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39話 出発

 聖人覚醒の儀の出発当日、私は聖戦士の詰所に向かった。

 本来儀を受ける聖人候補は護られる側なのだけど、私に限ってはその高過ぎる戦闘能力を買われて護衛部隊に入ることになった。なので法衣の上から刀を腰に差し、マジックバッグを持ってきていた。


 出迎えてくれたのは今回の護衛部隊の指揮官だった。そして開口一番……


「お?例の超武闘派お騒がせ聖女候補が来たか」


 酷い挨拶があったものね。

 超武闘派なのは良いとしてお騒がせは要るのかしら?


「武闘派であることは認めるけどさ……。その挨拶は無いんじゃない?『おはよう』じゃないの?」

「確かに『おはよう』は抜けていたな。だがお前さん、この国で何度事件を起こしてくれたか、数えているか?短期間に問題起こし過ぎだ」

「3回かしらね」

「7回だ」


 うん?そんなに起こしたっけ?あの地下道の件とギルドで乱闘騒動起こした件、そして傲慢な賢者を斬り捨てた件ならわかるけど、他なんかあったっけ?


「妙な所から入国してくるわ、教皇庁で乱闘騒動起こし、聖都の街中で2回の喧嘩騒動、更には高名な大賢者を斬り捨ててくれたな。そしてこの前はウォーカス王国の王子を徹底的に無視して先方から猛烈な抗議がきている。昨日は祖国の貴族と一悶着あったと聞いているぞ。何をどうしたらこうなるのかね?」


 は?これ全部私のせい?おかしくない?

 しかし巻き込まれた案件やこちらに責任のない案件まで言われても困るとしか言えない。どうなのかしらね?


「教国政府の腐敗やら強盗犯の件は私に非は無いわよ。それにウォーカス王国の王子って王族として極めて見苦しいゴミでしょ、王族の恥たる真似しかできないゴミらしく己の立場くらい弁えて欲しいわね。あ、そうそう、昨日の件だけどアイツらどうなったの?」

「一度に纏めて話さないでくれるかね?まぁいい1つずつ話していくとしようか。確かに貴女の言う通りアンタに問題のある案件は少ない。教国政府の腐敗は前から言われているし、強盗犯は我々の管轄の問題だ。……我々は急激に忙しくなったがな……。あぁ、これだけは言わせてくれ王族の存在は厄介だから刺激しないに限る、余計な喧嘩を売らないでくれ」


 分かってるなら邪険はしないで欲しい。しかし王族を恐れてるけど分かっていれば幾らでも対処できるのにしないのは怠慢だ。


「昨日お前と聖女頭を襲撃した者たちは今は牢に放り込んでいる。普通に考えれば処刑だが安易に執行する訳にもいかない連中ゆえ、後日国境で身代金を回収して身柄引き渡しの予定だ。既に例の公爵に抗議した上で王国本国にも抗議と教国の要求を伝える使者を送っている」


 まぁ妥当なところか、だけど疑問があった。


「弱味を握れているのに対応が甘いわ。王族相手でも対処は可能、怠慢よ。まぁそれは置いておくとして、2つ疑問があるわ。1つ目だけど連中と公爵の面会は?」

「こちらからは面会させないようにしている。しかし公爵本人がこちらの裏をかいて接触した可能性はある」

「捕縛した人数は?」

「襲撃した7人だが?何かあるのか?」


 やはりか……最後の1人が何を仕出かすか判らないのが今後の懸念事項ね。


「公爵への連絡役を1人取り逃したわ」

「ふむ、留意しておこう。他に疑義はあるか?」

「無いわ」

「雑談はここまでにしておこう。そろそろ大会議室に向かおう。そこで今回の護衛計画の最終説明と細かい編成発表がある」


 細かいことはおしまい、取り敢えず仕事に頭を切り替えよう。そんなことを考えながら大会議室に向かった。


ーーーーーーーーーー


 昼過ぎ、私は聖女たちの近くにいた。護衛部隊の編成上は彼女たちの近くに配置されていたからだ。

 作為的なものを感じるけど気にしないことにした。まぁ聖女候補である私には聖女や聖女候補の近くにいて欲しいのだろう。それに全体の編成にも政治的意図は透けて見えた。


 教国は神使となる私を他国の目から離しておきたいのだろうと考えていた。

 何故なら今年の編成では聖戦士候補、聖女候補、聖魂人候補、賢者候補と続き、他国の使節が最後尾にきている。

 この順序のうち先頭と最後尾は変えることが出来ない。しかし今年は例年と大きく異なる編成でもある。例年、聖女は他国の使節との顔合わせを兼ねて他国の使節の前にもってくるのが当たり前だった、なのに今年は事実上の先頭、これは明らかに作為的だった。


 聖女と使節を近づけておくのは男性使節たちが聖女と結婚することがあるためだ。顔合わせの場として利用してる面もある。因みに他国は今回の編成について文句を言うことはできない。あくまでも教国側の意思が絶対になる場面なのでこれにケチをつけるのは不正な内政干渉となる為だ。


 そういう意味では今回の編成は私にとっては極めて都合が良かった。

 だけど……


「ジャンヌさん、先に行っておきますが、ブルハクプス公爵もバスカル殿下も貴女のことを諦めるつもりは無いようですわ」


 シーネリアから齎された情報は無視できるものではなかった。


「まさかと思いますが慣例通りにしなかった理由でも問うて来たと?」

「えぇ、その通りですわ。ローレンシア殿下が諌めておりましたが効果はありませんでした」


 まぁグレイシア王国の王弟であるブルハクプス公爵に意味を為さないのは分かるけど、妹から正しい知識に基づく指摘を受け入れないバスカルって本当にどうなのかしらね?それでもこっちは対処方法はあるか。


 ブルハクプス公爵は恐らく分を弁えた上で強硬姿勢を採ったのだろうけど、それにしても強引なやり方で彼らしくない。本当に何を仕出かすか予想がつかない。油断はしないようにしよう。


「その二人が争ったとかは無いのかしらね?」

「公爵の眼中には無いようですわ」


 やはり問題はバスカルより叔父のブルハクプス公爵だったわね……。


 はぁ……気が重い……


 そんなことを考えていたら出発の時間になってしまった。

 仕方が無い、移動しながら考えよう。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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