27話 聖女
聖女が入ってきたことでギルドの空気が一変した。揉め事は起こすまいとする様な雰囲気だ。結果的に私の拘束は弱まった。
明らかに聖人でございって人が現れた影響の大きさを実感するわね。信仰心が高いが故なのだろうと考えられる。
「アステリア?そんなに警戒してどうしたの?それに揉め事って……」
「聖都の冒険者ギルドは信仰心の厚い冒険者が多いのもあって、本来はこんなにザワつかない場所なのよ。これは紛う事なき異常事態よ」
「そうなんですか?冒険者ギルドは賑やかな場所と聞いてましたが……」
「それは他国の話よ。ともかく任務にも影響が出かねないわ。ユーリスティア、私たちでこの問題の解決を図るわよ」
「分かったわ」
今の会話の効果はさらに絶大だった。
私や彼女らが何かをするわけでもなく拘束が解かれた。
こっちに向かっていたギルド職員は先に聖女の下に向かって行った。
「ユーリスティア様、アステリア様、本日はお越しいただきありがとうございます。聖女であられる貴女方がお越しになられた理由をお聞かせ願いますか?」
「いえ、礼には及びませんわ。私たちは新たな聖女の候補を探しに来たのです」
「ギルドの職員とお見受けしました。ギルドの中で何か揉め事が起こってるとお見受けしましたが何があったのです?」
「これは醜いところを見せてしまい申し訳ありません。以前から問題視されていた不良冒険者が喧嘩を起こしてくれたようです。喧嘩の当事者は双方怪我を負ったようです。処分は我々で下しますの聖女様であられる貴女方は任務にご集中ください」
「貴方の御配慮、恩に着ます。ユーリスティア、私から離れたら駄目よ」
「手分けした方が早く終わりませんか?」
「この状態で冒険者に関する知識のない貴女を一人にするわけには行きません」
私のところまで聞こえてきてる。どうやらユーリスティアは冒険者をよく知らないらしい。それに対してアステリアは知ってるが故に警戒してるようだった。
それにしてもなーんか嫌な予感がするなぁ……。
「聖気はこちらから感じます。近づいたことで気がついたのですが強い聖気ですわね……。アステリアもそう思いませんか?」
そして2人は私の方にやってくる。
私は残歴転生してるので一応は聖人だ。聖気を放っていてもおかしくはない。私には一切感じられないけど……。
そして彼女らは私の前で止まった。
「間違いありませんね。この娘から凄まじい聖気を感じます。聖女なのかは分かりませんが高位の聖人で間違いないわ。恐らく未覚醒だと思う。それにしても非常に可愛らしい女の子なのに何で怪我させられてるの??」
やっぱり……お目当ては私だったらしい。
因みに偽装の為に自傷して付けた顔面の傷はいつの間にか治ってた。
「ユーリスティア、普通は護ってもらえるわけがないでしょう。……あの、もしかして問題起こしたのはこの方ですか?」
「お、おう……まぁそうと言えばそうとも言えなくはないんだがな……。正当防衛だったとは言え相手にシャレにならん程の大怪我をさせてな……。これ以上暴れられても困るからさっきまで拘束してたところだ」
「コイツな、男の急所を蹴り潰した挙句、顎と鼻を砕いて片目まで潰しやがったんだぜ。見てたこっちまで肝が冷えたぜ」
「また途方もない問題児じゃないですか……。まぁ良いでしょう、取り敢えず話を進めますよ」
酷い言われようだわ。『光の翼』のリーダーの証言1つで問題児扱いかよ。それに他の冒険者たちまで同意してるし……。
あ、聖女の求められる規範があるのかもしれない。じゃなきゃ理解できないわ。まぁ冒険者なら怒らすと危険の範疇には入ってるはず、うん。
「私は大聖女のユーリスティアと申します。こちらは幼馴染の聖女のアステリアです」
「元冒険者で聖女のアステリアです」
雰囲気と会話から2人の名前は察していた。
しかもアステリアは元冒険者らしい。確かに身のこなしに武人らしきところが散見される。それに妙に冒険者に詳しいのも納得ね。
それにしても大聖女って何?
周りからは驚きを感じるんだけど……
「私たちは聖人院から新たな聖女候補者を迎える為にここに派遣されました。ジャンヌさんでお間違えないでしょうか?」
それにしてもユーリスティアちゃん、なんで私の名前知ってるの?
「何故私の名前を?と言うか大聖女って何?聖女なら聞いたことあるけど」
「異国の冒険者と聞いておりましたが……まさか大聖女すら知らずに生きてこられたとは思いませんでした。良いですか?聖女の中でもより強い聖気を纏い、その御力を行使される存在が大聖女となるのです」
「ふ〜ん」
「これは教育が大変そうですね……」
「なんで教育されることになってるの!?」
なんか睨みつけられてしまった。
これだから狂信者は困る。
「アステリア、言い過ぎです。ジャンヌさんが困ってますわ。ひとまず聖人院に参りましょう。この国では聖女候補者は聖人院で生活することになっておりますので」
「なによそれ……」
「嬢ちゃん知らなかったのか……。まぁ知らねぇのは仕方ねぇな、諦めてくれ。ユーリスティア様、アステリア様、我々『光の翼』は護送をお手伝いします」
「頼みます」
アステリアの要請で『光の翼』にガッチリ脇を固められて聖人院に向かうことになった。
因みに聖人で聖女候補を怪我させた事が大問題であり、正当な反撃とされたので私へのお咎めは無くなった。どうやらこの国では聖人、特に聖女への襲撃は重罪とされてるらしい。
何故聖女への襲撃が特に問題視されるかと言うと、聖女は対処能力を持ってる者が少ないからだそうだ。聖戦士も聖人の一種だけど普通に戦闘能力持ってるし、聖戦士以外の男性聖人も趣味で鍛えていたり、魔法で多少の戦闘が可能な場合が多いらしい。
聖女はお淑やかであれとされており、体力的には貴族令嬢とほぼ変わらないそうだ。なので普通は戦闘能力は持ってないのは間違いないわね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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