29話 魔物召喚テロ
聖人院は許可なく部外者が入らぬよう敷地の出入り口は二重枡門となっていて、必ず検問所が設けられている。それに
聖人が如何に特殊な扱いかよく分かる話だ。
聖人以外でも物品の納入等でやってくる商人等も入場が認められているそうで、そうした者たちは入場前に厳しい検査を受けていた。万が一、怪しい者が乱入して聖人たちを害さないようにする為なのだろう。
「私たちは検問を受けることはありません。検問所には聖気を感じ取れる聖人がいますので入退出する聖人はすぐ分かる寸法です。無論貴女も問題なく聖人として扱ってもらえるでしょう」
「アステリアさん、もしかして本当に検問なしで入れるの?」
「規則上は、ですね。まぁ無駄に頭の硬い人だとそうも行きませんが……」
あっ……これはなんか嫌な予感がするぞ……。
ハズレを引く時の感覚だ。
多分呼び止められるだろう、しかも超くだらない理由で……
しかし起こったのは予想斜め上を往く事件だった。
「うわあぁぁぁあ!」
「え?何?悲鳴?」
「ユーリスティア、落ち着いてください!」
その悲鳴は検問所の方から聞こえた。どうやら妙な魔法が発動して魔物が湧いてるらしい。
証人に偽装した襲撃者と見て良いだろう、まったく物騒な……。
魔物と戦うのは冒険者の十八番、私は大太刀を抜き払った。纏めてぶっ潰してくれる。
……とは言え戦闘能力皆無のユーリスティアも守る必要がある。それはできればアステリアに丸投げしたい。
「アステリア、剣は使えるかしら?」
「ブランクはありますが一応は使えます。コレでも元冒険者ですからね。ただ期待はしないでくださいよ」
「ならこれを使って」
私はマジックバッグから一振りの剣を出して投げ渡した。彼女なら受け取れるでしょう。
因みに渡したのは紅蓮堂で受け取った剣だ。ちょっとやそっとで壊れるような軟な剣じゃないから大丈夫なはず。
「ちょっ……いきなり武器を投げ渡さないでください!聖女候補なんですから品のある行動を心掛けてください!」
気にするところ……そこ!?
逸早く備えるならこれが一番早い、それにアステリアの身体能力なら問題にはならない、そう判断したから投げ渡したのに……。
実際死角で見えないけどかなり近くまで魔物が迫ってきていた。
「来るわよっ!」
有無を言わさず戦闘態勢に入らせるための掛け声と同時に角から飛び出してきた魔物を薙ぎ払った。リーチの長さは正義である。3体の魔物の亡骸が転がった。
今斬ったのは女の敵のゴブリンだった。まぁコイツらはザコなので簡単に斬り伏せられる。
問題はその後ろから来てる奴らだった。
ポイズンオークにミノタウロス、サンシャイン・デュラハン等の強力な魔物が10体以上確認できた。
ザコを含めれば200を遥かに越える数の魔物が出現している。
「何をしたらこうなるのかしら?」
「ジャンヌさん、別の門に行きましょう。ここの突破は現実的とは言えません。戦えないユーリスティアもいます」
アステリアの言うことも分からなくはない。
でもそんな単純な相手だろうか?
少なくとも聖人院を襲撃するにしては駒があまりにも少な過ぎる。この程度なら手練れが何人かいれば討伐はそこまで難しくはない。
そうなると恐らく他の門も襲撃されてるんじゃないかしら?憶測ではあるけどその可能性は常に考えねばならない。
「ちょっとキツイけど……ここを突破するしかないわ。ここだけを狙うにしてはどう見ても規模が大き過ぎる、他の門もやられてると思うの」
「し、しかし……」
「聖戦士が何人か駆けつければ片が付く程度でしか無いのよ。何れにせよ、この規模の襲撃である以上はなら何かしらの『作戦』と見るべきよ」
会話をしている間も絶え間なく魔物たちの攻勢は続く、私が薙ぎ払うたびに魔物の群れが死体に変わっていく。牽制で魔法を撃つけど町中で威力の高いものを使うわけにはいかず、強い魔物には有効打に足り得ないのが現状だ。
大多数の魔物を蹴散らしているけど、討ち漏らしはどうしても出てしまう。
数は少ないのでブランク持ちのアステリアでもなんとか持ち堪えているようだった。だけど……聖女用の衣装、やっぱり動きにくそう……。
検問所にいた兵士たちも奮戦していた。
「門を開けるな!決して通させんなよ!何が何でも押し返せ!」
「「「おうっ!!!」」」
向こうは10人しかいないけど十分渡り合えていた。よく見ると個々の技術は然程高くはない、だけど誰かが強化を施しているようで、部隊単位での戦闘力は低くなかった。
しかし……
「じょ、浄化が効かないだと!?」
「アンデットのはずだろ!」
「光に耐性があっても普通は賢者の浄化は効くはずだ!」
サンシャイン・デュラハンに良いように遊ばれているわね……。一番の救いは騎乗型じゃなかったことで、機動力がないから何とか攻撃を回避できてるので被害は少ない。
ポイズンオークの毒攻撃で動けなくなって殺られる兵士が出たけどこっちは他の手練れが背後から首を斬り落として一件落着、ミノタウロス等の一般的な強い魔物も被害こそあるものの順調に狩れていた。
やっぱり問題はサンシャイン・デュラハンで、コイツは光や浄化に滅法強くて浴びると強化されてしまうという非常に珍しくてめんどくさい気質のアンデット型の魔物だった。普通のアンデットは光や浄化に滅法弱いんだけどね……。
太陽光なんて以ての外だし、昼間の街に何らかの形で現れたら厄災と言っても過言じゃない魔物である。
昼間なのでドンドン強化されていくけど、私はコイツは一旦放置して他を蹴散らすことにした。町中でアレの対処をやろうと思ったらコイツだけに集中する必要がある、とてもじゃないけどウジャウジャしてる魔物が邪魔すぎて対応できない。なので思う存分暴れて大丈夫な環境を作る必要があった。
「こんな町中でコレはあまり使いたくはなかったんだけどね!」
複数の攻撃魔法を発動して畳み掛けた。迸る雷撃に炎の爆発、大太刀での近接戦をしながら次々と魔法を発動して蹴散らした。
一応威力は控えめにしているし、高威力な魔法は使わないようにしている。周りの建造物とかに被害がいかないようにするためにね。
やはり掃討するだけなら魔法は早い、だけど周りへの被害が出やすいので本当は使いたくはなかった。実際に聖人院を囲う壁の一部に外した魔法が直撃して少し崩れているし……。
「なっ……デタラメすぎるだろ……」
検問所の兵士たちは目立つ戦い方をする私を遂に見つけてくれた。
しかし指揮官はそうは思わなかったようで……
「新たな襲撃者の可能性もある、注意せよ!」
まぁ当然の反応よね。
とは言え派手に掃討をかけたので粗方敵は片付いた。ともなればやるべきは誤解を解くことだ。
「襲撃者では無いわ、あくまでも眼の前に魔物が現れたから蹴散らしただけよ!」
「怪しい奴め!魔物を蹴散らしたら取り調べてくれるわ!」
まぁ軽い取り調べで誤解解けるなら受けても構わない。とは言え今の彼らにマトモな取り調べができるとは思えないんだよね。だって焦ってるもん。
「お待ちください!その方は聖女候補のジャンヌさんです!私が、いや私たちが証人になります」
どうやらアステリアとユーリスティアも私の後ろから前進してきたようで誤解を解くのを手伝ってくれるらしい。わざわざ大声を上げてくれた。
そしてサンシャイン・デュラハンを除く全ての魔物を撃破したところで私たちは検問所の部隊の指揮官と向かい合った。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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