12話 悪道神官(上)
モグラの魔物を倒した翌々日、私は聖都ムエレルサの教皇府を訪れた。目的は教皇ガルブエリに先日の魔物討伐の報告と今後の活動についての打合せの為の会談だ。
面会自体は前日に予約をねじ込んだ。突如として私が教皇府を訪問したことで教皇府に混乱が起きたけど知ったこっちゃない。私は教皇に頼まれて魔物の討伐を行ったのだ、報告はしなければならない。
重要案件であり教皇からの依頼の証拠もあるけど、役人やってる神官どもは首を振らなかったので刀をチラつかせた。それで何とか「翌日に来てくれ」と言う言質を確保することができた。
正直こうも連中の頭がカチカチだとは思わなかったなぁ〜。知ってたらもう少し別の手を考えてたんだけどね。まぁアレコレ考えても仕方がないけど……。
そして着いた教皇府の本庁舎の周りは完全武装の聖騎士が何十人も待ち構えていた。完全に厳戒態勢だよコレ……。街は平和そのもの、何を警戒してるんだろう?疑問でしかないわね。
「おい、そこのお前!止まれ!」
…………え?
「大人しくしてもらおうか、昨日は教皇府本庁舎で剣を抜いたらしいな。武器は回収する」
あ〜、昨日の無能神官どもとの一件ね。刀は完全には抜いてないんだけどね。少しだけ鞘から走らせたけど。
それに冒険者から武器を取り上げるとか普通はありえない、無礼過ぎる。流石にちょっと腹がたってきた。
「教皇直筆の依頼書を否定するお馬鹿さんの肩を持つと?私や教皇のことをナメてるわね?私としてはここでお前ら全員纏めて絞め上げても良いんだけど?」
「なんだと!?小娘が!」
短気過ぎる。これが聖騎士とか世も末ね。しかも身なりからして隊長格、うん、終わってる。
「ぶっ殺してやる!」
お?剣を抜いたね。これで暴れる口実は手入ったわ。さぁどう調理しますかねぇ。
「あら、私を相手に剣を抜く度胸はあるのね」
「一々うるせぇんだよ!クソガキがぁぁぁ!」
「おいっ!やめろ!騎士が子供の挑発に乗ってんじゃねぇぞ!」
「騎士の誇りを忘れたのか!幾ら粗暴な子供でも子供だぞ!?」
あーあ、周りの騎士たちが抑えちゃった。
本当はブチのめしてわからせてやりたいところだけどね。
何もしないのは面白くないから煽っとこう、面白そうだし。
「なーんだ、腐敗したゴミだったなのね。出直してきなさい」
「なんだとぉ!?」
「これ以上挑発に乗るな!この恥晒しめ!」
「君もそこまでにしなさい!これ以上暴れれば狼藉の範囲だ!」
「フンッ!ならば喧嘩を仕掛けてこないでちょうだい。それと腐敗した嘘つき神官どもも潰してちょうだいね?」
腐敗した役人ほど要らない人材はそうそういない。なので思いっきり本音を叩きつけた。止められようが関係ない。今の私なら腐敗した連中に負けるほど弱くはないので、最悪の場合でも蹴散らすことも可能だし。10人20人掻き集めても無駄でしかないのよね〜。
「それを言われると耳が痛いのだが……。しかし少なくとも君にも非はあるからな?これ以上の狼藉は見過ごせんぞ」
「はいはい、で、入れるの?」
重要なのはそこだ。
「入っても良いが剣は抜くなよ?それと手も出すなよ?余計な騒動は勘弁蒙る」
「じゃあ、役人してる神官どもが馬鹿しでかしたらどうすれば良い?」
「すり抜けて教皇猊下の執務室を探せば良い」
妨害に対する対処法としてはとんでもない対処法な気がする。感覚が狂ってくるわね。
まぁ何であれお墨付きを得られたのなら問題はないよね、うん。
「分かったわ、では入るわね」
「待ちやがれ小娘め!お前ら離せ!追うぞ!」
「いい加減にしてください!教皇猊下に歯向かってるのは貴方です!」
「テメー、腐敗神官どもとつるんでやがるんじゃねぇだろうな?」
どうやら隊長と部下の隊員とで余計揉めてるらしいわね。抑え込んでいる聖騎士の皆さん腐敗したゴミの処理ご苦労さん♪
そして本庁舎に入ると役人になった腐敗神官どもからの敵対的な視線が飛んできた。
相変わらずだね。
まずは私も『にこやか』に、交渉するとしましょう。どうせ揉めるだろうけどね。
「さて、昨日教皇猊下との会談を取り決めましたが誰が案内してくれるんですか?」
さて、反応は……?
「何故……何故お前が生きている……」
「ば、馬鹿な……聖騎士団が負けただと……!?」
「こんな野蛮人に教皇猊下が会われるわけがないだろっ!」
……ん?何か言ったかコイツらは?
ナメた態度も大概にしてもらわないとね!
マトモな聖騎士からは「手を出すな」とは言われたけど流石に命を狙ってくる連中を放置しておくわけにはいかないわね。私として当然死にたくない、今後の生活の為にわからせてやる!
「おい、今なんか言ったか?覚悟はできてるんだろうねぇ!」
「ヒイッ!」
怯えるくらいなら不正をするなって話だよ!
ま、言ってもこのアホどもには無駄だけど。
と言うか、武の心得がまったく無い奴らがよく武人の私に見過ごせない愚行を行えたもんだよ。
「さて、中はどうなって……なっ、何が起きてるんだ!」
どうやら聖騎士の1人が本庁舎の中を確認しに来たらしい。驚きを隠せていない。
「不正を行うのみならず、気に入らなければ平然と侮辱し命すら狙ってくる輩に慈悲などあるわけがありません。意味はわかりますね?」
「い、命を?神官が……?神官がそのような行為を行うはずが……」
「現に起きてますが」
私は淡々と事実とそれに対する対処を述べた。
信じられない、彼がそう思ってるのがよく分かる。でも目を背けられては困る。
「聖騎士には『神官の掟』に違反した神官を処罰する義務、聖職者の不正に対する砦たる義務があります。当然聖騎士たる貴方も知っているはずですよね?コイツらを見過ごすのは聖騎士としてどうなんですか?」
「うっ…………」
信じていたものに裏切られた、その事実を受け容れようとしているのは分かる。でも一歩が踏み出せない。そんな感じがした。
その時だった。
「何があったのです?」
聞き覚えのある声がした。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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