14話 背教の神官
逃げ出した悪道神官は然程遠くには逃げられなかった。
理由は2つ、1つ目は純粋に体力が無かったことにある。神官だけあって座学の類ばかりで運動量が少なかったのだ。2つ目は離脱が遅れたことだった。彼は教皇を攻め立てていたが劣勢と判断するや逃げ出し離脱することに成功したが、その判断は遅かった。反逆した悪道神官2/3がやられるまで離脱の判断が行えなかったのだ。則ち戦場で求められる状況判断能力が不足していたのだ。
私は追跡を始めて早々に彼の魔力を発見することに成功した。
当然、その反応を追っかけて追い付くまでに時間はかからなかった。
「ようやく見つけたわ」
「ぐ……お前さえいなければ……」
彼は私に追いつかれたことに気が付き苦い顔をしていた。その程度の体力で逃げ切れるほど私は甘くはない。
「やむを得ん、加護の力を使わねばコイツには勝てぬな」
何を考えている?コイツは何をしようとしている?追い詰められているというのに死の恐れを感じていない。追い詰められている危機感すら感じさせない程の加護の力とは一体何なのか?私は一種の不気味さを感じ、ゾッとする感覚に襲われた。
そしてその感覚はすぐに証明された。
「まさか……!」
ワルカリアの加護持ちと同種の力だった。もはや悪道神官どころではないわね……。信仰を捨てた神官がいるなんて思わなかったわ……。
「我こそは真なる神に選ばれし者。野蛮人よ、跪け」
「断るわ」
コイツは跪くことを要求してきたけど降伏して跪くという選択肢は存在しない。ブーアクルバの手下に頭下げるなどありえない。
ただちょっと厳しいわね。相手がこの力を使うとなると今の私では純粋なパワーで勝てないのは明白、単独では力負けしてしまう。戦闘経験の浅さを突くしか無いのが辛いところね……。
周りに味方がいるなら連携して倒す手もあるんだけど……。
「断るとは愚か者め、この『浄滅の炎』で焼かれると良い」
私の拒否と同時にヤツは大魔法を発動した。
見たことのない魔法だけど、魔力の動きや魔法の名前から効果は大体推測できてしまう。ただ単純に周囲一帯を焼き払うだけの魔法だった。
これ、どこをどう見ても戦闘向けの魔法じゃないわね。ド素人丸出しの酷い魔法もあったものだよ。
敵の『浄滅の炎』に対抗して私も雷系の高速攻撃魔法である『マッハライトニング』を撃つ。魔法の発動を阻止することが目的だ。読みが正しければコイツは戦闘経験が少ない、なので魔法の衝撃で魔力制御を失敗させて大魔法を暴発させて自滅してくれることを期待した。
因みに魔力制御が狂わず発動しても何とかなるのは確認済みだった。身体強化で跳び上がりそのまま飛行魔法で飛んでしまえば良いのだから。
放たれた雷は魔法を準備していた敵に綺麗に直撃した。
でも大魔法はキャンセルには至らなかった。今も強力な魔力が渦巻いている。だけど効果は無かったわけではないようね。体勢がブレていた、恐らく体が衝撃でバランスを保てなくなったわね。
それに意識が途切れたことで魔力制御も随分と甘くなったようで魔法そのものに影響している感じだった。自壊や暴発させたりはできなかったけど、そこそこ痛めつけられたから良しとしよう。
私は飛んで『浄滅の炎』とやらを退避した。炎が消える前に気配を完全に遮断して近くの岩陰に潜んで機を伺った。ヤツが油断したところを一気に決めるつもりだ。
そしてヤツを観察して思わぬラッキーに気がつけた。ヤツの体はどこをどう見たもボロボロ、息も上がり、魔法制御はマトモに行えておらず隙しか無かった。
さっきの大魔法は全てを投げ出す覚悟で発動したことが伺えた。
既に勝機は私にある。
私は背後からヤツに迫り、背後から襲った。
ヤツが私に気が付いた時点で既に決着は決まったようなものだった。至近距離で不意打ちして反撃する隙を与えるほど私は弱くもなければ優しくもない。魔力は多くても白兵戦は素人以下の酷い戦闘能力しか無かった。結局躱すことすらできず首で刀を受けてしまい、即死した。
いざ戦ってみると呆気ないものだった。いかに戦闘経験が大切かを嫌というほど感じた戦いだった。私はあんな無様な死に様は迎えたくない。
倒しただけで全ては終わらない、コイツは殺して終わりというわけにはいかない。何しろ神官でありながら裏で邪なる者を神として崇めていたのだ。洗い浚い探りを入れる必要がある。
死体を担いで私は教皇のところに戻ることにした。
全てを明かし次に繋げるためには彼の協力は必須だった。私も教典や教国の歴史、残歴転生に聖人の歴史には詳しくない。
仮に調べる必要がなくても報告は必要だしね。
まぁ死体を運ぶ手間は調べる必要があるからでそれを考えないのなら適当に処理して放置でも問題はない。私は好きではないけどね。
考え事をしながらやっとの思いでヤツを引き摺り庁舎の前までやってきた。
周りの目線が気になるけどそれは気にしてはいけない。少女が大人を引き摺ってきたは普通なら異常な光景に映るはず、まぁ必要がなければ答えないけどね。
そしては私は死体を引き摺ったまま庁舎へと入っていった。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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