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42話 魔族

 公爵が去ってすぐに私は夜間見回りの順番が回ってきた。

 やることは簡単、野営地の全周を回って異常が無いかを確認する。異常があれば対応する。それだけだ。


 幸い私の見回りの時は魔物が時々小規模な襲撃をしてきただけだったので非番を起こすこともなく瞬殺できていた。


 しかし事が起こったのは下番直後だった。


「なにこれ!?」


 明日に備えるために天幕に入って休もうとしたその時、周囲に急激に禍々しい魔力を感じた。しかもその魔力を放出してる奴は少しずつ近づいてきている。この感じ、ワルカリアの数段危険な相手だと本能が告げている。これは本格的にマズイことになる。


 私は武装を解くことなく天幕を飛び出すと魔力の出処の方に向かった。

 まずは偵察、相手が何者かを知ることができれば先んじて対策を取ることができる。バケモノと対峙しなければならない以上はやるべき行為だ。


 森に入り身を潜めつつ進んでいく、ソイツは森の中にいた。


 4枚の黒い翼を生やし、4本の腕を持つ人間に似て人間と異なる存在がそこには居た。


「アレは……魔族……?」


 魔族……伝説や神話に語られる神々や人間の敵として登場する厄災の使徒……。邪なる者は魔族の中から現れると言われている。


 実在はするだろうとは思っていたけどこんなところで遭遇するとは思いもしなかった。


「おい、そこに誰かいるな?」


 マズイ!気取られた!

 この場で戦って勝てるかは分からない。限界まで気配を殺して逃げるしかない。


「ほう、逃げるか、逃がすと思うか?」


 放たれた波動は森の木々を一気になぎ倒していく。当たれば即死は免れない。全力で防御系統の魔法を発動しつつ姿勢を低くして回避行動を取った。


「くっ……めちゃくちゃしやがって……うん……?」


 周囲の視界は開かれてしまった。

 奴の攻撃こそ何とか避けることはできたけど完全に見つかってしまった。

 こうなってしまえば一か八かやるしかない。


「コソコソしていたのはお前か」


 答えるわけにはいかない。

 私も奴も相手を観察している。


 抜刀しつつ改めて奴を見る。


 基礎的な能力は私が数段下、肉体も魔力もまったく勝てない。


 勝ち筋はほぼ無いと言っても良い。

 唯一あるとすれば技術面だけどそこは読めない。強いのか弱いのかすら分からない。


「神使か……再び現るとは神々もしつこい」


 一瞬で見抜かれた。

 どちらにせよ、やることは変わらない。


 奴は翼を使い飛び上がると鋭い爪を突き出しつつ突進してきた。

 しかし飛翔高度は低いこれなら刀が当たる。


 短絡的かつ直線的な攻撃を当たるわけが無い。うまく避けるとそのまま足元を斬りつけた。


「ムッ」


 奴の足には傷がついている。切断なんて夢のまた夢、傷も浅すぎる。

 それどころか刀が刃毀れしている。コイツ硬すぎるでしょ……。


 至近距離に居続けるのは危険、飛び退こうとした瞬間、振られた奴の爪が飛んできた。


 回避は不可能だった為、刀で受けつつ吹き飛ばされる形で距離をとった。

 しかしそんな行為をすれば壊れかけの刀なんてすぐ折れてしまう。刃毀れしたところから先が無くなっていた。持っていた刀を捨てると予備の刀を出して向かい合う。


 僅か一瞬の攻防だったけどそれだけで重要な情報が幾つか集まった。


 一つ、無駄に頑丈であり、傷をつけるのは難しい。

 一つ、攻撃自体も強力で腕は素早いので油断しなくとも防ぎきれない可能性がある。

 一つ、戦闘技術自体はお粗末で体のスペックだけで戦っている。


 つまり問題は戦闘技術の低さを補っても余るほどの身体スペックであると結論が出た。


「素晴らしい実力者だな。滾る、実に滾る。ここまで楽しめるのは実に30年ぶりだ」

「めちゃくちゃね……」

「おうよ、これが俺様の戦い方だ。お前さん、実に良い。そうだなぁ、お前さんを改造し体を奪うのも良いかもしれんな。アイツの遺した秘術ならそれも可能だな」


 恐ろしいことを言う。私の体を奪って何をするつもりかしらね?


 ともかくコイツはここで殺すしか無い。


「体を奪うならまずは無力しなければなぁ」

「させるかよ!」


 技術で大きく上回るならやりようはある。

 今度は私から突っ込む。


「ほう、勝てないのに勇敢なことだ」


 適当に腕を振るえば勝てる、そう考えているのだろう。実に単純、故に速度調節や姿勢変換等のイレギュラーが入るとカウンターが成功しない。


 それだけではない、私は『爆炎球』を用意しており、それを顔面に向かって放つ。そうすれば流石の魔族と言えど防がざるおえない。


 そこまでして作ることができた隙に背後に回り翼を斬りつけて片翼を落とすことに成功した。

 それでもやっぱり刀をまた一本折ってしまったけど……。


「ぐぎゃあああぁぁぁあ!』


 流石にからだの一部を切断された痛みは凄まじかったらしい。余裕を失い絶叫している。


 動きが鈍ったのを見てすぐに離れて反撃を受けないようにする。


 さらに予備の武器を取り出すも奴が動き出してしまった。その顔は怨みに満ちており、凄まじい形相で私を睨んでいる。

 次の瞬間恐ろしい数の魔法が放たれ、地を抉っていく。とにかく乱射して私を倒そうとしているらしい。この物量はちょっと想定外ね……。


 魔法攻撃やその余波で飛んでくる岩石や木片を防いでるうちにまた武器を潰してしまった。


 仕方がないので次の武器を取り出す為にマジックバッグに手を突っ込んで次の一本を握った。普段はある程度選んで取り出している。しかし今はそんな余裕はなかった。取り敢えず握った物を取り出した形だ。


 そして取り出された得物はあの大輪花だった。

 無意識のうちにそれを取り出していた。

 そして取り出した大輪花の刀身は何故か光っていた。


 直感が告げている、コイツなら奴を倒せる。


 実際飛んできた魔法を付与魔法なしに斬り払うことに成功した。

 そうして敵の弾幕を削ぎつつ近づくことができた。勝つにはこの刀しか無い、故に接近しなければならない。


「おのれぇ!小娘がぁ!」


 物理攻撃の射程に入ったのか奴の腕が振られ爪が迫ってきた。私は姿勢を変えることでそれを避け、爪に刃を当てた。すると爪から腕が綺麗に斬り裂かれた。


 奴も驚きで目を見開いている。


 驚いた隙を持って袈裟斬りで左肩口から右脇まで綺麗に斬り裂いた。これなら心臓もやれたはずだ。


 袈裟斬りが決まると同時にヤツの体は力を失い倒れた。


「お、の、れ、こ、む、す、め、が……」


 その言葉を最後に魔族は絶命した。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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