48話 カンナ鉱
聖人覚醒の儀の夜、私はガルブリエと面会していた。
「事件が起こること無く儀式は無事に終えることができました。今年は普段にはない警戒すべき要素があったので教皇として安堵しております」
「えぇ、魔族やテロリストの襲撃、一部の使節の暴走等が懸念されてましたからね。……普段でも起こり得る何かがあるのですか?」
「えぇ、あの洞窟の内部で命を落とされた方もいらっしゃいますしね」
うん、余計なことを訊くんじゃなかった。
それはさておき、本当に何事も起こること無く、無事終えられたのは奇跡と言って良いかもしれない。
まずは軽い雑談から入った。
いきなり重たい話はしたくはない。
ある程度会話が温まったところで本題に入ることになった。
「さて、貴女が私に面会を要請したのは何かあったからでしょう?貴女だけ聖洞の滞在時間が長かったのは少し気になっていたのです」
そう、私の聖洞滞在時間が普段の2倍近くに達したというトラブルは一応起きていた。
疑問の声が挙がっても運営サイドで上手に誤魔化してみせたそうだけど、一歩間違えれば問題化していたそうだ。危ない危ない。
遅くなった理由は間違いなくあの試練だ。
あの戦闘は時間が掛かりすぎた。その分得るものも多かったけど周りに迷惑をかけたことには代わりはない。
試練についても説明しなければならないわね。私にとっての本題は別にあるんだけどね。
その試練についての説明したところ、彼は驚きはしたものの納得顔になった。まぁそりゃそうだろう。まさかあの聖洞の中で試練が行われるなんて思わないだろうし、そもそもそんな場所に導かれることは普通はないそうだ。私が特別だけだったらしい。
因みに儀式自体は聖洞に入って導かれるままに進み、その先で宝石の原石を手にして戻ってくることになっている。
その手にした宝石が何かで聖人としての区別がわかるとのことで、想定されていた区分を外れることもあるらしい。それに極稀にだけど徳が足りないのか聖人としての格に達しておらず宝石に導かれない者もいる。
今回は30人中2人が外れたらしい。女性の聖戦士候補が聖女として覚醒したのと、賢者候補の1人が聖魂人だったなんて事があったようだ。ちょっとしたハプニングだね。
私自身は大方の予想通り聖女だった。いや、ただの聖女ではなく大聖女だったらしい。同期の聖女たちがあんぐり顔をしていたわね。
「それはそれは……まさか神々の試練に巻き込まれておられるとは思いませんでした。道理で時間がかかったのですね」
「それなんだけど、どう考えても私が試練で戦っていた時間が長過ぎたのよね。あの時間で3〜4人は聖洞に入って戻ってこれたわ。一体どうなってるのかしらね?」
「ほう、それは興味深い現象ですね。もしかしたら神々の配慮だったのかもしれませんね」
「だとするなら経過時間は非常に短くなっていたと思うんだけど……」
「それもそうですね……」
まったく謎の現象だわ。
彼も頭を抱えていた。
「まぁこの件は記録を残すに留めておくだけで良いでしょう。他に何かありましたか?」
この話題を打ち切ったのは英断かもしれないわね。それにそう、他にも何かあったから問題なのだ。
私は言葉を発する前にマジックバッグから一つの物体を取り出した。
それは試練の間の先、宝石があった間で採れた鉱石だ。なので導かれるままに宝石と共に採取させてもらったわけだ。
流石は教皇だった。
一目見ただけでこの鉱石が何かが判別できたらしい。驚愕して固まっている。
「これは宝石と共に導かれるがままに採取してきたものよ」
「まさかこれは……」
「恐らくカンナ鉱だと思うんだけど……」
「この輝きと聖気からして間違ってはいないかと思います」
私の方に向き直った彼の顔は複雑そうだった。
「これも神々の思し召しなのでしょう。我々の代わりに神々によって導かれるとは……これも神使故でしょう」
あー、そう言えばそんな話もあったわね。探す支援をすると言う話は無くなったわね。完全に。
だけどこの鉱石、今はあくまでもただの鉱石でしかない。
使えるように武器にしなければいけない。
「神々の思し召し……ねぇ……。1つ気になってるのは加工に制約が無いかってことですね。……やっぱりあったりしますか?」
「無くは……無いですね。一応存在します。ただこれまでの記録の中では例は少ないですね。政治的な失態が少しあるだけです」
どうやら過去に加工できなかった例があるらしい。
話を聞いてみるとどうやら使用者と鍛冶師との仲や相性が重要とのことだそうで、過去に教皇の指示でお気に入りの鍛冶師に任せて加工できなかったとのことだ。どうやらその鍛冶師と使用する予定の戦士との仲が極めて悪く、それが原因で加工できず責任問題にまで発展したらしい。
私としてはヤツスナに依頼したいと思ってるんだけど、教国上層部が反発する可能性が非常に高いらしい。まぁ教国でのグレイシア王国の評判は良くはないし、ヤツスナ本人も聖典にない武器である刀を打つからね。
無理にでも教国の息のかかった鍛冶師に依頼させようとすることが予測される。
「こればかりは教皇として過去事例を元に押さえ付ける方針ですが、それで彼らが納得するかは未知数です。それだけは覚えておいてください」
説得はしてくれるらしい。
期待はしないで強引に輸送する手立てを考えておこう。
この後は普通に雑談をして面会の場を辞した。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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