9話 詰問
聖人のみが使える極秘ルートでチバンガ教国に密入国した私は強い眠気に襲われた。
急いでいたとは言え徹夜は流石にマズかったようだわ……。成長途中のこの体への負荷は大きすぎたみたいね。
え?なんでそんなに急いだかって?あの手の道は嫌なのよ!暗くてジメジメしてて不愉快なの!
とりあえず眠れる場所を探さなくてはならないわね。変な場所で寝て変質者や魔物に襲われても困るし。近くに町があれば良いけどそうじゃないと使い捨てのマジックハウスを引っ張り出さなきゃいけない。
マジックハウスを使うのは勿体ないし、怪しまれる可能性は否定できない。そういう事情もあってできれば使いたくないのよね。
バールン市の教会の神官長から地図は貰ってるので幸いだった。その地図によるとこの近くにヘムツベレと言う町があるらしい。そこまではなんとか辿り着きたい。
ヘロヘロの体で街道に出るべく歩みを進めた。あの道は街道に面してるわけではない。森の中にあったのだ。それは両側同じだったらしい。徹底した隠蔽が施されてるのがよく分かる。
今、この状態で魔物や山賊の類と遭遇したらヤバイわね。いないとは限らないのが怖いところ、油断なく進んでいく。
街道までは然程距離は無いのでそこまでは敵襲がなければ問題なく辿り着けるだろう。問題はその先、街道に出てからがそこそこ時間がかかる。具体的には普段の私の私でも昼くらいまでかかりそうな距離がある。
もう体が保つか保たないかの勝負だね。
そして少し歩いたところで街道には出れた。ここまで来るまでに魔物は見かけたけど非好戦的で余計なことをしなければ無害な魔物だったので放置した。これが好戦的だったりしたら危なかったわ……。
街道を歩いていて少しずつ足に力が入らなくなって行くのが分かる。やはり保たなかったのかもしれない。まだ森は抜けられていない。ここで寝れば山賊や魔物のおもちゃだ。
まだ街までの道程は半分近く残っている。これはどうするか、本当に考えなくてはいけない、そう考えて一度歩みを止めたその時だった。
「そこの君、何をしてるのだ?」
背後から声をかけられた。振り返ってみれば聖騎士の鎧を着た女性騎士がいた。その後方からは荷馬車が後を追っている。この騎士は教国内の物流の護衛をしてるのだろうか?山賊じゃなかっただけ良かったわ。
「私はヘムツベレの町に向かっている冒険者です」
「ヘムツベレ?確かにこの先だな。お前、取り敢えず手荷物などの検査をさせてもらう。1人でこの森にいるのは些か怪しいのでな」
ボロボロの状態で検査を受けることになってしまった。でも冒険者であることはすぐに証明できた。ライセンスカードに偽りはないからね。
検査では武器や持っている素材の類は犯罪対策の名目の下、徹底的に洗い出された。武器に関して言えば刀が異常なほどに目立っていた。そもそもこの形状の武器は教国ではまず見かけない。何故か、教典に記されている剣は両刃の直剣型の剣であり、それ以外が排斥されてきたからだ。
とは言っても国外から来ている冒険者には然程厳しくはない。当然だ、冒険者にとって武器は己の命を守る道具なのだ。余計なことをされて死ぬのは真っ平ゴメンだからね。
私もライセンスカードでグレイシア王国出身であることを提示しているので不愉快な顔をされはしたけどお咎めは無かった。
他の荷物で目立つのはやはりドラゴンの素材だった。
そもそもドラゴンなんてまずお目にかかれない上に、遭遇してしまったら『死』を意味すると言っても過言ではないバケモノと言うのが一般常識である。ソレを大量に持ってる私は騎士たちからしたら「何者だ?」って話になる。
「これはどこで手に入れた?」
案の定質問の対象となった。
「ボルバリ山脈です」
やましいことはないので即答した。
しかし彼女は妙な顔をした。
「ボルバリ山脈?あそこでテロがあったという話だったがそもそも入れるのか?」
「え?テロ?」
「あぁ、邪教の信奉者たちが未熟な冒険者を利用して腐ったポーションのデタラメな処置でスタンピードを引き起こす計画だったそうだ。既に教国聖騎士団がその組織の拠点を落としている」
あれは何者かが仕込んだテロだったのか。冒険者ギルドにチクっておこう。
それにしてもさっきから何か体に違和感を感じる。魔法の探知は使っていないのでよく分からない。
「そう言えば眠気が少し引いたような感じがしますが何かしましたか?」
「詰問用の魔法の1つを利用している。寝ようなどと考えないことだ」
あー、そう言えばそんな魔法あったねぇ……。眠って黙秘しようとする犯罪者を眠らせない為に開発された魔法が……。
「あ、それ今はありがたいです。切らないでください」
「?」
今はそれを維持してくれるだけで助かる。
多分解かれた瞬間に私は寝落ちするわね。
「それとそのボルバリ山脈でのテロの件は片付いてます。魔物ごとその薬品は焼払う形で処理しました。危険薬品1つ残さず焼けきれてると思います」
「は?お前は何を言ってる?」
「先日、ちょうどその場面に出くわしましてその場で処置しています。まさか教国の方で事件捜査が行われてるとは思いませんでしたが」
「だから事の顛末を知っていたのか。邪教徒共の組織の繋がりは深い気をつけたまえ」
どうやら誤解は解けたらしい。正直安堵した、しかしそれが顔に出てしまった。
「だが問わねばならない。何故この道を選択したのだ?森の外の主要街道の方が楽なはずだ。それに妙に体力を消耗している。答えによっては命はないぞ」
どうやらこの街道そのものが特殊らしい。まぁあんな抜け道が近くにあるくらいだしね。素直に言った方が良さげね。
「バールン市の教会の神官長ボルテスよりこのルートを教えてもらいました」
多少の誇張はしたけど嘘とまでは言えない……はず……
「なんだと?ボルテスが?事情は詰所で聞く」
そして私はこの聖騎士によって連行されることになった。手枷足枷を着けられ荷馬車に放り込まれた私は犯罪者の取り調べで使われる魔法が途切れたと同時に寝てしまった。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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