第22章 15話
新しく完成したばかりの教会では、神父役を引き受けることになったエディが中央に立ち、どこかで見つけてきた聖書を見ながら、それっぽい言葉を発している。
「タカシ、あなたはここにいる三人を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「はい、もちろんです」
「ティアちゃん、レヴィ、そしてレイコ、あなた達は、今、タカシさんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも富めるときも、貧しいときもこれを愛し、敬い慰め遣え共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「ええ」「勿論です」「はい」
「では、誓いのキッスをいっちゃって!」
キャー! とか言いながら目を隠すようにしているが、手の隙間から完全にこちらを覗いてるのが丸わかりだ。雰囲気ぶち壊しだぞエディ。
三対一で合同結婚式やる人とかいないだろう。せめて、日程を分けたりすると思うんだよね。そもそも、三人連続でキスするとかハードルが高すぎるというか、三人はそれでいいのだろうか……。
「タカシ様」
「お兄さま」
「タカシさん」
ティア先生、レヴィ、レイコさんが目を瞑りながらも僕に近づいてくる。こ、これは、あれだ。同時にしろということなのだと理解しました。
真ん中にティア先生。左側にレヴィ。右側にレイコさん。三人の唇が僕の目の前に。緊張の瞬間だ……。
僕は三人を抱きしめるようにして、その唇に自分の唇を押しつけた。
なんというか、誓いの言葉通りなんだけど、これからずっと僕の人生をかけて守り続け、きっと様々なことでみんなに支えられていくのだろう。それは今までと一緒なんだけど、あらためて覚悟を問われているというか、これは、けじめのようなものなんだね。
「ティア、これは水魔法を増幅するサファイアの指輪。僕からの結婚指輪だよ。濃いブルーでとても力強く、ティアにぴったりだと思うんだ」
「レヴィにはスピード上昇を付与したタンザナイトの指輪。深いナイトブルーはレヴィの美しさに似合うと思うんだ」
「レイコさんにはダイヤモンドの指輪を。これには魔力量が少ないレイコさんに魔力消費量を減らす付与をしてあるんだ」
「お兄さま、こ、これは付与……エンチャント魔法ですか!?」
「うん、宝石にイメージした魔力を閉じ込めようとしたら何となく出来ちゃった」
「出来ちゃったって……。まぁ、タカシさんらしいですけど」
「とっても嬉しいですわ。これで、もっと水魔法を極められますわ!」
「これからも、いや、ずっと愛してる。ティア、レヴィ、レイコさん。これで何かが変わるわけではないけれど、なんと言うか、この世界でこれからも幸せに暮らそう」
「はいっ」
新しい世界、新しい街。ここから僕たちの新しい生活が始まる。
街には植樹や水が多くみられる。もちろん、道の両脇には菜の花が生い茂り、てんとう虫も飛んでいる。木々は日陰をつくり、夏の陽から憩いをつくる。水は街を縫うようにして広がり、作物を作るため、みんなが生活するために利用されるはずだ。
ハイポージア公爵領は魔法と電気が融合し、そして水が豊富に溢れる街を目指していく。このあたりは魔王様ともいろいろ話をしていて、新しいものや技術を持ち込んでほしいと言われている。水は人が生きていく上でなくてはならないものであり、とても大事なもの。僕の得意魔法は水魔法だし、水とは何かと縁がある。ティア先生、レヴィの双子姉妹は水竜だしね。みんなが過ごしやすい暮らしの場を提供することで、街を拡大していきたい。
しばらくしたら、第三世界からも多くのダンジョンマスターがやってくるし、第二世界からも多くの人々がやってくる。ドワーフ達には新製品のための採掘や道具作りを手伝ってもらうことになっている。エンチャントビジネスでしばらくは国内や隣国でも利益を生み出せるだろう。
「タカシ様、次はどんなことをされるのかしら?」
「えー、しばらくは街の発展を眺めながら気ままな領主生活を送りたいと思っているんだけど」
「お兄さまがじっとしていられるのは考えづらいというか……」
「タカシさん、巻き込まれやすいですからね。魔王様にいろいろ面倒なことを押し付けられるかもしれませんよ」
なんと、不吉な……。い。いや、全然ありえそうで本当に怖い。
「そうだわ! いいことを思いつきましたの」
「何を思いついたのティア?」
「せっかく結婚もしたのですから、ここは……」
「ここは?」
「え、えっと、そ、その、側室としてお子を授かりたいと思いますの」
「そ、そう。水竜と人間で子供つくれるのかな……」
「タカシ様なら魔法で何とか出来ちゃいそうな気がしますの」
僕の魔法って何でもありになってきたな。でも、久し振りに緊急事態のない時間を過ごすことは確かな訳で、きっとこういう時に子育てした方がいいのかもしれない。
「よ、よしっ、みんなの子供をつくろう!」
「私が一番よ! お姉さんだからね」
「お姉さま、姉は我慢するものと聞いたことがあります」
「わ、私は姉妹ではありませんっ!」
それぞれの子供たちが活躍するのは、また別の話。
タカシ達は、これからもあわただしく、そして楽しく仲間と共に生きていくことでしょう。
了
約二年間の長きに渡り、おつき合い頂き誠にありがとうございました。これにて、ダンジョンの管理人は完結とさせて頂きます。また、違うお話でお会いできることを楽しみにしております。




