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21話 教国神言館(下)

 翌日も私は教国神言院に来ていた。

 昨日は若い研究者と別れた後、1人分の表向きの経歴しか調べることができなかった。


 そこで知ったのは初めての残歴転生を果たした者の活動だった。邪悪な意志に歯向かい世界を解放した勇者の物語、武人として優れた後のバルテシア王国初代国王となるウォーレンの話だった。彼は当時暴れていた特に凶悪だった魔族を討伐し、魔族のせいで荒れ果てた土地の復興の中核的存在なることで国を興したらしい。

 英雄的活躍をして建国を成す、言うのは簡単だけどカリスマ性が無いと話にならないのよね。


 ともあれ、王太子代行時代にボルテシア家離反事件で援軍として赴き、甚大な被害を与えたあの国にそんな歴史があったなんて知らなかったというのが本音だった。

 まぁ歴史の面に出ない裏側では色々とあったんでしょうけどね……。


 表向きのエリアから昨日マークした本を探しに行く。今日、最初に探るのはウォーレンの次の残歴転生した者の記録、古い年代から遡って見ていくつもりだ。


 そして今日も会えた。


「これはこれは、昨日に続き今日も何かをお調べですかな?」

「えぇ、調べきることができなかったから今日も来たわ。既に本はマークしてるわ」

「それは手際が良くて良いことです。名乗り遅れましたね。私は教国研究院所属のコンティヌスと申します」

「Cランク冒険者のジャンヌよ」

「その歳でCランクですか、将来有望ですね〜」


 彼と雑談をしながら資料を読み進めていく。

 ウォーレンに続くのはギスワードと言う超が付くほど有名な英雄の物語だった。彼はチバンガ教国の聖騎士として活躍していたらしい。


「その年代ですか、確かスタンピードが多発していた時代ですね。当時のスタンピードは魔族が魔物に混じっていることもあったそうです。魔物と戦う戦士たちが守護者として尊敬される風潮が強く、戦士たちは社会から非常に優遇されていたそうです。芸術の世界でも戦士をテーマにしたバートロウ主義と呼ばれる作品が多数遺されております」


 どうやら彼の専門は芸術史らしいわね。芸術作品や芸術家だけではなくて、その時代背景まで調べたりしてるらしかった。なので歴史関係全般強いらしく、私が調べていた残歴転生の裏側を予想して語れるくらいには彼の知識は豊富だった。


 専門の話は蛇足だけど研究者等の学者肌の人間だから仕方が無い。だって彼らも自分たちの活動をよく知ってもらおうと必死だからね。面倒だけど芸術の話に逸れたら適当に流すしかない。


 とは言っても逸らす手段がないわけではない。


「一つ気になったのはギスワードが活躍したこの時代とバーダルの活躍した年代が近いのは気の所為かしら?」

「ふむ、残歴転生された聖人が現れるには何かしらの要因があると言われています。その要因は魔族と考えられているようですが、魔族はまとまりがなく纏まるのに時間が掛かる傾向があります。それを考慮すると確かに残歴転生した者が現れるには短いかと思います」

「つまり芸術家バーダルが残歴転生させられた理由は他の聖人たちとは違う可能性が高いと言うことかしら」

「その可能性の方が高いかと」


 つまりバーダルの使命は戦争への参加だったと予想がつく。確かに人間同士の戦争なんて気分が乗らないのは分からなくはない。彼が嫌がったのも頷ける話だ。


 でもここで1つの疑問が残る。

 神々が人間同士の戦争如きに介入するとは思えなかった。あの厳格な性格をしていて人々を俯瞰する存在が特定勢力にやたら肩入れする姿はとても想像できないのだ。


「何か裏があるわね」

「その戦争で滅んだ国、チュイウビカル帝国は邪悪な信仰に染め上がった国だったと聞いたことがあります」


 邪悪……かぁ……。

 もしかして邪なる者を信仰していた、とかありそうね……。仮にそうだとしたら確かに神々が危険視するのは当然、まぁここでそこまで知ることはできないとは思うけど……。


 彼の解説を聞きながら4人の表に出ている記録を確認したところで私は一度教国神言院を出た。


 昼飯の為に近くの酒場に行くと待っていた人物が来ていた。


「ようやく追いついたぜ」

「待ってたわ」


 ようやくグレンと再会できた。

 既にグレンは席を取っていたらしく相席させてもらった。


「どうやって抜け出してきたの?あの厳戒態勢だと私じゃなくても厳しかったのでは?」


 そう、私が見つかったことで祖国グレイシア王国ではチバンガ教国方面の国境越えの難易度は難しい。ちょっとでも怪しまれるとすぐに止められてしまう。

 彼は私のように特殊な存在ではない、何かしらの迂回策をとる必要があったはずだ。


「冒険者も出国できないようになってたな。お前の予想外のヘマがあったからと言ってもアレはやり過ぎだ。迂回路探しは苦労したぜ」

「やっぱり……」

「何しろ一度南下してバルテシア王国を通ったからな。まぁ正規ルート通れねぇから2回も山越えチバンガ教国に来たんだ」

「バルテシアを経由したんだ。確かにうちの貴族は表からは行けないけどそのルートなら行けなくは無いか。それにしても無茶したわね」


 昨年のボルテシア家離反事件でグレイシア王国とバルテシア王国は国交断絶状態になっている。主要な国境では時折小規模な交戦が発生していたはずだし、外交使節を除けば国家関係者が行き来するのは難しい。まぁ外交使節でも双方の前線の許可が降りないと通れないんだけど……。


 ただ全ての国境の街道を見張れているわけではないので物流は滞ってるわけではない。でも監視はされてるから民間人でも臨時検問されやすいらしい。


 何にせよ、グレイシア王国貴族がバルテシア王国の国境を越えるには山間部などの秘境を通って密入出国するしかない。


「魔物は回収できず斬り捨てて通ってきた。御蔭で財布の中が軽いぜ」

「ありゃりゃ……それならバールンからここまでの費用は私が精算するわ」

「助かる」


 私も財布を出しお金を出す準備をする。私はマジックバッグ2個持ちで資金に余力もあるしギルドの口座預金も恐ろしい額貯まっていたりする。なのでこの程度ちょっと支払ったくらいでは痛くも痒くもないのでこの場で払ってしまうつもりだった。


「へぇ、嬢ちゃん金持ってるんだな。こっち来いよ」


 明らかに恐喝しようとしてる輩がいた。人数は4人か。仕方ないので財布をしまい臨戦態勢に入った。体内で魔力を循環させて何時でも魔法を使えるようにし、『身体強化』に至っては既に発動させている。何時でも戦闘可能だ。

 グレンも当然のように戦闘態勢に入ってる。彼の場合は剣の柄に手をかけ何時でも抜けるようにしている。流石に剣を抜いてしまうのは在らぬ疑いを掛けられるからマズいんだけど……。


「日中、しかも人の多い場所で恐喝ってナメてるわよね?」

「おいクソガキ、ナメたこと言ってんじゃねぇ。俺たちの言う事聞けば命は助けてやるぜ」


 向こうは既に殺し合いをする気のようね。口を開くの同時に剣を抜いてしまった。

 それを見たグレンも抜いてしまった。街中で、しかも人の多い酒場で殺し合いを始めてしまった格好になっている。


 当然のように周りも注目しだしている。店の中が野次馬だらけだ。

 こうなってしまった以上、流石に下手な退き方はできない。だからといって思いっ切りブチのめすのも不可能だ。牢獄行きが確定するからね。そうなるわけにはいかない。


 仕方が無い、殺さないように手加減しつつ無力化するとしよう。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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