表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/197

34話 聖女頭

 結局、出発日は2日伸びることになった。

 スタンピードの討伐自体は少しペースダウンしたものの順調に進んでいるらしい。よって護衛を強化すれば聖人覚醒の儀に向かえるという判断が下された。


 そんな中、私は聖女頭に呼び出されていた。

 彼女の名はシーネリアという。優雅な貴族らしい仕草を見せ、如何にもお淑やかと言った風貌の美女だった。


 正直このタイミングで呼び出されるのはちょっと予想外だった。前に会った時は仕事に関係無ければ自分本位らしい動きが見られたからだ。

 しかし今日の彼女は何故か焦っているように見えた。


「まさか貴女があの流炎の虐殺者だったとは思いませんでしたわ……」


 ん?なんて言った?流炎の虐殺者って何?


「ジャンヌは偽名で、その正体があのグレイシア王国第二王女アリシア・フォン・グレイシアだったとはね。……ですが発覚した以上は祖国の為にも貴女を教国から帰すわけにはいきませんわ」

「さて、一体どこでそのことを知ったのかしら?それに流炎の虐殺者って呼んで祖国の敵扱いしてたけど……喧嘩売ってるのかしら?」


 笑顔で返してやった。ここまで言われて引き下がることはできない。


「私はバルテシア王国を支える要石、ポートルン公爵の妹と言えば分かるかしら?」


 なるほど、事情は理解できた。


 ポートルン公爵家はバルテシア王家の古い傍流の貴族家として知られている。確か初代国王の孫が初代当主のはずで、その歴史はグレイシア王国より長い。つまり彼女からしたら私は祖国の兵士を蹴散らし土地を奪った憎き敵だったわけだ。


 そして流炎の虐殺者と呼ばれたのは私の会戦での戦い方だと思う。

 大規模な炎系の攻撃魔法を乱射してバルテシア王国の兵士たちを蹂躙したことから付けれたのだろう。そもそも上級魔法は基本的には研究者くらいしか使えないとされている。なので最前線で乱射されたので恐怖と共に恐ろしい異名が拡がったんじゃないかしらね。


「あの愚か者が余計なことをしなければ何もなかったのですが?」

「えぇ、確かにアレは愚か者でしたが貴女が我が国の兵を蹴散らし国土を奪ったことには変わりありません」

「事実を誤認されてるようですね。そもそもボルテシア家を裏切ったのはバルテシア王国です。離反されて然るべきでしょう。私はグレイシア王国の一部となったバルテシア領の防衛に駆けつけただけですよ」

「あそこはバルテシア領ではなくテーブル伯爵領ですわ。貴族は王家が決定に従うものです」


 裏切られることのない立場だからこそ言える愚かで浅はかな考えね。

 とは言えこんなやり取りは不毛、コレだけの為に呼び出したのなら私も相応の対応をしなければならないわね。

 まずはこっちの要望を叩きつけるか。


「認識の違いは埋まりそうもありませんね。こんな下らないことの為に呼び出される側にもなってもらいたい。下らない茶番に付き合ったのだからコレを認めてもらうくらいはしますよね?」


 そして1枚の文書を見せた。

 先日ガルブエリから受け取った教国神言館の神言禁書庫への立ち入り許可について書かれた文書だった。


「いきなり何を見せてくるかと思えば……まさかそんなモノを出してなんて思いませんでしたわ。そもそもあんなところに入って何をされるつもりです?」

「私が残歴転生してることはご存知ですね?」

「えぇ、聞き及んでおりますわ」

「ならば話は早いですね。残歴転生に関する過去の記録を調べてるの。どうしても一般区域で行き詰まってね」

「怪しい企てをしているわけでは無さそうですし断る理由はありませんわね」


 どうやら何もなくとも許可はくれるらしい。


「ただし立入るのは聖人覚醒の儀の後にしなさい」


 しっかり釘を刺してきたわね。まぁこれから調べ物をするのは非効率的だしそうするしか無いけど……。


「今から調べ始めても時間は取れないからどの道儀の後になるわ」

「分かってるなら良いわ」


 理解してくれたようで何より


「それでは本題に入りますわよ。まず貴女にはヘムベレツまでの警護部隊に入ってもらいます。これは教皇から私に要請がありました。最初は断るつもりでしたが流炎の虐殺者ならば問題は無いと判断しました。むしろ人手を減らすことすら可能です」

「私も万能でも無い、警護の人手を減らすのは愚策の中の愚策よ」

「貴女の実力なら数千人規模の軍でも単独で相手にできるでしょう」

「それはあくまでも条件次第よ。過信は禁物、油断すれば死ぬ、戦場の常識だわ」


 実のところ、地形や配置、気候、その他諸々の要素によっては勝てない。まぁ平地等の見晴らしの良い地形で対大規模魔法を想定していないなら数千くらいなら勝てなくはないけど。


 それに護衛の人手を減らすのは流石に私の負荷考えてほしい。

 私だって全てを護りきれるわけではないし。


 だけど……


「まぁ護衛自体は望むところよ。依頼実績にもなるから冒険者としてギルドを通してもらうけつもりだけどね。ただし護衛を減らすのはやめて、事故の元よ」

「こちらとしてもありがたいですわね。ギルドを通すくらいなら調整可能は可能です。その方向でいきましょう」


 よし!交渉成立!

 これで多少は退屈しなくて済むかな。


「次の件に移ります。今回の儀にはウォーカス王国から使節がくることになっております。正使副使はそれぞれ第二王子バスカル殿下と第一王女ローレンシア殿下です。バスカル殿下の方は賢者頭が受け持ちますがローレンシア殿下は我々で対応せねばなりません」


 うん?これは他国の王女の相手をさせられる感じかな?

 私の出身がバレなきゃ良いけどね……。

 何しろウォーカス王国王太子となる第一王子の婚約者が私の姉なのだ。


「出発の前々日にあたる4日後に彼女とのお茶会があります。聖烈士であり我が国の侯爵令嬢でもあるレンヌアネット様と私で相手する予定でしたが貴女にも来てもらいます」


 え?まさかの貴族令嬢たちのお茶会?勘弁してよ〜。ドレス持ってきてないわよ。法衣で行くわけにもいかないだろうし。


「当日のドレスは一応私が確認しますので今日中に持ってきて下さいね」

「ドレスなんて一人で着れないから王宮を抜け出してくるときに全て置いてきたわ。だから参加は無理よ」

「は?何を言ってるのですか!この後すぐに買いに行きますわよ!」


 ………………マジで?

 一着二着程度なら問題なく買えるけど財布への打撃が痛い。


「嫌な顔をしてもダメですわ。コレも決定事項ですからね!」

「はいはい、出れば良いんでしょ、出れば」

「まったく貴女と言う人は……ちゃんとしてくださいよ。そして最後に今年はグレイシア王国からも使節が来る予定です。こちらには会わないでもらいます。貴女を連れ戻されると厄介ですからね」


 やっぱり国レベルで怨みを持ってるわね。

 とは言え連れ戻されたくないので一応利害は一致してる。問題は誰が来るかで脅威レベルが変わるということだ。


「私も今は連れ戻されるわけにはいかないけど……誰が来るのかしら?」

「ブルハクプス公爵が正使ですが、他にも何人か貴族出身の騎士と冒険者が護衛として同行すると聞いてます。確か冒険者には伯爵令嬢だったはずです。もしかしたらお茶会に参加を打診してくるかもしれませんが断るつもりです。それにしても教国やバルテシアではあまり聞かない名前ばかりなのでよく分からないのですが……」


 マズイ……叔父の王弟ブルハクプス公爵は私のことを知っている。

 本気で捜索に来たと見て間違いないだろう。


 そして彼は公爵の立場にありながら鍛冶師として地方に籠もる変わり者、表に出ることもないので彼女が知らないのは無理はない。


 さらに伯爵令嬢の冒険者は普通はありえない。それでもなる場合は家名を失ってるはずだ。しかし例外を一人だけ知っている。多分軍務卿の娘のサラ嬢とみて間違いない。


「どうしたのです?顔色が悪そうですが……」

「彼は王弟、私の叔父よ。さらに言えばその冒険者の伯爵令嬢、恐らく軍務卿の娘よ。冒険者として面識があるわ」

「まさか本気で捜索に来てる?」

「まず間違いなく」


 彼女も青い顔をしている。

 本格的に恐れているわね。しかも王族なので相応の対応が必要となるので厄介ごとでしか無い。


「ブルハクプス公爵のことは後で考えますわ。とにかくドレスを買いに行きますわよ!」


 そのまま連行された私は聖都の服飾商会でドレスを5枚も買わされ、蓄えの4割が無くなった。


 恨むわよ、シーネリア……。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。

今回の話は以前投稿した短編の話が少し絡んでます。


これからも宜しくお願いします。

良ければブックマーク、評価、感想、レビュー等お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ