46話 聖人覚醒の儀
「此処に集いし者共は聖なる祝福を受けし者共なり。神界より我らを導き給う聖なる神々よ、新たなる祝福を受けし者共に真なる導き給え。導かれし先を示し給え」
教皇であるガルブリエの祝詞と共に儀式が始まった。
聖人覚醒の儀、覚醒前の聖人の素質を持つ人々を覚醒させ、聖なる力を振るえる存在へと昇華させる儀式。
ベムツヘレにある聖洞の手前に広がる広場には教国の宗教上の重鎮たち、聖人候補、そしてその後ろには新たな聖人たちを祝福して政治的結びつきを得ようとする諸国の使節団が集まっていた。
快晴の空、覚醒前でも感じられる神聖さ、脈動する大地の魔力、これぞ当に神々の祝福と言わんばかりだ。
これらは祝詞と共により一層強くなる。
そしてこの場にいる人たちの中でもこれらを比較的感じやすい人たち、魔力感覚に優れる人ほど気がついている様子だった。それこそ何が起きたのかと狼狽している者や震えている者もいる。
聖人候補ですらこの有様なので後方にいる使節団で気がついた人たちはどうなんだろうか?
そんな状況など考慮されること無く儀式は進んでいく、長い長い祝詞の終盤に差し掛かったところで高位聖人数人が教皇の前に出た。それぞれ手には祭具を握っている。
「ここに我ら神々の御啓示を望む、真なる道を開き給え」
その言葉を最後に祝詞は終わった。
祝詞が終わると同時に聖洞の方から轟音が鳴り響いた。中で何かが動いて崩れて道ができたのだと理解できた。
この儀式は教皇の祝詞で始まり、聖人候補たちが1人ずつ聖洞の中に足を踏み入れ祝福を手にすることになっている。因みに聖洞の中では神々の意思によって祝福に導かれるらしい。実際入ればわかるそうだ。曖昧過ぎて何なのやら……。
因みに聖洞に足を踏み入れる順番は慣例では保護された順番らしい。ただ、あくまでも慣例で情勢や諸事情で順番が左右することもあるらしい。
私は本来は一番最後の予定だった。そう、一番最後の予定だったのだ。
なんと一昨日の夜、高位魔族を単独撃破してしまった影響がここにも現れてしまった。まさかの先頭になってしまった。
理由は単純、私が覚醒すれば魔族との戦闘が容易になると考えられたからだ。
戦闘能力の高い私が正規の聖人として覚醒すれば魔族相手でも比較的容易に倒せるだろう。と判断されるのは必然なのは理解出来る、出来るのだけど釈然はしない。
そもそも近づいてくる前に倒せと言いたい。
聖別された武器を持ち、己自身も聖気溢れる武装神官たる聖戦士が警備に動員されていながらこれは酷いと言わざる終えないわね。
私は微妙な気分で聖洞に足を踏み入れた。
第一印象として聖洞の中は明るかった。とても洞窟とは思えない明るさだった。この段階で既にここが超常の聖地であることを理解した。
先に進んでいくと分岐に当たった。
普通、洞窟や迷宮等で分岐に出くわせば道に迷う。どちらが正しい道なのか、どの様な構造なのか、誰でも迷うはずなのだ。私もこれまでに何度も経験している。
しかし今回は違った。
明らかに迷う場面、地図もなければ印もない、何かの気配を感じることもない、ただ分岐があるだけ、迷わないわけがない。なのに自然とどちらに進むべき道がどれか、選べてしまった。
そう、判断材料が無いにも関わらず道を選択してしまったのだ。判断材料を強いて挙げるならカンだけといった感じ、でも皆の言葉を信じるなら神々の加護なのだろう。
正直に言えば不気味に感じた。だけど先に進むしかない。これは逃げるわけにはいかない儀式なのだから。
とは言え、急に魔物が現れたとか、神々が妙な試練をぶち込んできたとか、不測の事態に備える必要はありそうね。
万が一その手の情報がないナニカが起きようとも対処できるようにしておく必要があった。
体内の魔力を循環させ、いつでも戦闘やら異常事態に対処できるようにしておく。
魔力循環に留めて武器を抜かなかったのは、この聖洞のように狭い場所では振り回し辛くなる長物は逆に不利になるからだ。だったら魔法と身体強化に任せた格闘戦に備える方が有効なのだ。
そうして進んでいるうちに聖洞の最奥の間へと辿り着いた。
そこは非常に大きな空洞であり、その中央には自然の岩塊をそのまま利用した祭壇らしき存在が鎮座していた。
まずはその岩塊の前で祈りを捧げた。
祈りと同時に強大かつ膨大な聖気が大地から、そして私の体から溢れてきた。
こんなの感じたことがない。もしかしてこれが聖人の特性なのかしらね?
溢れかえる聖気が空間を支配していく。もはや姿勢を解こうにも体が動かない。まるで何らかの力が働き金縛りにあったかの様に私の体が動かないかったのだ。
そして金縛りが解けたのを確認して祈りの姿勢を解き、周囲を確認する。
そして理解した。この空間そのものが結界に閉じ込められたことを。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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