37話 使節(下)
来週は個人的な事情により休載となります。
ご容赦ください。
ローレンシアはお茶会が始まるなり、いきなり爆弾を投下してきた。
「ジャンヌさんとレンヌアネットさんの間で何があったのです?」
「貴族の権力闘争なんてやってられないわね」
「王女の貴女がそれを言いますか……」
シーネリアはもはや呆れ顔になっていた。
私は政治的野心も無ければ権力欲も無い、使命さえ果たしてしまえば後は自由に生きることができればそれで良いのだ。王族に転生したとは言え元々冒険者だし貴族社会にはやはり違和感と言うか居づらさを感じている。
しかし貴族たちはそうは見てくれない。油断すれば、隙を晒せば己の権力欲の為に全てを貪りに掛かってくる。本当に野暮な連中だ。
因みにレンヌアネットは口を紡ぐしかない。政治的立場から同郷のシーネリアと争いになるのは目に見えているのだから。
しかしローレンシアは1つの答えに達してしまった。
「もしかして残歴転生……ですか?」
シーネリアとレンヌアネットは青褪めていた。まぁ隠してはいたけどバレない保証は無いから私は然程気にはしていない。露骨に警戒心を出したり、動揺を漏らすのは二流、正直想定外だけど私を動揺させるには至らない。
「何故……」
「王族にしては余りにもその思考と行動が複雑過ぎるのよ。僅か10歳のお姫様のものではありませんわ。余りにも逸脱し過ぎていると言っても良いほどに……」
なるほど、彼女の彗眼は初見でそこまで見通せるのは分かったけどどこまで見通せるかしらね?
「なら言いたいことくらいは分かるでしょ?」
「政治的外交的取引には応じない、余計な干渉はお断り、こんなところかしらね?発想が自由気ままな冒険者らしいけど……」
「確かに冒険者ライセンスは返納の奨めも黙殺してますわね」
「それに王女としてのやり取りをする気が全く無いように見えましたが……」
「やはりそうだったのですね」
ローレンシアはシーネリアとレンヌアネットの両名の証言から何かに至ったようだった。
「王女と見せかけてその中身はやはり平民出身の冒険者なのですね」
「その通り、平民が王族の肉体を纏ったところで生きにくいだけよ。無理をするくらいなら平民に戻る方が合理的だと思うわ。まぁ貴族社会の住民には理解ができないでしょうけど」
「理解しかねますわね。身分を捨ててしまえば先程のお兄様の申出も断りにくいと思います。王族と平民では権力に差がありすぎます」
「そうね、あのゴミが期待しているものを叩きつけてやるのも一興ではあるわね。でも態々手を下す必要はあるのかしら?」
場の雰囲気が凍りついた。歓迎のお茶会が台無しになってるのは兎も角、まさか結婚相手を殺します発言は想定外だったらしい。
アイツが己の権力の為だけに私の武力を欲してるのはここに居る全員がすでに理解している。不名誉かつ無礼な行いであることも理解している。それでもやり過ぎな制裁だと思っているようだ。
それにしてもローレンシアは他人の心配してる余裕あるのかしら?4人の中で最も危ない位置にいると言うのに……。
しかしここで彼女を失うのは得策ではない、そう判断した私は顔を引き締めて彼女の方を諭すことにした。
「武力は己を護る最大の武器、身分は武器になり得ない、それが私の人生の教訓よ」
「それは戦場の心得ではなくて?」
レンヌアネットは一応戦士としてそう言う心構えはあるらしい、ただまだ甘えが残っているようだけど……。
「私が生きてきた世界はそういう場所よ。少なくとも冒険者として何度も死地を潜り抜け、そして戦場で果てた。無論日常とて破落戸に相対するもあるし、連中は武力を使うことを躊躇わない。身分や言葉では身を守れないわ」
「やはり平民は野蛮なのですわね……」
「シーネリア、勘違いしないで欲しいわ。教国の聖人も貴族も王族も、他人に護られているに過ぎないのよ。それは柵の中の家畜に等しい、護ってくれる者が常にいるとは限らないのよ」
まぁそういう意味ではバスカル王子は権力闘争を通じて世の中を学んだとも言える。他人任せのお坊ちゃまに過ぎないけど、少なくともここに居る人たちよりは常に気を張っている。まぁ身の丈に合わない愚行をしていることを除けば分かっている部類だ。
さて、締めに入りますか。
「ローレンシア殿下、自分の身は自分自身で護るものよ。決して他人任せにはしないことね。王侯貴族は決して安全な身分ではない、暗殺者が送り込まれることだってあるわ。バスカルなんて特に危険、アレは敵視した者を消すことに躊躇いはない、己の権力の為に何でもやる危険人物そのものだから」
彼女は瞳を閉じた。そして強くその目を開き強く頷いた。
私がローレンシアに警告したのはウォーカス王国の内情を危惧したからだ。
今日のバスカル王子を見てウォーカス王国の王位継承を巡る権力闘争が想定を超えて激しいと悟ったからだ。いつ武力衝突が起きても驚かない自信がある。
「残念ながら私の国ではお兄様同士の争いは日に日に激しくなっています」
ほらやっぱり
「転生前の貴女が何年生きたのかは私には分かりません。ここまで個人な武力の必要性を説いたのは何か気になることがあったからだと考えております。そして今なのは差し迫った危険を感じているからなのでしょう」
「直近の危機がバスカル殿下であるのなら牽制が必要かしら?」
「牽制なら無理に私に迫ったことを表沙汰にして非難すれば十分よ。結局は関係者が鍛えるしかないわ、どちらにせよ暴発したら戦うしかないのだから」
どうやらレンヌアネットもアレを警戒しているようだった。多分彼女の場合は私にグレイシア国王になって欲しいから邪魔なんだろうけどね。
それに対してシーネリアは苦い顔をしている。あっ、彼女は私をウォーカス王国に送ることで封じ込めたいのか。もしかしたら裏で手を結んでいるなんてこともあるかもしれない。
「ジャンヌさん、余裕がある時で良いので訓練をしていただけないでしょうか?今の私では狙われれば助からないでしょうし少しでも強くなっておきたいのです」
「時があれば手を貸すわ。だけど耐えられるかしらね?うちの国では王女でも少しは鍛えることになっていたけどウォーカス王国はどうなの?」
「いえ、本人の希望があれば訓練させてもらえますが私は訓練したことはありません」
ローレンシアの切替の早さは素晴らしいものがあるけれど、なんか不安になってきた。基礎体力あるのかな?そこが不足して過ぎてるなんてことはないわよね?
まぁ本当になかったらそこから鍛えるだけでしかないけどね。
「分かったわ、恐らく基礎体力からになるけど頑張ってね」
ニッコリ笑顔で返してあげた。
流石に重たい話を続けるのはマズイのもあってその後は軽い話へと移行した。
私からしたら心底下らない話ばっかりだったけど適当に流してやった。苦痛ではないけど面白くもないからね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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