第21章 2話
僕はメルビル君を確保するためにダンジョンの外へと向かっていた。確保の仕方については悩んだ。下手に耐性をつけられては面倒なので攻撃魔法は極力使いたくない。
「タカシ様、こちらが魔力を奪う足枷です」
「ありがとうドロシー。魔力が使えなければ勇者も力は半減するよね」
ドロシーがイムレアちゃんに装着させた拘束具をメルビル君にも利用しようと思っている。そして、僕は彼を治癒漬けにしようと考えている。攻撃魔法で耐性を得られてしまうのは避けたい。ならば、攻撃しなければいいのだ。治癒に耐性なんかついてしまったら、メルビル君は今後味方からの回復魔法を受け付けない体になってしまうのだ。
「で、でも、どのように拘束するのですか? 勇者は危険ですよ」
「大丈夫、大丈夫。僕って姿を消すことができるから、ステルシーに安全に装着できるんだよ。こんな風にね」
「き、消えました! タカシ様!?」
「これは僕のスキルで透明になれるんだ。じゃあちょっと行ってくるね。僕はこのあと、メルビル君と『トリーニ山ダンジョン』へ行ってくるから、イムレアちゃんと仲良くね」
「は、はい。ご無理をなされないように」
いつも通りにスキルで風人、透明化の重ね掛けをする。メルビル君を捕獲したら地上へダイブすることになるからね。
「!?」
「あー、ウンディーネとジルサンダーはお留守番しててもらえるかな。何もないとは思うけど、『空島ダンジョン』を守ってもらいたいんだ」
ウンディーネからは了解の意志が伝わってきた。これから地上は大変なことになるはずだから、このダンジョンに脅威が迫ることはほぼ無いと思う。それでも、もしもの事態が起きた場合に、残り一か月間の僕の住まいが無くなってしまうのは悲しいのだ。
「さて、メルビル君はまだ傷心状態のままかな。とりあえず、耐性とかの前に一気に治癒漬けにしよう」
ダンジョンを出ると、相変わらず燃えた気球の前で放心状態のメルビル君が佇んでいた。メンタルが弱すぎるな。若い勇者であるが故の心の弱さだろう。
あっさりと魔力を奪う足枷を装着すると、違和感にようやく気付いたのかメルビル君は焦りだした。
「だ、誰だ! な、何をした! なっ、魔力が、魔力が失われていく……」
「普段から魔力に頼っているメルビル君には、ちょっと大変かもしれないね」
「ど、どこにいるんだ! す、姿をあらわせ!」
残念だけど、普通の状態で君と会話することはもうないんだ。
治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒、治癒
「あ、あひっ、あひゃ、ひっひ、ひやぁ、あひゃひゃ、あひゃ、あひゃ、あひっ、あへっ……ふへへ」
やはり、生物として回復魔法に対しての耐性というのは勇者とはいえ得られないらしい。残念だったね。僕の治癒は普通じゃないんだよ。勇者対策ってもう治癒で大丈夫ということなのかな……。
「さて、下に降りるにしても、メルビル君を背負って降りなきゃならないというのが気持ち悪いな」
口は半開きで、ヨダレを垂らしながらビクンビクンしている。きっと、下もお漏らしをしていることだろう。
「あーまぁ、しょうがないか。とりあえずは下に降りるまでだ」
メルビル君の足を掴んで、空島から放り投げると、追いかけるように僕も地上へ向かってダイブしていった。
目標は『トリーニ山ダンジョン』。訪れる学園の生徒をメルビル君を操って蹂躙していく。
ダンジョンモンスター達については相談になるか。希望によっては『空島ダンジョン』に連れていってもいいだろう。
「見えた。あれだね」
山の中腹に整備されたダンジョンの入口が見えてきた。封鎖されているようで、警備の兵が立っている。そろそろメルビル君を掴んで姿を消さないとね。
僕が掴めばメルビル君の姿も見えなくなる。警備兵を避けるようにして、ダンジョンに入っていく。
「ん? 誰か通ったか?」
「いや、人なんかいねぇよ。学園の生徒が来るのは明日だろ?」
「だよな。気のせいか……」
ダンジョンの中に入ると、無数のコボルト達の姿がみえる。今は、とにかく最奥の階層まで行こう。解放ダンジョンだから、ダンジョンマスターはいないだろうけど、コボルトリーダーがいると言っていた。
「コボルトリーダーを使って全員と意志疎通を図ろう。彼らの気持ちも確認しないとならないからね」
「あひっ、あひょひょ、イヒッ」
それにしても人間って簡単に壊れちゃうんだね……。久し振りに調整なしの治癒を撃ったけど、これが回復魔法だとは誰も思わないだろう。
ここからは裏切りのメルビル君のターンが始まるよ。勇者育成の学園都市なんて吹き飛ばしておかないとね。
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