32話 聖女たちの生活
「ジャンヌさん、こちらです」
ユーリスティアとアステリアの道案内で最初に聖女区画の宿舎に向かった。
「ここが聖女たちの生活の場になります。候補者たちもここに入ります。取り敢えず部屋の案内からですね。それが終わったら荷物の搬入を行います。まぁ冒険者なので荷物はあまり多くは無いとは思いますが……」
「このマジックバッグのポーチに生活物資は入れてるわ。宿には事情を伝えてキャンセル料支払うだけで良さそうね。それと……荷物だけど食材やら道具やら入れてるから全部展開したら結構な量になるわよ?因みに戦利品の類はここに入れてないわ」
「何をしたらそうなるのですか……」
刀剣類だけでも10を超える数を所有してるし、色んなところで使える簡易調理器具一式に野営用の寝袋、衣服類も何着も持ってるから冒険者としてはかなり荷物は多い方だと思う。
そんな感じなので一端を話しただけでアステリアに呆れられてしまった。
「もしかして、もう一つのポーチもマジックバッグですか?」
「そうよ、こっちは魔物の素材とか戦利品を入れるのに使ってるわ。この前狩ったドラゴンの素材が大量に入ってるけど……見る?」
「ドラゴンって……あのおとぎ話にでてくるような大型で強力な飛行型の魔物ですよね?」
「そうよ」
「ド……ドラゴンですか……その歳で……しかもソロで……」
なんかドン引きされてる……。アステリアに至っては頭を抱え始めてしまった。まぁいいや、まずは話を先に進めるべきだね。
「話題が良くなかったかしら?さっさとこんな作業なんて終わらせてしまいましょう」
「えぇ、そうですね」
3人もいれば片付くのは早い。荷物も然程多くなく、出しておきたい物も少ないので直ぐに片付けは終わった。
泊まっていた宿には既にアステリアが人を派遣していたらしい。片付けの片手間で片付いてしまった。仕事が早い……。
片付けが終わってもやることはまだまだ終わらない。
次は倉庫に連行され法衣の採寸が行われた。法衣は個々で用意される為らしい。とは言え、正式に聖人化するまでは注文されないらしく、注文してからも少し時間がかかるので仮の法衣が提供された。
コレに身を包むとか萎える。この手の動きにくい服装は嫌いだ。王族が着るようなドレスも同じ論理で嫌いだったからね。まぁ必要ない時は別の服装で過ごしたいわ。
しかしこれは態度に出ていたらしくアステリアに「ワガママを言わない!」と説教されてしまった。厳しい。
周りの聖女たちからも「早く慣れなさい!」と言われてしまい。その場で着替えさせられてしまった。本来なら自分の部屋で着替えるらしいけど私は露骨に嫌そうな雰囲気があったらしく、即刻着替えさせることになったとのこと。
元々着ていた服は別の聖女の手によって私の部屋に運び込まれたそうだ。しかも着替えてる間に運び込まれたらしい。ここまで来ると気合の入り方が怖い……。
着替えが終わるなり、そのまま敷地全域の案内が待っていた。これは割とすぐに覚えることができた。森林や山岳地帯、ダンジョンなんかよりは単純なのでベテラン冒険者の私にとっては簡単だった。
敷地案内の最後に食堂に向かい、そのまま昼食を摂った。メニューは野菜と豆のサラダに光麦のパン、そしてトロ芋のスープだった。
食事の作法も色々あるらしくて呆れるしかなかった。それでも王族として作法とかは学んではいるのでその応用で済んだ。王侯貴族の食事の作法は宗教儀式を簡略化したものだったらしい。これは知らなかったわね……。
トロ芋自体が非常に甘い芋なのでスープが滅茶苦茶甘くてつらい。無駄に甘過ぎるけど何故か聖女たちには人気らしい。
光麦は聖なる力を取り込んで光る性質を持つ麦だけど、その麦で作られたパンを食べると何故か魔力が湧いてくる。コレ、冒険者として活動するときに持っていきたいわね。まぁ高価過ぎるし聖人院以外で提供されることは少ないので無理だけど……。
野菜と豆のサラダは……もうなんというか、どれだけ肉を摂らせたくないのかと思いたくなってしまうメニューね……。実際食堂で肉料理が出ることはないらしい。うん、外でお肉を食べてくるか。
食事が終われば次は生活サイクルの説明があった。
朝は日の出と共に起きて、軽く身嗜みを整えて朝食の時間となる。食堂には当然法衣で向かうことになる。
午前中はお祈りをして、教義や聖気に関するお勉強となる。後は極端に貧しい出身の娘は庶務を行ってその賃金を仕送りする者もいる。さっき倉庫にいたのはそう言う娘たちらしい。
まぁ外に出ていない聖女は一種の聖職者だからこうなるのは仕方がないわね。
昼食を食べた後はお祈りをしてからは自由時間らしい。
大抵はお祈りを捧げたり散歩していたりするらしい。極々少数だけど武芸を嗜む聖女もいるらしくてその時間に鍛えてるそうだ。参加してみるのも良いかもしれないわね、どの程度なのかは知らないけど……。
また、一定時間内での外出も認められてるらしいので買い物や知人・友人に会う為に聖人院の外に出る者もいるそうだ。
戒律さえ破らなければ本当に自由らしいわね。
夕食も時間が決まっていて、外出もその時間までに戻ってこないといけないらしい。
そして1日の最後にお祈りをしてから就寝するらしい。まったく最後までお祈りだ……。
後は入浴だけど、聖人院の大浴場で昼のお祈りから就寝前のお祈りまでなら何時でも入れる。
本当に規則正しい生活だわ。まぁ健康には悪くはなさそうだわね。
ただ、何らかの用事や仕事がある場合はそちらが優先され、この限りではないのだとか。
「間違っても他国の冒険者の振舞いは問題になりますから是正するように」
「はぁーい」
「まったく、生返事ですか……。本当に不安なものです。まぁ物覚えは悪くなさそうですからね。次行きますよ」
最後にぶっとい釘を刺されてしまった。
そしてそのまま書庫に向かうことになった。
聖典とかは一人一冊の支給があるのでそれを受け取りに行くとのこと。
配布される10冊近くあるとのことだった。覚えてられるかっ!
聖典に関して少し説明を受けた所で今日の講義の類はおしまいとなった。だけど夕食まで時間があったので武器の手入れをすることにした。
水場に行くと3人の先客がいたようで、仲良く武器の手入れをしていた。
「アンナちゃん、また腕を上げたわね」
「いや〜実戦はやっぱり良いわね。良いアイデアが次々と浮かび、次々と実践できるからねぇ」
「はぁ……実戦かぁ。私も許可降りるかなぁ?」
「なら私も一緒に話しに行こうかしら?」
「セレナさんがいてくれると助かるわ」
仲良し3人組ね……。まぁ聖女たちの中では脳筋集団で浮いてるんだろうなぁ。私は親近感覚えるけど。
「あれ?貴女の武器見せてもらえるかしら?」
「え?まぁ良いけど……」
「見たことない形状の武器ね。それにしても大剣なんて使う女の子なんて初めて見たわ」
アンナさんが気がついて声をかけたことで他の二人も気がついたようだ。
「ちょっと見せてもらえるかしら?」
恐らく最年長だと思われるセレナさんは厳しい目をしながらこちらの武器を見ていた。その厳しい目つきのまま私の方を向いてこう言った。
「これは聖典にはない武器ですね。聖人が扱うのは避けるべきかと思います」
「聖典云々なんてくだらない、己に合う武器を使うべきよ」
やっぱり頭が硬い。使うべきは己に合う武器に限る。それが世の理だ。
「元々私はグレイシア王国出身の冒険者だし、刀に合致する剣術の使い手なの。王国では聖典云々は無いから色んな武器が使われてるわ」
「しかしそれは神々の思し召しに反するのではありませんか?」
「神々の思し召しなんて言うならば聖典にはない刀の使い手たるこの私が残歴転生してるのはどう説明するつもりで?」
その瞬間、3人の目が大きく開かれた。
顔が揃いも揃って驚きを最大限に表現した表情になっているわね。
「え?残歴転生?もしかして神使……?」
最も幼い娘が目を輝かせている。名前を知らないのはやはりやりにくい。
「つまり聖典にない武器を使う自分が残歴転生したことが逆説的に聖典にない武器を使ってはならないを否定することができる、と仰りたいわけですね」
「論理的でしょ?あぁそれと残歴転生のことはあまり広めないでね?ゴードンみたいな変なのが釣れても困るからね」
「ゴードン様を悪人扱いですか……。思うことはありますが事情は理解しました。そう言えば名乗っておりませんでしたね。私はセレナと申します」
そう言えば自己紹介してなかったわね。
「ジャンヌよ、現役のCランク冒険者で未覚醒聖人としてここに来たわ」
「私はアンナ、両親が聖戦士だったから幼い頃から剣術を叩き込まれたわ。本当は冒険者か兵士になりたかったんだけどね……」
アンナさんはある意味私の同類ね。
教国の剣術にも興味がある。後日手合わせを申し込もう。
「リーフィアです。冒険者一家の生まれで幼い頃から家族の武勇伝に憧れていたのですが、聖女としてここに引き取られてしまって……」
「で、何とか戦闘術を身に着けたくて彼女たちと一緒にいたのね」
「は、はい。その通りです」
これは良いものが見れたわね。
この集いは私の癒しになるかもしれないわね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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