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47話 試練

 グギャアアァァァアア!


 魔物の咆哮が鳴り響いた。


 聖なる結界の中に本来は魔物など現れるわけが無い。なのに現れた。つまりこれは……神々の試練のようね!


 振り返ってみると背後に一体の獣型の魔物がいた。それにしてもいつの間にここに現れたのだろうか?本当に不思議だわ。


 一目見ただけで簡単に分かる。急に現れたこの魔物は強くはない。

 しかし思うようにはいかなかった。


 その魔物は私と向き合うなり、いきなり突撃してきた。丸腰の状態で受けるのは望ましくない、普段なら余裕で避けられるはずだった。


「くっ……!」


 本来なら余裕で避けられた攻撃を避け損なって一撃もらってしまった。

 痛みと共に血が出ている。左の腋下に爪による大きな引っ掻き傷をつけられてしまった。どうやらこの空間は何かしらの妨害の力場を発生させているようね。戦い難くて仕方が無いわ。


 この試練の内容は、戦い難いこの空間で如何にして己の実力を発揮できるようにするか、ってところかしらね。

 恐らく輪廻神様が仰る修行と見て良い。ここを突破する鍵は聖気そのもの、つまりこの空間に漂う力を自在に操れるようになれってことだと考えられる。

 今は聖気は感じ取れるだけ、この空間にいる間に聖気を操れるようになれというのもかなり無茶な気がする。酷い試練があったものだ。


「流石にマズイわね」


 何故かいる魔物はこちらの事情はお構い無しに襲ってくる。魔物だからね。

 対して私は普段より大きな力で無理やり体を動かすことで対処していた。当然隙も多いし、非効率的だ。避けるだけで精一杯という体たらくで他に誰もいないのが幸いだった。


 この状況を打破する為に私は聖気に馴染むように体内の魔力を調節していた。


 聖気は正直なところ魔力に近いものだと私は考えている。なので魔力操作の応用でなんとかなるのでは?とも考えていた。まぁあくまでも近いもので聖人として覚醒するまで完全に感じ取れるとは言い切れない状態だったことから、異なる力であることは確実だ。

 でも聖気の性質は些事でしか無い。それより重要なことはあくまでも扱いこなせることなのだから。


 魔物の攻撃を避けつつ、体内の魔力を操作してこの空間の強大な聖気を受け入れるように少しずつ調整をしていく。それは常に気を張らなければならない繊細な作業。それでもここで手を抜くわけにはいかない。そうするしか勝ち筋はない。魔法で派手にやるわけにもいかないし。


 そうして調整すること一時間くらい経った頃、遂に体が少しずつ軽くなりだした。

 この強い聖気による妙な力場に慣れてきた証でもある。それと同時に聖気の扱い方に少しずつ慣れてきたように思えた。


 ある程度普段通りの動きで敵の魔物の攻撃を避けられるようになってきたところで聖気を攻撃に利用することを試みた。

 既に聖気自体は自在に操作できる。力を操作できるのならその力を攻撃に転換することも可能なはず、仮にできなかったとしてもその他の活用方法を探れば良い。


 実験の時間だ。


 まずは空間から体へと魔力を取り込む感覚で聖気を取り込んだ。体に聖気が満ちていき、まるで空間と一体化していくかの様な感じね。この結界に閉じ込められた空間を全て把握しているかのようにすら思える。


 体に満ちた聖気を己の意思で動かしていく。

 濃縮し、右手に集め、そして放つ。

 攻撃魔法を放つ感覚でそれを放つ。


 放たれた聖気は魔物に直撃、全身に大火傷を負わせた。

 だけどまだ死なない。死に損なって、大怪我して、それでも尚強くこちらを睨みつけてくる。視界はほぼ無いはずだし、嗅覚と聴覚も最早機能していないはずだ。それでもこちらを睨みつけてくる。まるで気配で私を探っているかの如く……。


 トドメを刺そう。もう敗けることはない。後はどうやって締めるのが一番良いのかを考えるだけね。……あっ、良いアイデアを思いついた。


 佩いてきた刀を抜き払って構えた。丁度いいから聖気を刀に纏わしてみることにしよう。最後の最後まで実験はさせてもらおう。


 だけど武器に聖気を纏わせるのは難しかった。

 普段やっている様に魔法で武器を強化するようにはいかなかったのだ。


 聖気は魔力とは違って武器に流しても上手く定着せず霧散してしまう。制御が非常に難しい。


 でも何度も繰り返すうちにコツのようなものを掴みつつあった。コツを掴めば制御方法は自ずと導かれてくる。

 例えば発せられる聖気を流体のように扱って鎧として機能させたり、その力の性質を利用して治癒魔法として機能させることも出来る。

 単純性と即効性は高い。反面、魔法とは違って応用性に欠けるようだった。以前ユーリスティアが聖気を利用してアンデットを浄化する際に詠唱していたのを覚えている。でも今ここで色々と試したことで詠唱は不要じゃないかと考えるようになってきた。挙動が魔力に比べて単純なのだ。


 コツさえ掴めれば後は武器に合わせて制御を調整するだけだった。

 少しずつ刀に聖気を馴染ませていく。こうすることで少しずつであるけれど、武器に聖気を纏わせて維持することができるようになっていく。


「ようやく……ここまで来たわ……」


 さらに長い時間が過ぎた。

 ここまで集中的に訓練をすれば苦手なものも克服されていく。当然聖気を武器に纏わせる事もできるようになった。


「さぁ終わらせましょう」


 私は踏み込みんだ。相対する魔物にトドメを刺すために。しかし魔物も重症を負いながらも戦意を見せ、未だにこちらに飛び掛かって攻撃をしようとしてくる。


 重症を負った手負いの獣に遅れを取る程私は弱くはない。


 間一髪で魔物の爪を避けるとそのまま首元を斬り裂いた。


 サクッ!という爽快な音と共に魔物の首が落ちる。こんな音、聞いたことがない。これが聖気の力、素晴らしい切れ味ね。


 そんなことを考えながら刀を鞘に納めると周りの景色が変わっていった。

 そして元の洞窟の広間へと戻った。

 どうやら結界が解けたらしい。そして目の前にはさっきまでは存在しなかった通路が開通していた。


 カンが告げている、試練はもう無いと。

 そして安堵した。ようやく試練は終わったのだと。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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