25話 聖都の冒険者ギルド
急遽暇になった私は聖都の冒険者ギルドを訪れることにした。
調べ物も行き詰まった今、教国神言館に行くのも無駄足でしかない。そして明後日は教皇との会談がある。なので遠出もできない。
必然的に近場の短期でこなしきれる依頼が最高の暇潰しと言う結論が出た。
「聖都のギルドは意外と落ち着いてるわね。流石にお膝元では冒険者にも教えが浸透していて当然と言えばそうだけど」
聖都の冒険者ギルドの中と私の知ってるギルドの中とのギャップがあまりにも大き過ぎて思わず独り言が出てしまった。
万国共通で冒険者ギルドと言う場所は騒々しい場所になりがちなのだ。
理由は簡単、冒険者は死と隣り合わせなことも多いし騒ぎたい時に騒ぐ者も少なくない。それに酒場が併設されてるから酒が入ってより騒々しくなることも多いのだ。
しかしここのギルドは雰囲気が違った。なんと静まり返っていた。
酒を飲む人も少なく騒ぐこともなく、静かに神々に祈ってるが如く静かだった。依頼を確認する人々も小声で話してるだけだった。
正直に言ってしまえばこんなギルドは初めて見た。
そんなことを言っても始まらない、まずは予定通り依頼書を見てみよう。
「おい、聞いたか?神官の中に邪悪に身を堕した愚か者がいたらしいぞ」
「神官が?世も末だね」
「神に仕えるべき神官が嘆かわしいことだ」
聞こえてくる会話からもここでは神々への信仰が厚いのだとよくわかる。神官に対する見方も人々の手本でなければならないという厳しいものだと感じた。
まぁ扱き下ろされてる神官は私が始末したんだけどね……。
とは言え私からしたらこれは呑気な会話でしかない。何故なら私は連中が使う力の恐ろしさを知っている、でも彼らは受けたことがないはず。彼らもあの力を持つ者の前に立てば嫌と言うほどその恐ろしさを理解するだろうし、気軽な話題じゃないことを理解するはず。
そんなことを考えながら私は依頼書一覧を見ていた。
依頼書一覧は朝一番にギルドから発行されるようになっている。そこには朝の依頼受付開始時点での依頼の簡易情報が載せられている。冒険者はそこから気になる依頼の依頼書をとって詳細を確認するようになっている。
緊急依頼とかは話が別だ。あれは依頼書置場の直ぐ側にある特別張り出し板に張り出されるので分かりやすい。
アレが張り出されると皆がこぞって受けに行くことになる。何故なら緊急依頼は緊急事態だけあって受けると評価も高くなるのでランクアップの為に受けたがるヤツは多い。報酬は依頼によってマチマチだけどね。
そんな時だった。
「緊急依頼です!聖都近郊でスタンピード発生しました!手の空いてる冒険者はすぐに受けてください!」
ロクでも無い緊急依頼が発せられたよ……。依頼主は教国聖都警備隊となっていた。依頼主はマトモ、報酬も標準的な額が設定されていた。
だけど……
「期間が不透明なのはいただけないわね……」
そう、拘束期間が問題が解決するまでとなっていた。でも予想より長くなった場合は追加報酬もあるという。これは良心的と言えるわね。
「おいっ!期間不透明は仕方ねぇだろ!」
後ろから他の冒険者から罵声を浴びせられた。
「受けろよ」
有無を言わさない顔してるけど受けるつもりはない。教皇から要請があれば話が別だけど。
「私、5日後に教皇と会談する予定があるの。だから拘束期間不透明な依頼を受ける訳にはいかなくてね」
「法螺吹いてんじゃねぇ!ついて来いっ!」
あ、右腕を掴んで引っ張ってきた。
既に暴力沙汰になってるので私が手を出しても正当防衛になる。反撃させてもらおう。
「うわッ!あちっ!」
腕に炎を纏わせて火傷を負わせた。奴は左手を振って冷まそうとしてる。あくまでもコレは正当防衛だから私に非はない、それが私のスタンスで押し通すつもりだ。
流石に今の攻防で周りから思いっ切り注目を浴びた。ここまでやれば信仰者たちも野次馬となってザワザワしてしまう。
「テメェ、何しやがった?」
「教えるまでもないでしょ?それに先に手を出したのはアンタ、私には非は無いわ」
おちょくるような口調で返してやった。これで逆上してくれればこちらのもん、相手の非を最大化できるからね。
そして効果は覿面だった。激昂する素振りを見せてきた。
この状況に危機感を感じたのか身なりの良い男性冒険者が間に入ってきた。
「まぁまぁ待ちな、それぞれに言い分もあるだろう、ちったぁ頭冷やして話さねぇか?」
その男の背後には仲間と思われる冒険者の男女がいる。全員の身の熟しが良い、まず間違いなくBランク以上のメンバーのみで構成された名のあるパーティーのはず。
「おう、『光の翼』が来てくれるか。この馬鹿娘を躾けてくれ」
「馬鹿娘は言い過ぎだ、落ち着け」
「これ以上揉めてどうするつもりだ!」
「流石に侮辱が過ぎるぞ!」
強そうなパーティー『光の翼』の皆さんの仲介に対して調子こいて宥められている。それだけならまだしも周りからは非難轟々、状況は私が有利のようね。ホントに馬鹿なのはお前でしょ、と言いたいところだけど言ってはいけない。私の優勢が喪われるからね。
「チッ」
ここまで追い詰められてようやく己の不利を悟ったらしい。
浴びせられる罵声、周りの視線、相当忌々しげにしているのがよくわかる。己の愚かさをよく知りなさい。
「取り敢えず椅子に座れ、話すもんも話せなくなるからな」
無論私も座らされる。ここで逃げたり抵抗すれば余計な面倒事に引き起こしてしまう。良い事何一つ無いので大人しく従った。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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