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15話 交渉

 死体を引き摺って入ってきた私は当然の様に注目を浴びることになった。

 そして引き摺られていた人物を知らぬ者はいなかった。


「逃げ出した悪道神官を無事捕らえられたのですね。助かりました」


 まず最初に聖騎士から御礼を言われた。

 どうやら生死は問われないらしい。生きていても即刻処刑なのだろうと私は考えた。


 それにしても本当に無事に済んで良かった、これは私の偽りなき感想だ。正直に言ってしまえばあの力の持ち主が神官に紛れ込んでいたのは意外だった。教国の腐敗は想定を超えて酷いのかもしれない、そんなことを感じていた。


「コイツはここに置いといて良いかしら?」

「問題ありません。あとの処理は我々聖騎士団の仕事です。お任せください」


 後始末はやってくれるらしい。当然と言えば当然だけど手間が減って助かるわね。


 現場にいた聖騎士との話にキリがついたところで役人の神官から声をかけられた。


「教皇猊下がお待ちです。こちらへどうぞ」


 どうやら彼がガルブエリのところに案内してくれるらしい。

 マトモな職員は普通に仕事してるようね、ひとまず安心だわ。ここで足止めされたら流石に対応を考え直さなければならなかった。そうなったら手間で仕方がない。


 案内された先にあったのは神々を描いたと思われる絵柄の扉だった。私は直接会ってるから容姿を知っているけどこの絵は似ていない。伝聞か何かを基に画家が描いたものじゃないかしら?

 そんなことはどうでも良く、ただならぬ雰囲気を感じるこの場所はこの建屋の中でも一際重要な場所なのは間違いない。


「教皇猊下、お客様をお連れしました。今、入室させても大丈夫ですか?」

「えぇ、入れなさい」


 案内された部屋はシンプルかつ上品で何処か神秘的な雰囲気を感じさせる内装で、円卓と8個の椅子が置かれていた。

 そしてその椅子の1つににガルブエリは座っていた。


「お待ちしておりました。そして先程はご迷惑をおかけしました」


 文字通りアレは迷惑だった。私は謝罪を受け入れ静かに頷いた。


「貴方は下がりなさい。後は私が対応します」

「はい」


 案内してくれた神官を下がらせると私に対面で座るよう促してきたのでそれに従った。

 私が座ったのを確認して彼は話を始めた。


「本日お越しになられたのは先日の依頼の件でお間違い無いでしょうか?」

「えぇ、その通りよ。面倒な魔物だけど倒すことはできたわ」


 私の回答に彼は安堵した顔を見せた。だけど安心するにはまだ早い。

 討伐法の確立ができてない時点で安心には程遠い、次現れた時に倒せる保証がないのだから。


「アレの討伐法の確立はできなかった……。少なくとも一人で普通は倒せない」

「……?それはどういうことてますか?」

「無理矢理過ぎる討伐の仕方をしたわ。とてもじゃないけど他の人には無茶だと思う」

「まぁ、討伐法の確立は主任務では無いので問題はありませんが、一応聞いておきましょうか。どのようにして倒されたのかを」


 討伐法確立失敗を不問とされたのは助かった。いや、敢えて不問にすることで関係悪化を避ける目的があったかもしれない。

 いずれにせよ私にとっては損はない。話すだけ話してしまおう。


 やったことと言えば文字通り、上空から炎で炙り出して顔面つぶして冷静さを失わせ、穴を掘れなくしてやったことくらいだ。そこからは弱点部位を探す為の実験でしか無かった。


 言うのは簡単だけど、こんな高等技能を複数持ってる人間なんてほぼいない。そもそも複数人では逃げられてしまうのだから話になっていない。いや、地中に逃げられただけでそれに気づけなかっただけかもしれないけど……。

 どちらにせよ、不可能に近いやり方、私だけのやり方だった。


 一通り説明したところで彼は溜息を付いた。溜息をつきたくなる気持ちはよく分かる。他の人には無茶だと理解してしまったのだろう。常に私がいるわけでもないしね。


「これは……確かに単独討伐は絶望的に難しいですね。今後も調査は必要でしょう。とは言え今回の討伐に関する情報は無駄ではありません。弱点部位に関する情報、誘い方、今後役に立つと考えられる情報を得ることができました」


 まぁ何も無いより遥かにマシな結果と言えばそうかもしれない。

 情報の大切さ、これは政治、産業、冒険者ギルド、宗教、あらゆる場所で証明されている。彼も当然理解していた。


「えぇ、何も無いよりはマシかもしれないわね。それで私は依頼はこなした、支援について聞きいたいんだけど」


 十分な情報を渡したところで私からも要求を突きつけた。一方的な特はさせない、させるつもりはない。

 元々今回の討伐を条件に支援をすると約束していたのだ。当然守ってもらう。


 この私の考えは態度に出ていたのか彼は苦笑いでこう返してきた。


「えぇ、支援する約定は守りますよ。とは言え、現段階ではできることには限りがあります。誠意は尽くすつもりですがね。そもそも想定していたよりも遥かに早かったものでこちらとしては準備が整わなかったのですよ」


 えぇ……何よそれ……

 ノンビリし過ぎでしょ、と思ってしまう。冒険者を甘く見過ぎだわ。

 普通、この手の依頼は早急に片付けに行くべきだし、大した準備も要らない上に準備が終わり次第挑む冒険者が多い、結果的に移動時間+1〜3日程度で終わることになる。ちょっと想定が甘過ぎると言わざるおえない。冒険者として……


「考えが甘過ぎるわ……」

「え……」

「考えが甘過ぎるのよ……。そもそも冒険者はこの手の依頼に取り掛かるのが早いのよ。常識よ」


 キョトンとした顔を見せている。やっぱり分かっていない。

 まぁ良いや、今はその話は後回しで良いのだから先に進めるべき話をすべきなのだから。


「この話は横に置いておくわ。それよりも支援の内容よ。想定していたものと今すぐにでも行えるもの、両方教えてもらえるかしら?」

「良いでしょう、それが筋ですから」


 あら、ここは素直に応じるのね。手間が省けたわね。


「まず現段階で行える支援から教えましょう。教国神言館への無制限入館を許可します。無制限入館は本来教国の上層部にしか認められることのない権限です。これには準備が整わなかったことへの謝意を含めております」

「教国神言館?」

「えぇ、教国最大にして最も秘される書物が収められる資料館です。残歴転生の記録もここに収められております」


 なるほど、それはありがたい。

 しかしそんな施設があるなんて知らなかった、ミハイルも敢えて私に言わなかったのは想像がつく。彼も教国から派遣された神官なのだから。


「本来であれば我々で下調べをするつもりだったのですがこれは間に合いませんでした。後はかつて使われた聖剣等の素材となるカンナ鉱の調査ですね、これも国土全域で調査をする予定でした」

「聖剣……その素材?そう簡単に採掘できるとは思えないわ」

「えぇ、鉱脈を探すだけでも一苦労でしょう。運良く探し当てたところでアレを扱いこなし武器にするだけでも相当な難易度と聞いております。鍛冶師も選定が必要でした」


 とんでもない話が出てきたわね。鍛冶師も選ぶ必要かある素材ってどうなのよ……。まぁ神秘が絡むからなんだろうけどさ。


「職人については少し待ってほしいわ。任せたい鍛冶師がいるの」

「並の鍛冶師では触れることすら叶わないでしょう。あまり期待はしないでください」


 十分、これだけ支援を受けられればそれなりに動ける。


「ここまでが支援の内容になります。質問は?」

「無いわ、十分よ」


 私はお茶を飲み干し、席を立った。明日からようやく動きだせる、残歴転生についてまずは調べなければならない。これが一番の課題だったのだから。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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