第4章 9話
土煙が晴れて現れたのは上空からのミサイルを口で咥えて翼をズタズタにされたティアだった。
「お姉さま!!治癒!治癒!治癒!治癒!」
「やって……くれるじゃない!ペッ!」
戦闘機からのミサイルは直前で氷結で凍らせていたおかげで際どく爆発を免れていたようだ。
「レヴィ、もう大丈夫よ。ありがとう。私は海から撃ってきた奴等をぶっ殺してくるわ。レヴィは戦闘機をお願い」
「は、はいっ」
そう言ってすぐに海の方へ飛び去っていった。
お姉さまがキレていますね……。このまま突っ込ませるのも不安ですが話を聞いてくれるような雰囲気でもなさそうです。
しょうがない。戦闘機を速攻で片付けてお姉さまの救援に向かいましょう。私のスピードなら戦闘機にも負けないはずです。
上空にいる戦闘機を見て少し考える。お兄さま直伝の水弾を六つ作りキュルキュルと回しながらそのまま私の周りに滞空させた。これでも魔法を動かすのは上達して来たのです。さて、追いかけっこの始まりです。
いったん戦闘機よりも上の高度まで一気に上昇すると回転して戦闘機の真後ろにつく。
水弾を放つ。一発、二発。戦闘機の横に並走させる。さらに上下からも。これでもう前にしか進めない。
「サヨウナラ」
前もって放っていた水弾を前後から囲うように六方向からの挟み撃ちで押し潰す。戦闘機は一つの水球となり落下していった。思っていたよりあっけなかったですね。
さてお姉さまはどこまで行ったのでしょう。早く応援に行かないと。
イライラする。痛みと怪我はレヴィの治癒で治っているけど、怒りで感情が昂っているのがわかる。
「ゆるせない」
主はいう。赦しなさいと。主はいう。罪人は愛するけど、罪は断罪されます。父よ。彼らをお赦しください。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです。
「悔い改めよ。あぁ、やっとみつけた……」
海上に浮かぶ大型の艦艇。間違いない。あれね、撃ってきたのは。
こちらを発見したのでしょう。機関砲がこちらに向かって弾丸を飛ばしているが問題ない。それは当たっても大丈夫。
艦艇の中心に向かって構わず突っ込む。そうね。あれは半分に折ってしまおう。
「さぁ、懺悔なさい」
レヴィがティアに追いついた時にはすべてが終わっていた。艦艇が真っ二つに分かれ沈もうとしていた。
あぁ、お姉さまの顔がスッキリされてらっしゃる。そろそろ魔力も少なくなってきたしダンジョンに戻らなきゃですね。
「お姉さま、そろそろ戻りましょう」
「そうね。少し疲れたわ。甘いものが欲しいかしら」
◇◇◇◆◆
運転席に僕が入ると、レイコさんとヨルムンガンドちゃんは普通に後部座席に乗った。何だろうちょっと涙が出そう。男の子だから我慢しよう。
「ヨルムンガンドちゃんを一人には出来ないので後ろで一緒にいますね」
だよね。知ってたよ。
「うん。ありがとう」
「車よりさっきのやつが楽しかったぞ」
同感だね、ヨルムンガンドちゃん。僕もそう思ってたよ。
「山梨は遠いから走っていけないのよ」
「つまんねーの」
車はETC搭載車だったため、富津金谷I.Cから東京湾アクアラインへと向かう。知らないワンボックスカーの人ありがとう。ちゃんと財布も頂戴しました。ガソリン代とか必要になりそうだしね。
「うちも吊り橋じゃなくて、でっけぇ橋架けたいな!マスター!」
アクアラインを見ながらヨルムンガンドちゃんが言っている。沼地にでっけぇ橋架けて通過しやすくしてどうすんのよ。
五歳児は影響を受けやすいのである。きっと富士山を見たらまた欲しがるだろう。
「うん。そうだねー」
首都高を新宿方面へ抜けて中央自動車道へ入る。車の揺れであっさりとヨルムンガンドちゃんは睡眠タイムへと突入した。
「タカシさん。ありがとうございます」
「お礼なんていいよ。僕にとってレイコさんは『千葉ダンジョン』の大事な仲間であり家族でもあるんだから」
「はい。それでもうれしいんです」
ラジオをつけると二体のドラゴンが房総半島の先端で暴れて戦闘機四機に艦艇が一隻沈んだらしい。艦艇沈むんだ……。二人とも怪我がないといいのだけど。
車は河口湖の料金所を出て鳴沢村方面へ向かった。




