38話 任務を受けし貴族たち
お茶会の翌日、私はシーネリアと共に冒険者ギルドを訪れた。
目的は聖人覚醒の儀に向かう一行の護衛任務についてギルドを通すことだ。
ギルドを通しておけば冒険者として依頼を受けたと言う実績になるから重要だ。
ランクを上げるつもりが無いとはいえ、依頼をこなす冒険者は評価が高くなりやすい。これは冒険者として活動していく上で大きなアドバンテージになりうる。
「えーと……聖人覚醒の儀における道中の護衛依頼の応募ですね。少しお待ち下さい」
一応今回の移動には護衛計画が元々立てられており、その一環として冒険者ギルドへの依頼発注も行われていた。基本的にはそれに参加する形になる。
ただ私の場合は集合場所に行くことができない為、特殊条件付与の手続きが必要になる。発注元の重要人物であるシーネリアがいるのでその辺の手続きは比較的簡単に進む。聖女頭の権力恐るべし……。
少し時間は掛かったものの、すんなり手続き自体は終えれた。しかしここで予期せぬトラブルに遭遇した。
手続きを終えギルドを出たところで事件が起きてしまった。
なんとグレイシア王国の関係者がギルドに入ろうとしていたところだった。
「あら、お久しぶりじゃない」
サラ・フォン・ヘルヴィルム、パステルの街で遭遇した軍務卿の娘だ。そしてその周りには7人の男女がいた。
「お久しぶりね、でも貴女の相手してる暇はないわ。生憎この国の要人と一緒にいるのでね。どいてもらえるかしら?」
「そうはいかないわ。ジャンヌちゃん、貴女には公爵のもとに来てもらいます」
そう来たか。
すでに彼女の取り巻きとも言える冒険者たちは私とシーネリアを包囲するように展開している。
「もしかしてグレイシア王国貴族を出とする冒険者たちかしら?」
「えぇ、私に話しかけてきたのは軍務卿の娘よ」
「最悪ね……」
小声シーネリアは質問してきた。無論私も小声で答えを返した。彼女は既に恐怖で震えて青褪めている。彼女は荒事への耐性はなかったようで、もうマトモに動ける状態ではない。
つまり私は完全な足手まといを抱えた状態だ。
「何をコソコソと話しているのかしら?我が国への敵対行為として処置します」
その一言で相手方は全員抜剣した。
シーネリアを殺し私を回収するつもりね。このままシーネリアが命を落とせば洒落にならない外交問題になるのは確実だ。こっちも手を抜くわけにはいかなくなったので私も腰に佩いていた刀を抜いた。
「ジャンヌ殿の隣の女の生死は問いません。2人を捕縛しなさい!」
その号令と同時に展開していた6人が襲ってきた。一人は何処へやら走っていく。多分彼は連絡役で向かう先は使節団のトップである私の叔父のところだ。大小の差はあれ外交問題化は避けられなくなった。
「そう易々やれると思ってるのかしら?」
私は結界魔法を展開してシーネリアが攻撃を受けないように保護した。彼女は攻撃を受けずとも人質にとられるような事があればマズイ、対処はできないからだ。私だけなら個人の武勇には自信もあるし対処の仕方はある。
「フンッ!結界なんか砕いて……」
まずは一人、結界めがけて剣を叩きつけようした男の綺麗に斬り捨てた。断末魔さえあげさせない。
状況判断をまず間違えている。こんな短時間で張れる結界なんて術者を消せばほぼ確定で消せるのに何故か結界に目を向けている。もはや隙だらけでどうにでもできた。
因みに他の者たちは剣を振るうことなく攻撃を防げるように保っていた。一人浮いていた分、仕留めやすかったのだ。
ただ、これで全員の気を引くことになった。とは言え、全員腰が引けてるけど……
隙を突いて一撃で仕留める、言うのは簡単だけど実際にはかなり難しい芸当だ。少しでも戦闘行為に携われば嫌と言うほど理解する。
「嘘……でしょ……」
流石のサラ嬢も顔面蒼白だ。
「同じ国の貴族の仲間なのに何故……」
「あのねぇ、そもそも聖人が特別視されるこの国で聖女頭への殺害予告なんかしてタダで済むと思う?まず生きては帰れないのは確定、大々的に指名手配されるわよ。そんなことになるくらいなら『地に染れば地の一部』となるべきね。冷酷でも何でもない、単なる合理的手段よ」
「王家の使いともなれば帰れるわよ」
「考えが甘いわ、周りを見てみなさい」
そう、騒ぎを聞きつけた市民たちが集まってきている。そこに込められた感情は怒りに近い、何故なら聖女は聖人の象徴が如く崇められてる節があり、その聖女への襲撃は相当な怒りを買う。しかも今回はその最上位の聖女頭への襲撃、市民たちから許されるはずもない。
「え?まさか……」
ここに来てようやく不利を悟ったようだ。
だけどもう彼女たちに打開策は存在しない。ギルドからも武装した冒険者たちが野次馬として出てきている。戦力的に圧倒的に追い詰められるのだから。
こうなった以上はさっさと降参してくれると楽なんだけど期待はできなさそうね。
そんな中、野次馬の中に意外な人物がいた。
「やれやれ、何の騒ぎだ?」
「グレンじゃない、グレイシア王国貴族として貴方も協力しなさい!」
「サラ姉さんか、で、協力しろって言われてもこっちは状況を掴めないんだが……」
グレンは困り果てた顔をしながら状況理解に努めだした。まぁ様子を見れば頭抱えたくなる様な状況だとすぐ理解できるはずだ。
「ふーん、お前たちが聖女を襲撃してジャンヌが聖女仲間として庇ってる感じか。この国で聖女に襲撃とか頭おかしいんじゃないか?」
「グレン、私が保護してる娘は聖女頭よ。聖女たちの頂点と言えば分かるかしら?それにこの娘を殺しても構わないってさ」
「うん、終わったな」
そして剣を抜くなりサラに向けた。
剣を向けられた彼女は驚いた様子だ。
「お前、この場でその首を刎ねてやろうか?」
「そう、反逆するつもりなのね」
そしてグレンとサラの死合が始まった。
2人の戦いは凄まじい剣戟の嵐となった。
両者共に剣士、そしてその実力は両者共にAランクに匹敵しうる実力者だ。
そして両者の実家の違いのよく現れた戦いでもある。
サラは由緒ある伯爵家の令嬢、故に使う剣術はベルタグル流だ。
それに対してグレンはフリードの孫で養子だった。剣術も祖父の影響を受けていたようで、昔の流派であるボスリン流だった。アレ、転生前の時代の冒険者たちの主流で個人的には懐かしい剣術だったりする。
私から見たら2人の戦いは古の冒険者と騎士の剣術争いと言える。
だけど拮抗とまではいかない。流石に徹底的に実戦で鍛えられた彼は強かった。少しずつ彼女が押されていく。
「くっ……前はこんなに強くなかったのに……」
「…………」
彼女の愚痴はあっさり聞き流される。無言で攻める彼の方が明らかに優勢に傾き出した。
まぁ死線を潜ってきた経験の差がそのまま出てるのでしょうね。フリードがそんな生温い鍛え方するとは思えないし、実際私から見てもグレンは強い。
彼女は恐らくお忍びで動き出したこともあって死線を潜ってきた経験は少ないはずだ。あくまでも貴族令嬢としては強過ぎる部類だけど、全体で見ればそこまで飛び抜けてるわけではない。
「サラっ!……ぐふぉっ……」
遂に取り巻きの一人が居ても立ってもいられなくなり介入を始めた。
まぁ私に背後を見せる形になっていたので背後から刺し殺した。敵に背後を見せるとか隙でしか無いので格好の獲物だ。
「また一人やられたぞ!」
「おい、どうする?どう離脱する?」
「この程度で動揺するとは情けないわね」
混乱し始めたグレイシア王国貴族の集いは私からしたらカモだった。1人ずつ素早く各個撃破していくことで瞬く間に制圧できた。しかも残ってた4人の中、3人を怪我させるだけに留めて生捕にすることに成功できた。
尚、彼女はまだ彼を相手に粘っていた。
だけど見るからに体力的にも精神的にも相当疲弊している。そろそろ頃合いかしらね。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「あら?私が残りを片付けてる間に息上がってるじゃん。思ったよりやるようだけど武人一筋の人間には敵わないようね。グレン、コイツはできれば生捕にしたいわ。主犯として確保できれば優位に立てるからね」
「分かった」
「に、逃げ道を……」
どうやら煽ったことで完全に折れてしまったらしい、最後の力を振り絞って逃げようとしてるけどそうはさせない。
あっと言う間に私達は彼女を制圧することに成功した。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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