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18話 第一報

今回は軍務卿ネーコフ・フォン・ヘルヴィルム伯爵視点です。その娘のサラ嬢も登場します。

 ワルカリアの本拠陥落から15日経った。

 私はこの戦役の間、軍務卿として部隊の派遣と補給物資の輸送計画の立案、関係する貴族との調整を行っていた。


 後始末はまだ残っているが大方の業務は終わっており何とかなるだろう、そう思えるところまで来た。

 仕事を終えて王都に構える我が邸宅に帰ると久しく見ていない娘が帰ってきていた。


「サラか、帰ってきてたのか」

「えぇ、ワルカリア討伐の依頼が終わったので帰ってきましたわ」

「参加してたのか」

「はい」


 私は頭を抱えた。

 今回は相手が相手だから問題にはならないだろうがこの手の傭兵依頼を貴族出身者が受けると勢力問題に繋がる恐れもある。

 なので今回の件は事前に報せて欲しかった。場合によっては他の貴族との調整が必要だった。娘はどうやら認識してなかったようだが……。


 婚約破棄を突きつけられた後、娘はいつの間にやら冒険者になっており実績を重ねていた。私も実績を挙げ、指名依頼まで受けるようになった娘を簡単に止める訳にも行かなくなり、心の傷を癒せるならと黙認していた。

 好き勝手やらせてた訳だが、流石に今回は考え直さねばならない。行き遅れなりかけていることもある。


「お父様?」

「サラよ、傭兵依頼は安易に受けないでくれ……。貴族界の情勢に影響を与えることもある。それからそろそろ本腰を入れて結婚相手を探せ。お前も17になるだろう?そろそろ動かないと行き遅れになってしまうぞ」

「今回は国軍の依頼だったから受けたわ。お父様には迷惑をかけないよう動いてるつもりよ。それに貴族に嫁に行くのは諦めてるわ。既に婚約破棄されて傷物だし冒険者やってた女を受け入れたがる家は少ないですし」

「おい……」

「それに、婚約破棄と冒険者になった件、更に平民に嫁入りしたとしても全てあの家の仕業にしてしまえば良いんですよ」


 この暴論、やっぱり分かっていなかった。


「まずな、国軍の傭兵依頼だったとしても貴族関係者が受けると編成に影響がある。適当に振り分けるわけにはいかなくなるからな。軍や騎士団の関係者ではなく冒険者だから知らないのは仕方が無いがな」


 娘はよく分かってない顔をしている。まぁ仕方が無い。

 問題は私に無断で参加してしまっていたことだが既に過ぎてしまったことでもある。

 だが最低限どの部隊にいたかぐらいは把握しておく必要がある。


「とは言え既に参加し解散してしまったものはどうにもできん、次善策を執るしかない。どこの部隊にいた?」

「え……?」

「上官は誰だったと訊いている」

「えーと……上官はバーボルン・フォン・バヌーテクと名乗ってました」

「バヌーテク?あぁ、王妃殿下の実家の分家で武人の家系だな。確か子爵家だったか」


 バヌーテク子爵家、本家の意向もあって目立ってないので知名度の低い家系ではあるが格は低くなく、子爵家の中では上位のはず。我がヘルヴィルム伯爵家の娘の嫁入り先としては無しとは言えない相手だ。仮に嫁入りさせないとしてもあの家の者ならば令嬢を粗末に扱う真似はすまい。

 あの家には次期当主は必ず騎士団に入隊する妙なしきたりがあったはず……ん?


「もしや独身だったか?」

「お父様はバヌーテク子爵と縁談を進めるつもりですか?」

「まずは調べるところから始めねばなるまい」


 独身で素行が悪くなければ娘を嫁がせるのも十分選択肢としてとれる。元々何者かが戦場でのお見合いを画策した可能性もあるか。傷物なら誰も寄り付かないと判断して向こうがサラに近づいた可能性もある。

 何にせよ情報収集しないことには始まらない。


 そしてこの状態で娘に好き勝手されるのも望ましくない。これ以上厄介事を起こされても困るので仕方が無いが行動を縛るか。


「サラよ、情報が集まるまで家にいなさい。冒険者活動は休止してもらう」

「はーい」


 生返事か……妙なことをしなければ良いが……


「あ、そうそう、情報集めるなら1つ調べてほしい情報があるの」

「……なんだ?」

「パステル市中でね。ジャンヌと名乗る冒険者がいたの。風格と話しぶり、態度から判断して家出した貴族の令嬢だわ。しかも伯爵家以上の出身だと思うんだけど」

「待て……家出した貴族令嬢だと?」


 何とも予想外の事態だ。傭兵依頼以上の重要情報が飛び込んできやがった……。

 何しろアリシア殿下が出奔してそんなに日が経っていない。


 それに娘は殿下とは会ったことがないはずだ、気づけなかっただけの可能性もある。こんなことなら婚約破棄され傷物になろうとも、もっと積極的に社交に出すべきだった。後悔しても仕方が無いが……。


「お父様?何か心当たりがあるのですか?」

「調査が必要だな……それと直ちに陛下にも報告する必要がある」

「あの……何故陛下に?」

「出奔したアリシア殿下の可能性がある」


 娘の口が開いたまま塞がらない。驚きが度を越したのだろう。

 だが今は娘を待つ暇はない。


「おい、すぐに陛下に使いを出せ!至急の謁見の申込みだ。アリシア殿下に関することと伝えろ」

「お前もすぐに着替えろ。最低限謁見できる格好でなければならん」

「お、お父様!」

「陛下に説明してもらう、そのつもりでいなさい」


 今回ばかりは娘に命令して強制する。

 陛下も首を長くして待っているだろう、待ち望んだ手掛かりとなる情報だ。


ーーーーーーーーーー


 娘に大急ぎで着替えさせ王宮に参内し、陛下の私室で謁見した。

 陛下は今か今かと前に出たい気持ちを無理矢理押し込めているようだった。


「して、アリシアの動向は?」

「陛下、まだ可能性に過ぎません。我が娘が言うには家出した貴族令嬢らしき冒険者を見つけたとのことです。貴族令嬢の家出は滅多に聞かない話です。それこそ私もアリシア殿下以外に訊いたことがありません」


 陛下の顔が鋭くなった。そしてその視線は娘のサラに向けられている。


「サラ、陛下に説明しなさい」

「……分かりましたわ」


 陛下に自分の口から説明するのが恐ろしかったのか、気乗りしない感じを醸し出していた。

 しかしここで逃げるのは不敬そのもの、流石にそれは理解していたようで怯えながらも説明をしていた。


 まず食事の仕方が貴族のそれであったことに始まり、我が家の知識も持っていたところで貴族である可能性が高いと考えたらしい。実際否定はされなかったそうだ。

 更に冒険者の論理を用いて探りを拒絶する態度や無理矢理貴族社会から離れようとする様から家出娘であると判断したらしい。


 顔も特徴を聞けばアリシア殿下に似ていると判断できる。

 当然陛下も気になったようだった。


「お前はその冒険者がアリシアだとは思わなかったのか?」

「いえ、お会いしたこともなかったので分かりませんでした。それに殿下が出奔されていたことも今日知りました。なので普通に貴族の家出娘と判断してしまいました……」

「ハァ……致し方ないな。とりあえず明日、パステル周辺での捜索強化を行うようヘンリーを通じて指示を出す。今日は下がって良い」


 陛下より許可をいただき帰宅した。退出間際、娘は王都にいろと陛下より命令を受けていた。


 私はこれで殿下が見つかることを願わざるおえなかった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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