が選択できた。

 これで教国を発つ準備も最終段階ね。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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