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30話 サンシャイン・デュラハン

 指揮官の鎧は何らかの意味を持つと思われる紋章の描かれたフルプレートメイルだった。

 私には何者か分からなかったけどアステリアとユーリスティアには分かったらしい。


「聖戦士殿、アレは何なのですか……」

「分からん。それよりそこの娘に問う。お前も先の商人もどきの仲間か」

「お待ちください!彼女はあくまでも聖女候補です」

「そうであれこんな所で派手に魔法を使う輩だ、既に被害も出ている。不届き者と考えるべきだろう」


 まぁ彼の立場なら疑って当然よね。

 だけどここで言い合ってる余裕はない、問題のサンシャイン・デュラハンはアンデット特攻となる攻撃と太陽光を浴び続けてる。それらを受けて強化される性質を持つコイツは最初より遥かに強くなってるはず、一刻の猶予もないのだ。

 なので最低限しか言葉は交わすつもりはない。


「違うと言ってるでしょ、それよりあのサンシャイン・デュラハンを放置しておくとマズイわよ。太陽光を浴びてるから時間が経てば経つほど強くなるわ」

「何故知っている?嘘をついてるのではあるまいな?」

「コイツの特徴知らなかったんだ?私は戦った経験があるから知ってたけどね。そもそも犯人の仲間だったら情報を渡すことは無いわ」


 そう言って私は大太刀を構えた。彼らには期待しない。


 因みにデュラハン自体はそんなに強い魔物ではない。騎乗型だと機動力があって面倒だけど歩兵型ならただ鎧が硬くてパワーがあるだけの魔物でしか無い。動きが遅いから上手く隙を付けばなんとでもなる。

 鎧の中の肉体にある心臓を破壊すれば鎧もコアも脆くなる。そして心臓が再生する前砕けるようになったコアを潰せば討伐完了だ。

 ただ浄化や光は鎧で減衰してしまうので無理矢理浄化するより心臓を潰した方が早いと言う、アンデットらしからぬ特徴も持っている。


 サンシャイン・デュラハンも基本的には倒し方は同じだ。違うのは心臓を潰すまでは光や浄化で攻撃をしてはいけないと言うことくらいなのだから。



 私に気がついたサンシャイン・デュラタンはこちらに向かって走ってきた。やはり動きは早くはない。

 コイツは人間が両手で持つような大剣を右手だけで軽々と持ち、左腕で己の首を抱えている。


 そこで首を抱えてるデュラハンの隙を作る定番戦術を使うことにした。


 それは首を手元から離させることだ。

 そうすれば奴の注意は己の首に向く。


 振り下ろされる大剣を避け、抱え込まれた首を突き刺し、腕から引き抜いた。


「うわッ!」


 首を取られたことに激怒したのかやたら振りの速い振り上げ攻撃が飛んできた。流石にギリギリで避けるのが限界だった。だけど動きも徐々に早くなってるけどまだ対応可能な範疇でしかない。

 避けきった所で攻撃を受けないよう距離を取った。


「お前の首はこっちだよ!」

「おいっ!こっちに蹴り飛ばしてんじゃねぇ!」


 急いで大太刀から首を抜いて蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばした方向から少しズレた位置に兵士たちが固まっていた。だけど気にする必要はない、彼らの能力を利用して一気に決めるつもりなのだから。


 奴の進行方向が首に向かったのを確認して私から突撃して斜め後ろから飛び掛かって首の付け根から心臓を突き刺した。


 心臓をやったことで動きが止まった。コイツはもう心臓が再生するまで何もできないし、耐性も皆無な状況だった。だけど一々コアを潰していては間に合わない可能性もある。であれば手っ取り早くコアを潰すにはアレが一番効率的だった。


「直ちに浄化をして!今なら効くはずよ!」

「効かないはずじゃ……」

「デュラタン系の魔物は心臓を潰せばあらゆる耐性が無力化するわ」

「しかし……」

「早くしなさい!心臓が再生すれば耐性も元通りよ!」

「私がやりますわ」


 渋る兵士たちの前に出てきたのはユーリスティアだった。


「不浄や巨悪の浄化は私たち聖人の使命です。大聖女である私が果たします」


 その言葉に迷いはないわね。凛としたその姿勢にストレートな声、彼女の覚悟が伝わってくる。大聖女としての威厳を感じ、先程のお気楽な少女とはまったく違う姿に見えた。どうやらメリハリのある娘のようね。


 そして彼女は再生が始まりつつあるサンシャイン・デュラハンに手をかざす。


「我こそは聖別されし聖人、大聖女ユーリスティアなり。光の加護よ、ここに不浄たる不死者を浄化し給え」


 祝詞と共にその手より強い魔力が放たれた。

 放たれた魔力は光となりサンシャイン・デュラハンを包み込んだ。

 その光景には幻想的かつ神秘的に感じられた。


 先ほどとは違い、その光で鎧からその姿が浄化され崩れていく。

 そして崩れた残骸とも言うべき粉末は風に乗って消えていった。


「ここに不浄なる不死者の浄化が終わりました」


 浄化し終えた直後のその宣言には慈愛に満ちていた。その姿には『美しい』という言葉しか私には思い浮かばなかった。


「ば、バカな……。何故ユーリスティア様が浄化できて、より高位な御方であるバルモン様が浄化できないのだ……」


 しかし理解できない者がいたらしい。より高位な聖人が浄化できなかったのが意味不明らしいわね。でもあの魔物の性質を考えれば当たり前のことだった。珍しいから知らないというのも分かるけど……。


 そんな中、検問所の中から身形の良い男性が二人の護衛を連れて出てきた。美形ではあるけど何処か不気味に感じられる。恐らく狂信者の類だわ、この人……。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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