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19話 捜索会議

 軍務卿の夜間突撃訪問の翌朝、余はヘンリーと軍務卿親子、王国騎士団長、王国常備軍司令官を呼び出した。

 議題は軍務卿の娘であるサラ嬢から齎されたクリエルマ伯爵領パステル市での情報だ。


「陛下、このメンバーを呼び出しと言うことはアリシア殿下の件ですね」

「あぁ、そうだ」


 最初に口を開いたのは捜索活動を行う実動部隊の長である王国常備軍司令官ヴァールハイツ・フォン・バードン侯爵だった。


「目撃情報、とは言い切れぬが無視できぬ情報が入った。サラ嬢、説明せよ。昨晩語った内容と同じで構わん」


 パステル市での出来事は皆の興味を引かせた。皆が様々な思考をしているのが判る。


 最初に意見を述べたのは騎士団長のウォロリック・フォン・バーレン伯爵だった。


「すぐにパステル市に騎士団を派遣して身柄を確保すべきでしょう。バードン侯爵には部下を貶すようで申し訳ないのですが常備軍の兵士は平民が多く、王女殿下に無礼を働く可能性が高いと思われます」

「無礼でも何でもないな。私も常備軍で接触するのは危険だと考えていたところだ。常備軍で捜索部隊を、騎士団から接触する人員を派遣すべきだろう」


 本来は王国常備軍司令官より王国騎士団長が上とされている。しかし特殊事情があり爵位が逆転してしまっている。


 王国常備軍司令官は子爵の地位を持つ高騎士が就くはずの職位で就任当時は彼も実家から独立した子爵で高騎士階級を持つ騎士だった。その後、運命の悪戯かバードン侯爵家の者たちが次々病に倒れなし崩しに実家の家督を相続することになった。その際、騎士団長への栄転若しくは爵位相続退役と言う流れになる予定だったが、本人が王国常備軍司令官の役職を好んだのかそのまま続投してしまい今に至っていた。私も考え直すよう言っていたが本人がどうしても続けたいらしいのであまり強くは言えていない。

 これが原因で騎士団長は肩身の狭い思いをしている。自分より上位の者が自分より下の職位にいる故にやり辛いらしい。時々バーレン伯爵から愚痴が飛んでくる。


 だがそのことを理解しているバードン侯爵はバーレン伯爵に配慮している場面が多い。故に大きく関係が崩れることはなかった。


 そうした事情はともかく、2人の意見が一致してるのでその方向で進めるのが良いのだろう。


「まぁ妥当な判断だろうな。その方向で調査してくれ」


 だが疑問がないわけではない。何故パステルに娘は向かったのかだ。

 ヘンリーの予想ではチバンガ教国方面だったはずだ。


「パステル……そうか、彼処は迷宮都市だったな」

「ブルハクプス公爵、心当たりが……?」

「あぁ、軍務卿も知っているだろう。金銭の重要さは」

「まさか!」

「ヘンリー、ヘルヴィルム伯爵、何に気づいたのだ?」


 2人の考えは余には分からぬ。

 ここに口を出すものがいた。


「冒険者になったのなら依頼で稼げば十分では無いのか?」


 バーレン伯爵だった。因みに余もそう考えている。しかしヘンリーはすかさず反論する。


「ランクが低いのにやたら強い冒険者の場合は依頼より迷宮に行った方が効率よく稼げます。どれだけ王宮から持ち出したかは知りませんが、今後の活動に支障があると判断したのでしょう。噂に聞く殿下の実力なら活動資金調達なぞに依頼などやってられないはずです」

「確かに普通はEランクからですな。確かに依頼での稼ぎは大したものにはならない。なるほど、敢えて教国と反対方向であるパステルに向かったのは我々に対する陽動の要素もあるかもしれないな」


 平民との接点のあるバードン侯爵とヘンリーならでは考えだろう。余は平民との接点が無いので判断しかねる話だ。


「つまりアリシア殿下は既にパステルから離脱している可能性があるわけですね。下手に大規模な調査をしてしまうと無駄になりますわね」

「流石冒険者をやってることだけはあるか。確かに殿下がパステルにいた理由がブルハクプス公爵の推測通りならば既にパステルにいる理由はないはずだ。お前の言う通り捜索は無駄になる可能性がある」

「侯爵閣下にお褒めいただき光栄です」

「サラ……そんなこと言ってる場合じゃ……」


 ヘンリーが少し頭を捻っただけでパステル方面は無いと言い切れる者が多いと言うのか……。


「しかしここで疑問なのですがお嬢様暮らしであられた殿下が金に困窮して生きていけるのでしょうか?」

「ジャンヌという冒険者は平民暮らしに馴染んでるところがありました。本当にアリシア殿下が偽名を名乗られていらっしゃられたのなら金策や資金難での活動にも一定の能力があると言っても良いと思います」


 いや分からぬ……分からぬぞ……

 仮にアリシアが平民暮らしの技能を持っていたとしてどこでそれを……あっ……


「フリードか……」

「兄上?ドリビア子爵に何かあると?」

「そう言えば武術を鍛えたいとか言ってフリードについて外に出ておったな」

「もしやそこで身につけられたと……」

「うむ……バーレン伯爵よ、監視を付けるべきだったな……」


 ヘンリーとサラ嬢から呆れた目線を感じる……。

 アレはやらかしだったな。最初から許可しなければ良かった。そう思わずにはいられない。


 話が行き詰まったと思っていたその時、外から王宮に似つかわしくないドタバタする音が聞こえてきた。

 その音は徐々に近づいてきて扉が開かれた。


 無作法にも程があるがあるが入ってきた騎士を見る限り急なのが分かる。


「フラジミア公爵より急報!グランリアにてアリシア殿下を発見、タイミング悪く見つけてまもなく見失ったとのことです」


 あまりの事態に部屋には言葉にならないざわめきが広がった。

 ヘンリーやバードン侯爵の予測が的中した

 まさかグランリアで見つかるとは……。


「兄上、やはり教国との国境を強化すべきです」

「そうだな、北部から西部に掛けての国境を強化するようにしてくれ、頼むぞ、バードン侯爵よ」

「承知しました。ではパステルには人を送らない方針で良いでしょうか?」

「調査を目的に騎士を数名送る。バーレン伯爵、ジャンヌと名乗る冒険者の行き先を探れ」

「陛下の仰せのままに」


 娘の行動力には頭を抱えたくなる。どこまで計画的なのか……もはや儂には捕まることを願うしかできなかった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。来年も宜しくお願いします。

正月三ヶ日はお休みさせていただきます。次回は1月6日月曜日の12:00となります。

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