52話 元凶
「まさかここまで辿り着く猛者がいるとは思わなかった」
「あら?質が低かったじゃない。あんなのに遅れを取るわけがないわ」
「ここに辿り着けるのであればそれもそうか」
眼の前にいる魔族は邂逅していきなり襲ってくるわけではなく知性的な会話をしてきた。先日戦った魔族に比べて非常に慎重でこちらを伺うような隙のない姿勢だ。
侮れない、ここまで知性的で隙がないと戦闘技術も高い可能性が高い。
これは彼らを連れてこなくて良かったわね……。残念だけど彼らでは太刀打ちできない。
「しかし我の姿を見られてそのまま帰すわけにはいかん」
凄まじい殺気だ。確実に殺す、そんな気配を漂わせている。
だけどそれはこちらも同じ。こんなところで魔族を発見して放置するわけにはいかない。当然ここで果ててもらうつもりだ。
ここまで敵を蹴散らすのに用いてきた大太刀をしまい大輪花を出した。
対魔族戦は聖別された武器を用いた方が戦いやすいからね。まぁ聖人として覚醒した今なら普通の武器でも聖気を流し込むことで擬似的に聖別された武器と同等の効果をもたせることは可能なんだけど。
「ふむ、聖別された剣か……。我らのことをよく理解しているようだな。だが……それだけで我を討てると思っているのであれば愚かというほかあるまい」
凄まじい踏み込みとともに接近してきて攻撃してきた。
その爪の軌道、体の体勢、魔力の動き、それらに一切無駄が存在しない。魔族特有の身体能力に加え、力任せではなく蓄積された技術に基づく戦闘技術まで兼ね備えている。
聖人として覚醒して無ければ一瞬で押し切られ絶命していたわね……。聖気が私を守ってくれた。
でも私も負けるわけにはいかない。私だって数十年単位で戦闘技術を鍛えてきた。己の誇りにかけて負けるわけにはいかない。
絶えず繰り返される攻撃を躱し、防ぎ、弾いていく。その間に敵の動きをよく観察していく。敵の癖を知ることができれば弱点を突く糸口になるからだ。
因みに反撃は最小限にしている。魔族は腕が4本というその身体的特徴から手数が多い。特に技術に長けた奴が相手だとその手数の多さで反撃に踏み込んだ隙を狙われる可能性もあるからだ。
戦い難いことこの上ない。
しかし妙なことに魔族が戦闘用の魔法を使う素振りがない。
戦闘技術の高さは認めよう、でも戦闘技術が高いなら魔法を織り交ぜて来る方が自然だ。なのに魔法を使ってこないのは明らかに不自然であり、使えない理由があると見るべきだった。
気づいてしまえば観察の方向性は絞ることができる。
そしてその違和感の正体は簡単に見つけることができた。
「なるほど……」
「何に気づこうがお前はここで死んでもらう」
どうやら私に最大の問題点を気づかれたことに気がついてないらしい。
より深く魔力の動きを探知したことでこの魔族が魔力制御をこの迷宮の汚染拡大に注力させている事がわかった。つまり最大限振り分けている為に戦闘で魔法を使うことができないのだ。
汚染拡大を打ち切らないところを見るに戦闘技術に自身があることが判る。
だけど見事なまでの隙だった。晒しても勝てると考えてるあたりは慢心でしかない。
気がついたところで戦闘に変化を与えることにした。
こちらが聖気の放出攻撃や攻撃魔法を織り交ぜたところ、一気に動きが悪くなったのだ。弱点を突けたと見て良い。
「馬鹿な……何故ここまで高度に魔法を使いこなせるのだ!」
「ここに辿り着くのに魔法無しで辿り着けると思ったのかしら?」
特に聖気を用いた攻撃は効果が大きく、防ぐために汚染拡大を弱めた程だ。
攻撃に鮮やかさを欠いたことでこちらの攻撃が届くようになった。
まずは手数を増やしている元凶の腕を斬り捨てた。1本斬ったところで警戒心を誘ったけど2本目も斬れた。ここで遂に奴は汚染拡大を停止させ戦闘に集中することにしたらしい。
「幾ら聖人と言えどもまさか人間如きに……」
奴の顔は屈辱に満ちていた。
だけど完全な戦闘態勢に入ったところで既に傷は深い。戦い方に鮮彩さはもう無かった。
腕2本になった段階で人間と大差はない。
であればもう負けることはない。
「くっ……!」
首元を狙った私の斬撃を残った腕の一本を犠牲にして防いでいた。
しかし斬撃は防いでも次の手を防げるとは限らない。私は斬撃と共にもう一つの攻撃を仕込んでいた。
「ぐああぁぁぁああ!!!!」
私が身を引いた瞬間、奴の胸が爆散した。
練り上げた聖気を胸元に叩きつけたのだ。
決着と見て大丈夫ね。
トドメとして動けなくなった奴の頭を大輪花で貫いた。
奴がいなくなったことで時間はかかるかもしれないけど元の状態に戻っていくだろう。
魔族の死体を回収して迷宮の外へと向かった。
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