40話 野営地
聖都を出発した隊列はベムツヘレに向けて前進していた。
到着は翌日である。しかし夜間の移動は危うい為、道中の街で一泊することになる。
街の宿には他国の使節が泊まることになっている。それに対して教国の関係者や聖人、聖人候補は街の近くの野営地で野営だ。
泊まる予定の野営地はかつて神々より啓示を受けた教祖が魔物と闘いつつ100日に渡って野営した修行の地でもあると聞いているぞ。今となってはその野営地の近くに街が興り、野営地そのものは聖地として扱われている。
聖職者や聖人がここで野営するのは当時を偲ぶ目的があると言われている。そして毎年この時期は夜間に魔物の活動が活発になるらしく、必ずと言って良いほど襲撃があるそうだ。
どう見ても一般人には厳しいのでは?
私のような根っこからの武人なら何とでもなるけど怯えて廃人化する可能性も懸念事項じゃないかしらね。まぁ襲われても対処できるように護衛部隊が組織されてるんだけど……。
でもどうやら私の考えは甘いらしい。
シーネリア曰く、
「その程度で潰れてしまう様な存在では聖人になれませんわ。恐怖で体が竦むことはあったとしても心が折れてはなりません。聖人は心が屈強でなければならないのですよ」
とのことだった。
思ったより逞しいらしい。
そんなことを考えながらも特に襲撃や問題が起こることなく宿泊地に辿り着いた。
他国の使節の街の宿に案内した後、街の外にある野営地に向かった。
街の宿は毎年のこの行事への対応の都合で教国政府から援助を受けてるそうで、かなり豪華な宿だった。
野営地は街の外の見晴らしの良い高台にある。
高台を少し進むと開けた岩場になっていて、そこの崖から見下ろす景色は実に美しいらしい。
その景色は後で見に行くとして皆と共に野営と夕食の準備を行わなければならない。
遊ぶのは後、まずは聖女候補としてのお務めを果たす必要がある。まぁ私の場合は護衛部隊の一員であり、警備の見廻りもあるので免除された活動もあるけどね。
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野営準備と夕食が終わった後、私は例のポイントに来ていた。警備活動の私の担当時間まではもう少しあるからだ。
そこにあったのは見渡す限りの豊かな自然、そして完全に夜になる前だと言うのに空には星々が輝いている。偶にはこんな場所も良いわね、心が洗われる。
高台から教祖が100日もここに居続けたのも頷ける。確かにこんな絶景は見たことがない。素晴らしいとしか言いようが無いくらい美しい。
「あら、ここにいらっしゃったのですね」
ふと後ろから声がした。
振り返ってみると聖女候補の仲間たちがそこにはいた。
「私達もここの噂を聞きつけて来たのです」
どうやら彼女たちも同じことを考えていたらしいわね。
「確かにキレイよね。危険だから暗くなる前に戻りなさいよ。貴女たちは武装してないから何かあったら死ぬわよ?」
「そこはジャンヌさんがいるじゃないですか」
「強い仲間が居てくれて安心ね」
頼るのは良いのだけど、もう少し身の程を弁えて欲しいわね。護衛対象が居るか居ないかは戦闘の難易度に大きく影響する。取れる選択肢も減るので自衛能力を持たない彼女たちにはここに来てほしくはなかった。
ため息を吐きつつ彼女たちの相手をしていると次第に暗くなってきた。
暗くなったらなったで崖の下に広がる森は暗所発光性の動植物によって神秘的に光っていた。これはこれで美しい。
だけど……
「夜になると危ないからそろそろ戻るわよ」
私はここで打ち切り戻ることにした。交代まではもう少し時間があるけれど何かあると不味いからね。
皆も渋々だけど戻ってくれることになった。
野営地に戻ろうとしたその時だった。なんと野営地の方からやってきたのは武装した3人の男だった。そのうちの1人は知っている存在、グレイシアの王弟たるブルハクプス公爵その人だ。
残りの2人は服装からして護衛の騎士だ。
「あの人たちは?」
聖女候補の1人が純粋な疑問を口にした、してしまった。
服につけている紋章を見ればグレイシア王国所属と分かるはずなんだけど……と言いたいところだけど今年の聖女候補は私を除いて全員が平民出身者だから判らないのは仕方が無い。
帰るよう促そうにも私が言えば声でバレる。しかし彼女たちでは荷が重すぎる。完全に逃げられない、どうしたものか?
「ようやく見つけたぞ……兄者のところのお転婆娘め……」
あらら、バレちゃってるわね。
「ジャンヌちゃん、あの人の親戚なの?」
「ウェルシーヌ、確かにそうだけど……。ここで下手は打てないわ。ちょっと皆控えてて」
小声で怯えている聖女候補たちに説明してから彼女たちの前に出た。私が対応するしかない。まずは誤魔化しを図ってみるか。
「ブルハクプス公爵、ここは危険です。そもそも散策はお控えくださいと事前に説明があったはずです。宿にお戻りください」
「それ言えばお前も国に戻るべきであろう。それに後ろにいる娘共も野営地に戻るべきだな」
やはり目的はそれか。
あまり国政に影響が出ないようにしたつもりだけど、どうやら私のことを余程諦めたくないらしい。
ブルハクプス公爵は私の後ろにいる聖女候補たちに一瞬目を向けて戻すと強い口調でこう言ってきた。
「この儀が終われば大人しく帰ってもらうぞ。アリシア・フォン・グレイシア第二王女殿下、これ以上家出を続けられては困るのでな」
私の前の名前を出したのは私を追い詰める為だと思われる。一種の離間策を仕込んできたのはすぐに分かった。王族と平民では立場に差がありすぎる。後ろの娘たちは隔意を抱くだろう。
だけどそれは阻止しなければならない。
惚けることは許さないと言う意思表示だろう。
「その名、その名に纏わる立場は捨てるとお父様には通告したはずなのですが?」
「そんなもん認められるとでも思うか?」
そうでしょうね。絶対に私の離脱を認めたくはないはず。押し切るつもりなのだろうけど、この状況に気がつく者がいた。
公爵の後ろから武装した何人かが近づいてくるのが分かった。格好からして教国の聖騎士団所属の隊員で間違いないだろう。
しかもわざとらしく音を立てて歩いている。公爵に気が付かせる為だろうね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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