10話 尋問と接触
馬車に放り込まれ寝てしまった後、起きたら詰所にいた。どうやらソファーに寝かされていたらしい。当然だけど手枷足枷は解かれていない。荷物は当然回収されている。容疑が解けるまでは返ってこないわね。
まぁ子供だから比較的丁寧に扱ってもらえてるけど大人だったら牢獄に入れられてたわね。
「ようやく起きたか、小娘め。私はリナポ市の聖騎士団駐屯所の所長のボードンだ。話を聞かせてもらおう」
どうやらこれから正式な取り調べが行われるらしい。
それにしてもリナポ市まで連行されたのね。まぁ目的地の1つの聖都ムエレルサには近くなったから良しとしよう。
「既に部下の騎士隊長から報告は受けている。ボルテスがこの道を教えるとは思えん。そもそもどこから入国したのだ?」
核心を突いてきた。間違いない、あの道を使った可能性を気にしている。そもそもあの感じからして入国ルートを怪しんでるのは当然だ。
「聖人のみが通れると言われている地下通路を通りました」
「何故それを知っている?」
「ボルテス本人の案内と儀式で祠の下の地下通路に入りました。疲労してたのは魔力体力を限界まで振り絞って駆け抜けてきたからです。あの通路の雰囲気が嫌だったので」
「そうか、これから彼には確認をとる。返答が返ってくるまでは拘束させてもらう。些か怪しいのでな」
うん、まぁ仕方がない。大人しくしているしかないわね。
子どもとは言え意識を取り戻した以上は向こうもそこまで配慮はしてくれなかった。手枷足枷を付けられたまま牢獄の独房に放り込まれた。まぁ独房だっただけ配慮はされてるわね。一般的な集団牢に放り込まれたらレイプの嵐だし。
それにしても不用心ね。手枷足枷に対魔法効果が無い。まともに魔法を使える人ならこんなの壊そうと思えばすぐ壊せられる。いや、ただの剣士と勘違いしたのかな?
正直な感想を言うと間抜けの一言に尽きる。
結局神官長ボルテスからの返答が来るまでに3日を要した。
結論から言えば私の容疑は晴れた。
晴れたのは良いんだけど直ぐに解放とはならなかった。教国としては私をそのまま放置しておくわけにはいかないらしい。そして非常に面倒な事に高位神官が多数押しかけてきたせいで政争に巻き込まれてしまった。
何が起きたかと言うと、あの通路を通ったことが真実であると言うことが証明されたことで聖人という扱いになった。結果的に余計な注目を浴びてしまい、教国の権力闘争に巻き込まれてしまったのだ。うん、頭が痛い。
権力闘争だけでも鬱陶しいのに武器にまでイチャモン付けられたり、ドラゴンの素材の取扱について要望が来たりと面倒なこと極まりない。
武器に関しては教国で一般的に使われてる剣に変えるつもりは一切ない。私のトーイス流は刀に最適化された剣術なのでそこを譲るつもりは一切ない。
それでも一部の過激な神官どもがあーだこーだ言ってくるけど威嚇して黙らせた。神官のうんちくが『技は職人に任せよ』を越える理になるわけがないわ。その程度の理屈すら理解できないのだから教国の神官の腐敗は確かに酷いわね。
ドラゴンの鱗と肉は一定数は残しておきたいのよね。鱗は鎧の素材になるけど今の私はまだ体が成長する。体格は遠からず変わるだろうから今作っても再来年くらいには使えなくなってる公算が高いのよね。だから一度作るまでは売ろうにも売れない。
肉は単純に珍味だ。これは譲れない、美味しんだもん。
そんなこんなで数日ほど大騒動に陥ったわけだけど、それを止めてくれた男がいた。教皇ガルブエリだった。
「ジャンヌさんですね。グレイシア王国の大神官ミハイルより残歴転生のことを含め話は聞いております。それにしても余計な騒動に巻き込まれてしまいましたな」
「想定外が重なって不審者扱いされてしまいましたので隠しきれなかったんです」
「しかし何故あの地下通路を使われたのですか?アレは非常に目立つ存在ですが……」
やはり一番の疑問はそこか……私としても普通に国境越えたかった。そう、普通に越えたかったんだけど王宮に私を連れ戻すために王国が国境警備を厳しくしてしまったのよね。
まぁ彼が残歴転生について明かしたくらいだからガルブエリは信頼はしても良いでしょう。腹を割って話しますか。
「王国側の国境管理が厳しくなってるんですよ。それで仕方なく迂回ルートを探すことになりまして、あのルートを選択しました」
「厳しくなったくらいなら問題ないのでは?」
「厳しくなった原因が私なのです。私の今世の生まれは王族ですからね。出奔してるわけですから逃がすまいと王国政府が動き出したんです。なので裏をかく必要がありました」
「え……?」
「まさか、存じなかったと」
「えぇ、それは知りませんでした」
どうやら本当に知らなかったらしい。ミハイルさん、言葉足らずですよー!
確かに生まれは大切ではありませんけどね。
「伏せられていた以上はミハイルの意図はともかく、生まれの話は些事でありましょう。これからのことを話さねばなりません」
「まず過去の残歴転生について調べたいと思ってるわ」
「わかりました。そちらについては手配します。後、残歴転生については教国にて箝口令を発令させます。聖人である話を含めて広めて良い事実ではない。情報の拡散を阻止する方向で動きます」
ありがたい申し出ね。とは言っても今の時点で既に面倒なことになってるけど……。
なので余計なことをしてくれている輩への制裁も考えなくてはいけない。そっちは追々で十分だけどね。
「ただ、支援しようにも今のこの国は問題を幾つか抱えております。どうにも周りが煩いのでそっちのけで支援は不可能です。特に私で手に負えない武力の絡む問題への対処をお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
「それなら大丈夫です。後で詳細を教えてください」
まぁ簡単に支援が貰えるわけがないよね。
仕事だ仕事!
ーーーーーーーーーーーーーーー
Sideガルブエリ
ジャンヌさんとの初接触の後、私は宿泊先の教会の一室で先程の会談について考えていた。
まず想定外の事件と動きによって予定していた計画は実行するまでも無くなった。
これ自体は良かったと言える。低級冒険者と教皇が会うなど普通はありえない、ありえないからこそ接点を作るのは難しい、それが難なく行えたのは予想外の収穫だった。
しかしリスクが無かったわけではない。
聖地に現れた魔物の討伐を依頼できなければ教皇として対処はほぼ不可能と言ってよかった。支援の対価として要求したがそれを受け入れてくれなければ話がややこしかった。
ギリギリだったと言って良い。
「まったく、彼女には本当にヒヤヒヤさせられましたよ……。それにしても王族だったとは想定外過ぎます。これから何もなければ良いのですが……」
そう、さらなる懸念事項として王族であると言う、とんでもない事実が明らかとなった。王族の血筋は厄介だ。その血筋には価値があり、発覚すれば権力闘争の渦に巻き込まれることは必至だ。それだけは避けねばならない。
さらに隣国の王族である為、外交上の問題になる可能性もある。
問題を引き起こさない為に彼女の身分は隠し通す必要があった。
「困ったことにこれから胃薬が必要になるかもしれませんねぇ……」
私の独り言は開けた窓から夜空へと消えていった。
いつも本作をお読みいただき誠にありがとうございます。
最近、思うように執筆の時間が取れなかったりするため、投稿頻度を減らさせていただきます。
今後は月曜日更新とします。
追いかけてくださる皆様には申し訳ありませんがご容赦ください。これからも理を越える剣姫をよろしくお願いします。




