第20章 4話
王都から街道沿いに南へ進んでいくと、キュトラスの街が見えてくる。王都へ向かう最後の宿場町として栄え、農作物等の生産拠点としても有名だ。
「流石に警備がしっかりしているね」
門には衛兵が立っており、普通に街に入ることは難しそうだ。僕とウンディーネはスキルエレメントと透明化によって空から壁を越えて入らせてもらった。
「空から街全体に描かれている魔法陣を確認できたのはよかったね。とりあえず、中心部に向かおうか。そこにジルサンダーもいるんだろうからね」
ウンディーネは興味がないようで、僕の頭の上でお昼寝しているようだ。器用に髪の毛を自身の体に巻きつけて落ちないようにしている。
上空から見るキュトラスの街はとても静かで外を歩いているのは配給の準備をすすめている衛兵ぐらいだった。もう少ししたら、人出も増えるのかもしれないが、やはり街全体に暗い雰囲気が漂っている。
さて、魔法陣の中心部はと。中心部と思われる場所には家が建っており、周辺は衛兵によって警備されている。気にせず、窓の隙間から家の中へ入っていくと家の中にも警備の兵がいる。
なかなかに、厳重だね。場所はここで間違いなさそうだ。しばらく、部屋の中を確認してみたけど、どうやら地下室に魔法陣の中心部があるっぽい。地下へ向かう扉は鍵が掛けられていて、警備の兵もどうやらここまでのようだ。
扉の隙間からするすると侵入に成功すると、ようやく目の前に魔法陣が見えてきた。そして魔法陣の中心には白いキメラが身動きがとれないように鎖で何重にも拘束されていた。
「よう、ジルサンダー元気だったか?」
キシャアァァァァ!!
「一応、警備の兵が気にするかも知れないから静かにしておいてもらえないかな?」
どうやら魔力を吸い上げられているようで、気のせいか、ジルサンダーが一回り小さくなっているような気がする。
魔法陣に触れてみると何と無く理解できたのは、この大型の魔法陣は維持するだけでもかなりの魔力が必要になるということだった。
キシャアァァァァ!!
声も少し弱々しく感じられなくもない。あと二~三日もすれば限界といったところか。メルキオールなりに逆算して魔法陣を設置したのだろう。
「どうせ死ぬのなら早めに殺してあげようか?」
グルグルゥー、グルグルゥー
どうやら殺されたくないようで、鎖で思うように身動きがとれない中、喉を鳴らしながらお腹をみせ、完全服従体勢をとってみせた。
「お前も仲間に裏切られたようで可哀想だとは思うんだけど、どうやらこの魔法陣はもう起動してしまっているようなんだ」
グルグルゥー、グルグルゥー
「つまり何が言いたいかというと、例え魔法陣を壊したとしてもジルサンダー、君も一緒に壊れてしまう。君と魔法陣はもう一体化してしまっているんだ」
グルグルゥー
どうやら自分でも感じるところがあったのか、再び元の体勢に戻ると今度は何かを要求し始めた。
いや、僕キメラの言葉わからないし……。
「うん? ウンディーネ?」
どうやら、通訳をしてくれるらしい。優しい精霊さんだ。
えー、なになに。最後に美味しいご飯と雌を用意しろ。ご飯は生きている人間の若い女がいい。キメラの雌は王都にいくらでもいるはずだ。
「随分舐めたこと抜かしてるじゃないか。残念ながらすべて却下だ。しょうがないからご飯ぐらいは面倒みてやろう」
キシャアァァァァ!!
「そうだな。僕がこの魔法陣を調べ終わるまでの命だ。それまでは美味しいものをご馳走してあげよう」
残念ながら助けようにも魔法陣を維持するための燃料に設定されてしまったジルサンダーを助けることは出来なそうだった。ざっと見た感じだと、最初の設定で魔力を大量に込めておけば生け贄などいらなかったのだろうが、メルキオールにそこまでの魔力はなかったのだろう。
「まぁ、付いてなかったな。ここまで騙されて連れてこられたんだろうね。ほらっ、とりあえず、生肉でもやろう」
グルゥー、グルゥー、グルグルゥー
ウンディーネの通訳が頭の中に響いてきた。
なになに、肉はブルーレアで焼き上げろ。無理ならレアでもいい。焼きすぎるなよ! とのこと。ちなみに、ブルーレアとは生肉の状態からほんの少し火を通した状態を言うらしい。
「ほとんど生と変わらねぇじゃないか! ぜいたく言うな」
とはいえ、ちょっと可哀想になったので、生肉をカットして少しだけ火弾してあげた。
べ、別に、感情的になんてなってないんだからね。
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