23話 ザリファス(上)
私たちはザリファスの案内で彼の家に来た。彼の家は清貧、まさに信者の鑑のような暮らしぶりが感じられた。
どうやらフリードは彼に連絡を取ってたようでグレンのこの国での活動の支援を頼んでいたらしい。いつの間にと思ったけど、よくよく考えれば貴族らしい根回しっぽいとも思えた。
彼も貴族になったんだなぁとくだらないことを考えていた。
「さて、お前たちは何をしていたのだ?」
「お金の精算をしようとしてたわ」
「なるほど、何故そんなことをする必要があるのだ?」
「グレイシア王国ではチバンガ教国への越境が難しくなってます。その余計にかかった費用を請求してました」
ザリファスは少し考えた素振りを見せ、そして頷き私の方に目を向けてきた。
「なるほどの、さてはお主が手紙にあった残歴転生した者か」
「はい」
フリードの手紙には私のことも少しは書いていたらしく、残歴転生した者の補助の為にグレンを教国に向かわせると書いてあったらしい。
多分熱心な信者であるザリファスになら話をしても疑われないだろうとフリードも考えたんじゃないかな?
「ほれ、どうした?何か気になることでもあるのか?」
「はい、疑いすらなく私の残歴転生を受け入れたことが意外でして……」
「アレが事実だなんて言われて信じる奴はおらんな。それが例え熱心な信者であってもだ。だが、神すら信じぬあのフリードが認めたのだぞ。流石に疑いの余地はない」
「あぁ〜確かに」
基準は多少突っ込みたくなるところではあるけど頷ける話だった。
「さて、儂のことはもう良い、お主らのことを聞かせてもらうぞ」
その眼差しが険しくなった。それは本来の武人のもの、老いた老爺のものではない。
真剣に答えねば手打ちにする、そう言われても不思議はない雰囲気だ。
「まず儂のことを知っておったな。どこで知ったのだ?」
「転生前、関わりがあったからよ。少なくともあの場でその仕草を見せれば何かしらの厄介事を招くのは確実だった。だから隠していたけどね。いや、回りくどいのは止めにするわ。こう言えば分かるかしら?『狂剣の花』と」
ふと、ザリファスの瞳が閉じられた。それは何かを懐かしむような顔だった。
「そうか、お主……。いや、続けるぞ、今は何と名乗っておる?そして立場を述べよ」
「今はジャンヌと名乗ってるわ。表向きは凄腕のCランク冒険者となってるわよ。……元々はアリシア・フォン・グレイシアと名乗っていたけど」
「グレイシア王国第二王女、あのグレイシアの華と呼ばれた姫だったか。まさか宮を抜け出して冒険者になっとるのか」
「そうよ」
「カッカッカッ!これは傑作だ!まさか知り合いの冒険者が才女の中の才女と言える姫に転生していたとはな。しかもそれが抜けだして冒険者に戻っておったとは!これほど愉快な話はあるまい」
急に大笑いを始めたザリファスを見て私もグレンも困惑した。年寄の笑いのツボが全く分からない。
「グレイシア王国の教国との国境管理が厳しくなっとると言っておったが、王国にはバレてるのか?」
「俺が国境の街で見てきた限りでは少なくとも何らかの形で行先まで予測されてると思う」
「残歴転生については剣術で宰相にバレたわ。それに国境管理が厳しくなったのは私がグランリアでフラジミア公爵に見つかったのが原因よ。私が王国北部を横断して教国に向かうと予想したんじゃないかしら?」
アレは本当に予想外だった。あんなところに彼がいるなんて考えもしなかった。
「王国政府の内部までは儂も知らぬ、だが確かに国境管理が厳しくなりそうな一件だな。状況はおおよそは理解した。それにしてもフラジミアか、懐かしい名だな。まぁ儂が知っておるのは当代の父である先代のフラジミア公爵だがな」
まさか……
「あのグランリアの戦は思い出したくもない、最悪の戦いだった。この人生で最も過酷な戦いだったと思っている。その時に儂がいたのが先代フラジミア公爵の部隊だった」
なるほど、だから先代フラジミア公爵を知っていたのね。
「だが戦況はどこもかしこも我が方劣勢、遂にはうちの指揮官だったフラジミア公爵が精鋭の騎士数名と共に殿となり儂らはグランリア最終防衛線まで退却したのだ。当時の公爵は儂ら敗残兵や冒険者を逃して戦死された」
ここまで聞けばフラジミア公爵が彼処を訪れてた背景がよく分かる。先代フラジミア公爵は貴族として文字通り名誉ある戦死を遂げたわけか。国を守る貴族を体現した死に様ね。
「まさに爺ちゃんが言ってた騎士の生き様そのものだ……俺にはできねぇよ……」
「ふんっ、彼処までできる騎士がどれ程のいるか知れたものじゃないわい。人を含め生物は元来生き残りたがるのは本能によるものだ。本能を抑え込むのは難しい、それは真理だ」
彼は一々本質を突いている。
生物の本能には私も抗いがたいし、抗える人間が少ないのは嫌と言うほど理解してるつもりだ。
「それで明日からどうするつもりだ?」
「私は教国神言館に行くつもりよ。それと教皇猊下とグレンの顔合わせもしておきたいと考えてるけどできるかなぁ?」
「そっちは儂に任せよ。アレとは色々と昔あって今でも文通はしておる。渡りをつけるくらいなら造作もない」
「頼もしい限りね」
「それと教国に来たのなら聖地ぐらいは回ると良いぞ、多少なら案内もできる」
本当に頼もしいわね。しかしそんな人脈を持っていたとは思わなかったわ。普通は冒険者にそんな人脈は無い。
どちらにせよ変わらないのは彼の好意に甘えるべきということた。それが効率的だからね。
そのままグレンの精算をして自分で取った宿に戻った。
本当は私も「泊まってかないか」と言われたけど男2人に女の子1人はちょっと思うことがあったので断らさせていただいた。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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