44話 後始末-2-
「その光ってる刀が大輪花かしら?」
「そうよ。正直、何が起きてるのか分からなくて困ってるの」
大輪花を見たシーネリアは興味深そうにしている。どうにも何か知ってるのか考える素振りを見せていた。
早朝、起きて早々に昨晩の出来事を知ったシーネリアから早速呼び出しを受けていた。
余程昨晩のことが気になったらしく、彼女の天幕に入るなりいきなり大声で問い詰められてしまった。本来なら大声は聖女としても貴族令嬢としてもはしたないと言われてるのにその姿を晒していたのでちょっと驚いた。
因みに彼女は早々に爆睡状態になっていたらしく、昨晩の戦闘には気がついてなかったそうだ。それで衝撃が大きかった可能性はあるかもしれない。
「しかし聖典に存在が確認されない武器でこの様な現象が起きるとは思いませんでした。貴女が殺してしまったゴードンの派閥は大混乱に陥ると思いますわね」
ん?ゴードン?
あぁ、冒険者のことを舐め腐ってたアイツのことか。確かにあの過激な発想ならこの現象は気に食わないだろうね。だって自分たちの解釈を神々に否定されるのと同義だからね。
それにしても「この様な事象」という言葉を使うとはね。やはり彼女は何か知っているらしい。
「この現象に何か心当たりがあるのね?」
「えぇ、私としてもまさかのまさかですわ。この様な神秘に逢うとは実に幸運なことです」
「その神秘とは?」
何故ここで勿体振るのか……
「貴女が残歴転生せし神使ということは存じております。この武器は前世で使用されていた物ではありませんか?」
「よく分かったわね。この刀は死ぬ寸前に用いてた"大太刀だった"ものなのよ。死後、大輪花を打った鍛冶師が折れた刀を太刀として打直した物なのよ。転生して対面した時は驚いたと同時に懐かしく思ったわ」
「戦死した時に使っていた武器、故に聖別されたと考えられますわ。本来、武器の聖別というのは大掛かりな儀式を行ったり特殊な素材を使うことにより起こる神秘です。残歴転生に選ばれたことへの祝福と捉えるべきですわね」
聖別された祝福されし武器になっていたとは思わなかったわね。でもそれならあの魔族に有効打を与えられたのも説明がつく。
一般的に魔族は穢らわしい邪悪な存在として知られている。これは聖典に限った話ではなく、普遍の常識として知られていることだ。故に聖なる力には弱く、高い戦闘能力を持つ聖人による討伐例が多い。
普通の魔族ですらこの有様なので高位魔族ともなれば討伐は非常に困難を極める。それこそ聖人として覚醒した者が関わらない討伐例はほぼ存在しないのだ。
「つまり大輪花はいつの間にやら聖別されてたから魔族にとってはとんでもない脅威だったってわけね」
「簡単に言えばそうなりますわね」
これは一つ朗報だわ。
魔族とは何れ戦わなければならない。初の戦いが昨晩だっただけでこれからも戦っていかなければいけない。つまり連中を確実に打ち倒せる力が要求されると言う事、武器一つで有利をとれるのは極めて大きい。
また、未覚醒聖人の分際で有利をとれたので正式な聖人になれば一気に戦いやすくもなると考えられる。そう考えると明日の儀式への期待が高まるわね。
「貴女が聖人として目覚めれば魔族の脅威度が大きく下がりますわ。フフフ、本当に影響が大きいですわね」
「知りたいことはしれたわ。そろそろ私も時間だから護衛部隊のところ行ってくるわね」
だけどまずはベムツヘレに辿り着かないことには何も始まらない。辿り着くまでは仕事をしないといけないわね。
「分かりましたわ。また後でお会いしましょう」
ーーーーーーーーーー
護衛部隊の指揮所天幕は殺伐としていた。
原因は分かっている。昨晩、ブルハクプス公爵がこちらの要請を破って夜間に出歩いていた件と魔族出現の件のはずだ。
皆が集まってきたところで隊長が口を開いた。
「集まれる者は集まったな。まずは今日の日程についてだ。予定では昼過ぎにベムツヘレに到着することになっている。各々警戒を怠らないようにしてくれ」
流石にいきなりは重たい話題はぶち込んで来ないか。
だけど表情が非常に硬い、ここからが本題と見て良いだろう。
「皆も知っているとは思うが、昨晩2件の事件が起こった。一件目は言うまでもなく魔族が出現した件だな。野営地のすぐ近くで魔族との戦闘が行われた。幸い魔族はすぐに討伐されたが周辺の地形が一部変わるほどの猛攻が行われたそうだ。奴らは見つけても安易に手を出すな、まずは報告する様にしてくれ!」
御尤も、だけど私みたいに見つかってしまって逃げられなくなったらどうすれば良いのかな?
まぁ普通は生きて帰れない可能性の方が高そうではあるけれど……。
「二件目はグレイシア王国の使節団の正使ブルハクプス公爵が警備の穴を突き、我々の要請を無視して夜間に外出をしていた事が発覚している。各国の使節に万が一の事があれば大問題と化す故、担当の者は監視も強化せよ。担当外の者も最大限協力してもらう」
私の叔父が迷惑をかけて申し訳無いわね。幾ら実家との絶縁を宣言しているとは言え、残念なことに無関係では居られない。彼に見つかってしまった以上は王家の者であると広められる可能性があり、とばっちりを受けてしまうかもしれないのだから。
「それとジャンヌ殿については出発前に教皇猊下のところに行くようにせよ。どうやら大事な話があるらしい」
ん?まさかの呼び出し?
何があったんだろう。
このミーティングの間、この事が頭を離れることは無かった。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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