表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/196

49話 新たな計画

 聖人覚醒の儀から1ヶ月が過ぎた。

 非常に濃密な1ヶ月間だった。


 あの後、厄介な叔父のブルハクプス公爵は私の身柄引き渡しを再度要求してきた。彼がこの国に来たのはそれが目的だから想定の範疇でしかなかった。本当に鬱陶しい。

 教国も聖人を襲撃するような貴族がいる国に大聖女と言う高位聖人を送り出す訳にはいかないという結論を出していたので徹底的に私を守ってくれた。それだけサラ嬢の失態は大きかったのだ。


 これに同調したのがバルテシア王国だった。

 バルテシア王国の目的は明らかだ。単に私を恐れているのだ。特大戦力がグレイシア王国に戻れば領土奪還は不可能になる。私が教国にいることを掴んだ以上は確実に戦争に打って出るはずだ。正直私が抜けたくらいで敗けるほどグレイシア王国は弱くはないのだけど……。


 仮に叔父が私を無理矢理グレイシア王国に連れ帰ったところで待ってるのは二正面戦争、とてもじゃないけど分が悪い。バルテシア王国との戦争だけでも結構な負担になる。その状態で『聖人保護』の名目で教国に攻め込まれたら流石に国力が保たない。

 バルテシア王国に私の存在がバレたことを理解したブルハクプス公爵は手を引くしか無かったのだ。


 騒動はこれだけでは済まなかった。ウォーカス王国の面倒極まりない大馬鹿者、バスカル王子が暴走したせいでその始末にも追われた。

 こちらは私を娶って軍事力をつけようとしていた。何しろ私は個人の武力で一軍を粉砕できることを証明しているからね。


 これは話がどんどん面倒になったので私の方から決闘を申し込んだ。私が勝ったら私を永遠に諦める、私が敗けたら結婚してやると条件を付けてやってね。本当は交渉権を認めてやるってだけでも良かったんだけど……。

 決闘を申し込んだ理由は簡単だ。一気に方を付けることで余計な論争を終わらせるのが一つ、もう一つは実力差を利用して大馬鹿者を事故死させることを狙ったのだ。


 流石に女性聖人の決闘の事例が無かった為、ほぼ全ての関係者から反対された。だけどあの大馬鹿者は乗り気だった。剣の実力なら護衛で勝てると勘違いしていたのだ。

 なんと決闘を承諾して護衛の騎士を代理人として差し出してきた。ぶっちゃけヘタレ過ぎる。


 この決闘はブルハクプス公爵をはじめとする各国の使節も見ている中で行われた。無論条件も通知済みだ。

 結果は私の圧勝で終わった。事故死こそ起こさなかったけど片腕を斬り落としたので再起不能になっている。本人が相手なら何が何でも首を狙ったけど。

 本来決闘は無力化する程度で終わるものだけど私は容赦なく殺すつもりで勝負を仕掛けている。これは違反ではないし、実際に決闘の事故死は仕方がないものとされている。

 当の本人は唖然としていた。これで何もかもが終わったのと同じなのだから。


 因みに彼は帰国した後、ウォーカス王国のとある没落男爵家に婿として王家から追い出し……もとい婿入することになったそうだ。ものの見事に滅亡してたね。


 そんなこんなでバタバタしつつも各国の使節が全て去った後、私はグレンを聖都の近郊の森ででこっそり会っていた。密会を選んだのは今後の動きを悟られないためだ。


「ようやく政治的なバタバタが収まったな」

「アンタは他人事よねぇ……渦中の人間は大変だったわよ」

「まぁ俺は教国の指導者でもなければ王国の指導者でも無いからな」

「それはそうだけどさ……」


 事実、彼は蚊帳の外だったところがある。

 私が聖人覚醒の儀に参加している間も長引いたスタンピードの最前線で活動していた。


 当然フリード直々の指導を受けている彼は強い。その強さから戦場で圧倒的戦果を挙げ、教国から表彰されたらしい。

 その功績で冒険者ギルドからはなんと二階級昇格でDランクからBランクに上がることを打診されたそうだ。

 本来はBランク以上に上がるには試験の突破が不可欠だけど、元Sランク冒険者が当主を務める貴族の家名を持ち圧倒的実力を見せたともなれば話は変わるらしい。学があるのは確実とされ、試験なんかするまでもないと言う判断が下されたのだと思う。


「ま、俺も一昨日まで暇じゃなかったけどな」

「それもそうよね。噂には聞いてるわよ。異名持ちになったそうね」

「あぁ、そうだ。いつの間にやら『二代剣聖』なんて仰々しい呼び方されてるしな。剣聖って呼ばれたのは間違いなくじいちゃんの影響だろうな」

「ははは、間違いないわね!」


 他国にまで名声を轟かせ孫の異名にまで影響与えるフリードは流石だと思う。


 でも雑談はここまで、そろそろ本題を話さないといけない。


「本題に入るわ。そう遠くないうちになると思うけど、私はこの国を出るつもりよ」


 彼は当然といった顔をしていた。


「そうだろうな。この国は祖国の隣国、そして礼儀知らずのバルテシアの隣国で友好国でもある。あまり長居したい国じゃあ無い。政治的な面倒よりかはマシだけど喧嘩吹っ掛けられることも少なくないしな」


 そう言い切るなりため息を付いている。

 私の知らないところで彼もかなり面倒事に巻き込まれてるわね。


「向かう先はイナキ王国か?」

「そのつもりよ、ただ……」

「祖国を通るわけにもいかんし、南下してポルルガト帝国の海に出ようにもバルテシアを通る必要あるか……。バルテシアを通るなら急いで通る必要があるな」

「それ以上に問題なのは戦争は避けられなさそうな雰囲気があることよ」


 戦争地帯を通り抜けるのは難しい。有力な冒険者だと徴兵されるリスクもある。そのリスクは少なくない。

 彼は驚いた顔をしている。


「ま、まさか……」

「そのまさかよ。私の正体がバルテシアにバレたわ。ちょっと予想外だったわ」

「あぁ、連中は好機と見做すわな。そりゃ確かに戦争になる。となると迂回する必要があるのか」


 彼の察しの良さは有難いわね。こうしたところでも成長しているのは助かる。初めてあった頃の彼だったら無理だっただろうね。


「えぇ、バルテシアの西のバートラル公国を抜けるつもりよ」

「まぁそうなるわな。んじゃあ、俺が一度偵察に行ってくるか」

「頼めるかしら?費用は前払いで出しておくわ」


 私は金袋を一つ彼に差し出す。

 中には大量の金貨が入っている。その額はなんと平民3人家族の一年の生活費に匹敵する額だ。


「金払いが良いな、助かる」

「それじゃ、頼んだわよ」

「お前は聖都周辺で待っててくれよ。また手紙は出す」


 彼の偵察は本当に役に立つ。彼を働かせる分、私が荒稼ぎしてこないとね。シーネリアに迷宮に潜る許可を要求するか。彼女が頭を抱えそうだなぁ。


 彼と情報を交換して別れた。次会うときは彼が聖都に戻ってきたときね。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

良ければブックマーク、評価、感想、レビュー等お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ