26話 破綻した仲裁
「さて、何があったか話してもらおうか」
話し合いは『光の翼』のリーダーと思わしき男の一言から始まった。
そしてその視線は私を向いている。
しかし私が口を開こうとした瞬間に奴が喋りだした。
「この小娘が緊急依頼にケチつけててな、何が期間不透明がいただけないだ!しかも言い訳までしやがって……!挙句の果てに指導した俺に対して攻撃までしてきたのだぞ!」
「あぁそうか、お前の言い分は聞いた。この嬢ちゃんの言い分も知らなければ公正な判断は下せないのでな」
明らかに怒ってるわね。
横暴な態度に横入り、余りにも自己中心的過ぎる。多分過去にも揉め事起こしてるんじゃないかしら?
「確かに緊急依頼を断るのは基本的にできないことは知ってるわ。でも重要な用事がある場合は別であることもね。……5日後に教皇猊下との会談を控えてるの、だから期間不透明の依頼を受ける訳にもいかなくてね。それに先に手を出したのはそちらでしょ、腕を摑まれたから離させるために抵抗したのは事実だけどね」
「大凡の事情は理解した。だが疑問点が幾つかあるな。まず教皇猊下と会える立場とは思えないのだがそこを説明してもらいたい」
「これでどうかしら?言葉よりも証拠物の方が良いでしょ?」
私が出したのは教国神言館の無制限許可証、しかも教皇から発行された代物だ。これは私と教皇との繋がりを明らかにできる絶対的証明、否定はさせない。
それに対して周りは驚愕のあまり完全に固まっている。想定外の代物が出てきて反応に困ってるようだった。私に喧嘩を売った男なんてもう顔が青くなっていた。
「確かにそれを出されては否定できないな……何故持ってるのかは別にして貴女が特殊な立場の人間であることは理解した。まぁ簡単に教皇猊下と会う予約などできるとは思えないのだが……」
「確かに私も最初会う時は少し苦労したわよ。だから今回はコネを使ったわ」
「オイオイ……コネを使わずそれを手にしていながら面倒だなんだと言ってコネを使うのか……」
「コネができたのはこれを手にした後よ。私の立場なら言えば会えるかもしれないけど確実なのはコネなのよね」
「嬢ちゃんが合理主義者なのはよく分かった。さて、どう考えてもお前の言い掛かりにしか見えんのだが?これで何度目だ?」
やっぱりね……
どうやらこの馬鹿はこれまでにも問題を何度も起こしてきた前科者らしく、周囲からも疑いの目を向けられていたようだった。
「知るかよ」
「いい加減にしてもらおうか、言い掛かりで何回揉めてきたんだ?毎度のことだが周りの者たちがどれだけ迷惑してると思ってるんだ?そろそろ俺たちも限界だぞ」
喧嘩の仲裁のはすが新しい喧嘩に発展しそうな雰囲気ね……。
仲裁をしてくれている『光の翼』のメンバーたちも我慢の限界に達してるように思えた。それに双方が怒りの目線を向けている。いつ爆発してもおかしくはない。
突然の修羅場に野次馬たちは距離をおいて私たちを見ていた。
本能的に危ういと察知したのだろう。私も危険を感じてたので、見られないようにして何時でも対処できるように隠し持っていたナイフに手をかけた。
このナイフ、本当は解体用なんだけどね……。
しかしここで予想外の状況になった。ついに形振り構わなくなったのか完全にキレてしまった。
「うるせぇ!!黙っとけや!」
「うわッ!」
「きゃあっ!」
あの野郎〜!
いきなり机を蹴り飛ばしやがって!この私の額を傷つけて押し飛ばしてくれた報い、受けさせるわよ!
ナイフは抜かない、抜く必要はない、一生残る傷を負わせてやる!
「おいっ!大丈夫か!」
「やりやがったな!覚悟しろ!」
「ちょっと待て!」
看護なんかいるか!まずはアイツをぶっ潰す!
まずは股!男の急所を物理的に蹴り潰す!
「オラァ!」
ブチッ
「ぅ………………」
「ま、待て!」
この男は私の本気のハイキックを防ぐことはできず股から蹴り上がった。
次は顔面!
私の拳を何度も叩き込む、身体強化で徹底的に強化された拳は一発目で鼻の骨を粉砕、二発目で顎を砕き、三発目で片目を潰した。
「おいっ!やめろ!殺す気か!」
四発目は叩き込めなかった。数人がかりで取り押さえられたからだ。
「落ち着け、お前のはやり過ぎだ!」
「しかし聡明で穏健に見えた彼女がここまでキレ散らかすとは……」
「身体強化の出力どうなってんだ?」
「いや、あのバカの自業自得だろ」
取り押さえられてしまったので身動きがとれない。身体強化無しでは私を取り押さえることはできないらしく全員から魔力を感じた。揃い揃って身体強化を発動してる。
反対に私がコテンパンにした男は気絶したまま引き摺られてギルド職員に引き渡されていた。こうなってしまったらもう手出しはできない、もっと徹底的に潰してやろうと思ってたのに……。
しかしここで場違いな会話が聞こえてきた。
「ここが冒険者ギルドですか、賑やかな場所ですね〜」
「待ってユーリスティア、この雰囲気はおかしいわよ。聖都のギルドの雰囲気じゃない、揉め事の気配がするわ」
女性2人の声だけど……何者なんだろう?
そう考えていたら「聖女様だ」と言う声が聞こえてきた。
聖女、聖人の一種として知ってはいた。でもこんなところに来るような人たちじゃないと思うんだけど……どうしたんだろう?
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