第22章 14話
「マスター、そろそろ時間っすよ。準備は出来てるっすね」
「あー、ピースケ、さすがにちょっと緊張してきたかも」
街づくりの方は順調に進んでいて、来週ぐらいには僕たちも引っ越しすることになっている。第二世界、第三世界とともにポイントをクリアしたマスター達も住むことになるので、これからまたバタバタと忙しくなりそうだなと思いながら窓の外を見てみる。完全に後戻りが出来ない、逃げ出せそうもない光景が広がっている。い、いや、逃げるつもりはないんだけどさ。
フレイ! ハイポージア! フレイ! ハイポージア! フレイ! ハイポージア!
外から聞こえてくる歓声は、ハイポージア家、つまり魔王様の娘であるアモナ姫と僕の結婚をお祝いする喜びの声なのだ。この結婚により、僕は正式にハイポージア公爵となることが決定している。完全に魔王様の右腕となってしまった。今のところ理不尽な命令とかはないし、争いのなくなった今、求められているのは内政強化によって経済をまわしていくことになる。そういうことであれば、うちにはレイコさん、レヴィ、エディといった強い味方がいるので任せておけば、きっとものすごい成果をあげてくることだろう。僕が動くとしたら隣国との貿易関連だろう。新商品や電力エネルギーなどのネタはたっぷりあるので聖女様や新しい公爵様が困らない程度にはお金を稼がせてもらおうと思う。
「それにしても、まさかマスターと本当の兄弟になるとは出会った時からは想像できなかったっす」
「それはこっちのセリフだよ。まさか自分がダンジョンマスターにさせられるとは思わなかったよ」
コンコン!
「お兄さま、そろそろ行かないと魔王様に怒られますよ」
「えっ、僕待ちなの? やばいな、じゃあ行こうか」
今日は、結婚の発表とお披露目という名のパレードが予定されている。夜には貴族を中心としたパーティーがあるので、ほぼ一日拘束されてしまう。もちろん、隣国からベルサリオ王や聖女様にも来ていただいている。
「レヴィ、みんなの様子は?」
「お姉さまとレイコさんは街の方へ行かれています。電気の配線を街に引き込む工事があるそうでエディのお手伝いをするみたいです」
まあ、アモナ姫と僕の結婚発表なのであまり嬉しいものではないのは理解している。
「二人とも機嫌は良さそうでしたよ。昨日の結婚式とお兄さまから頂いた結婚指輪がとても嬉しかったようです。どちらかというと、お二人とも街の整備にやる気をみせていますね」
なるほど……。それはよかった。正直、この世界では、形上とはいえアモナ姫を第一夫人として扱わなければならない。でも、僕としてはティア先生、レヴィ、そしてレイコさんとの結婚を優先させたかったのだ。三人ともそういう形的なことを気にしない性格でとても助かった。いや、僕に気づかれないようにしてるだけかもしれないので楽観的に考えるのはよくないかな。
今までも、そしてこれからも、みんなを大事に思うことに変わりはない。
◇◇◇◆◆
「レイコさん、ちょっといいですか?」
「えっ、あっ、は、はい。あ、あの、ちょっと待ってください」
何やらドタバタと何かを隠すような音が聞こえながら待つこと二分少々。そーっと扉が開かれて部屋に招き入れられた。何か見られてはいけないものでもあったのかもしれない。まあ、長い付き合いとはいえ、話したくない隠し事の一つや二つはあるのだろう。
「結婚式ですか?」
「うん、レイコさん。アモナ姫との発表を行う前に、みんなとの結婚式を挙げたいと思っているんだ」
「そ、それは……とても嬉しいです」
「それで、新しく建てたハイポージア公爵領の教会でウエディングドレスを用意したりとか考えているんだけど」
「それでしたら、すでに準備は終わっております。タカシさんが第二世界に行っている間に、個々のドレスは仕立て終わっておりますので」
マジか……。そんな話とか一切したことがなかったのに……。外堀は知らず知らずのうちに埋められていくものなのかもしれない。
「そ、そう……」
「それで、いつ行うのですか? 確か、アモナ姫との結婚お披露目の日はもうすぐなのですよね」
「うん、前日に行おうと思うんだけど、どうかな?」
「タカシさんが大丈夫なのでしたら、それで構いません」
お披露目の前日と言っても男の僕にたいした準備は必要でない。逆に前日とか魔王城近くにいたら、いろいろと貴族の挨拶やら魔王様のお相手やらで面倒なことこの上ない。
「それじゃあ、二人にも伝えてこようかな」
「そ、それが、その……。二人とも出てきてください」
柱に隠れるようにしていた二人は、何だか少しだけ気まずそうにしながらもゆっくりと出てきた。
「そ、その姿は……」
二人の姿は白いウエンディングドレス姿で、恐らくだけど、仕立てたドレスの試着をしていたところ僕がこの部屋に来てしまったのだろう。水竜姉妹だけあって、ドレスのデザインは水の流れを模したデザインでティア先生はより大人っぽく、レヴィは少しだけ大人っぽく見えた。
「秘密にしていたのですけど、もう秘密にしなくていいかと思いまして」
「タカシ様、その、どうかしら?」
「お兄さま、みんなでいろいろ考えて、デザインしたんですよ」
「うん、とっても似合っているよ」
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