第22章 10話
「ピースケ、あの山で採掘したの?」
「そうっすね。右半分が抉れているのは爆破したからっす!」
その大きな山は、確かに半分抉れていて崩れていた。ちょっと危険な感じにも見える。
「この世界では宝石に興味のある人が少ないんだね。結構な高値で取引されるんだけどなー」
「うーん、綺麗なだけで役に立たない石には、誰も興味を持たないっすよ」
さすがは魔王領、実力主義が根づいている。価値が無いからこそ、このように雑な採掘をしているということなのだろうね。おそらく、ピースケがプレゼントするために採掘した以降は、そのままの状態で残されている感じ。本当に誰も宝石に興味がないらしい。
「役に立たない石ね……。ところでピースケは何で宝石に興味を持ったの?」
「父上が結婚する時に、母上に綺麗な石を指輪にして捧げたと聞いたっすよ。生涯の愛を誓うのに、長い年月をかけてつくられた石に例えるなんてロマンチックだと思ったっすよ」
なるほど、これはこれで商売になるんじゃないかなーと思わなくもない。ロマンチックな魔王様だ。
「それで、ピースケが見つけた石は紅い石だったんだよね。他にもいろんな種類があったりするのかな?」
「原石だとわかりづらいっすよね。自分は採掘した中でピンときた一番綺麗な石を選んだだけっす」
宝石に詳しくない、第一世界ならではといった感じだよね。僕も原石に詳しくないんだけど、ピースケの言う通りインスピレーションというのは大事にしたい。みんなのことを考えながら石を選ぼうか。
「よし、爆破しよう!」
「マスターも爆破するっすか!?」
「うん、まぁ、僕も採掘詳しくないからね。第二世界のドワーフ達が聞いたら怒られそうだけど、同じようにやるしかないかな」
◇◇◇◆
「レイコ、あと吹っ飛ばすのはどの辺りかしら?」
「えーっと、もう大丈夫ですね。あとは、細かい水路を街の縦横にお願いしたいです。レヴィを待ちますか?」
とはいっても、レヴィとヨルムンガンドちゃんはエディ指導のもとダム造りに行っているので、こちらに戻ってくるのはもう少し時間がかかるだろう。
「うーん、地図を見せてちょうだい」
私の持っていた地図を奪い取ると、じっくりと眺め始めたティア先生。
「なるほどね、この水路が街を巡り、そして川へと流れていくのね。だいたい把握したわ」
「ちょっと細かいですから、みんなが来るまで休憩にしますか?」
「いいえ、私一人で十分よ。こういうのは勢いが大事なの。それに失敗してもまた平らにすればいいのでしょ?」
ティア先生がとても男らしい。たまに頼りになるお姉さん的な面が出てくる時があるので、判断に困る。でも、失敗してもやり直せばいいというのは、あながち間違いでもない。
「私も何かお手伝いしましょうか?」
「大丈夫よ。これぐらいなら私一人で一気にやってしまった方がいいわ。イメージしやすいもの。でも、そうね。レイコ、手を貸してもらえるかしら?」
「!? 手、ですか?」
「ええ、少し魔力を消費し過ぎてしまったから、レイコの魔力を少し貸してもらえるかしら」
「あぁ、そういうことですね。了解しました」
了解はしたものの、魔力って貸し借りできるものだっけ? と不思議に思っていたが、ティア先生はまるで普通のことのように手を伸ばす。一応というか、私たちの中では真面目にやれば、ティア先生の魔力操作が一番精度が高いのは確か。それに、失敗しても何度でもやり直しのきく状況なので、ここは思い切ってお任せしてみるのもいいかもしれない。
「ブツブツ……。全体的に等間隔に広げていき道幅を確保しながら……」
「ティア先生? ひぃやぁ!?」
急激に魔力が吸われていく。私の魔力の半分ぐらいが一気に持っていかれた……。ティア先生の髪は溢れる魔力で逆立っており、ちょっと神々しく光り輝いていて……なんだかちょっとカッコいい。
「行くわよ。水よ、私の思い描く通りに弾けなさい! 水弾!!」
こんな水弾は見たことがない。いや、これはもう水弾ではないだろう。タカシさんの魔法もそうだけど、全てをこの初級魔法で片付けてしまうのは何だかずるい。ティア先生の前方には大きな魔法陣が街を覆うようにして広がっており、私の持っていた地図を模写するようにして青く光り輝いていく。
「こ、こんなものかしら……」
「ティ、ティア先生!?」
すべての魔力を消費してしまったからだろう。魔法の成功を見届けるとそのまま私に倒れかかるようにして気を失ってしまった。
信じられないことに、目の前には手元の地図の通りに見事に水路が掘られていた。凄い……。ティア先生が、また一歩タカシさんに近づいていっているのがわかる。私も負けられない。魔法ではまだ敵わない。でも、私にしかできないことだってある。この場所が素敵な街になるように、私たちにとって幸せな世界になるようにそのお手伝いをしていく。この自由な世界で、みんなと共に生きていく。
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