第18章 14話
僕は一瞬で白いキメラを殲滅させると、そのままティア先生の元へといく。
治癒
「ごめんね。もう少し早く来れたらよかったんだけど」
「こ、これぐらい大丈夫で……」
傷のあった場所を撫でるようにしながらゆっくりティア先生を抱きしめる。仲間が傷付くのは自分の心も抉られるようにきつい。
そういえば、すぐ横にカイトさんがいたんだっけと思うとちょっと恥ずかしくなってきた。ごまかすようにウンディーネも一緒に撫でてあげると、それはそれでプルプルと喜んでいるようだった。
隣をみるとカイトさんは既に自分で回復させていたようで、右手をあげて大丈夫だよと言っているようだった。
「な、何だ、その魔法は!! 見たこともないぞ! そ、そうだ侯爵一家を……のあっ!」
メルキオールは振り向きざまに歩きだそうとした瞬間に違和感を感じる。動かない。いや、足の感覚がないのだ。
「侯爵一家をどうするのかな? 君の足はもう使い物にならないんじゃないかな。無理に動くとちぎれるよ」
メルキオールの下半身はゆっくりと凍りつきながら徐々に上へ上へと上がってきている。近づいてくる死の恐怖に懇願する。無理だとわかっていても懇願してしまう。
「た、助けてっ! ひあぁ! た、たす、お願いします。な、何でも、何でもします。あっ、そうだ! お、俺の秘密のスキルを教えるからっ!」
目の前で一瞬で氷の欠片と化した白いキメラがいるのだ。自分の未来を想像することぐらいとてもたやすいことだろう。スキルねぇ……。『交配』だっけ?
「タカシ君、このままキメラのように壊してしまってはこの後の作戦に差し障りがある。殺す前にアモナ姫にスキャンをさせないと」
「そうでしたね。冷静になっていたつもりでしたが、どう殺そうかとしか考えていませんでした。すぐスキャンさせましょう」
アモナ姫は部屋の雰囲気に驚きながらもすぐに状況を理解してメルキオールを認識していった。こうなるとアグノラに変身しているレヴィを回収してメルキオールを誰かに演じてもらう必要がある。やはりレイコさんが適任というか他の人がダメというか……。
「タカシ様、そういえばレヴィはどこにいるのかしら?」
「レヴィは訳あって今はアグノラという若い副師団長補佐に変化してもらっているんだ。アモナ姫、アグノラはまだ気を失っている?」
「は、はい、とても幸せそうな寝顔をされていますわ」
「タカシ君、つまりは、そのアグノラさんに顔バレしてしまったということですね。それにしても副師団長補佐という地位は何かに使えそうなので惜しいな。何か使える方法があればよいのですが」
「副師団長もスキャンしているので最悪は何かしらの処理をしてしまえばよいかと思っています」
「なるほど、治癒漬けですね」
何故カイトさんまでそれを知っている……。まぁ正解だから何も言えないんだけどさ。
「そうしたら、まずはレヴィさんの変化を解除してアグノラさんには申し訳ないけど治癒落ちしてもらいましょう。少なくともこの2週間は言葉も発せられないほどに重度の治癒患者に」
重度の治癒患者というパワーワードが生まれてしまった……。予定通りとはいえ、こうなってしまうとアグノラの早期社会復帰を祈るばかりだ。頑張れアグノラ、負けるなアグノラ。
「それから、メルキオールには私が変化して最終決戦の間際まで上手くやり過ごします。決戦が始まる頃には、そのスキャンした副師団長に再変化しましょう。今後の連絡はバッジを通して指示願います」
カイトさんがメルキオールを演じてくれるのは正直有り難い。工作に慣れているとのことだし、レヴィのような台詞の棒読みもないだろう。ティア先生のようにはっちゃけたりもしないだろうからね。
「かしこまりました。最終決戦の作戦や指示についてはおって情報共有させていただきますが、少し問題があります。僕たちがこの世界にいられるのは一週間。このままだと最終決戦が始まる頃は僕たちは第三世界にいることになってしまいます。ある程度作戦の目途が立った今、余裕をもって明日から一旦戻って最終決戦の三日前に戻ってくるように調整したいと思います」
「そういえばそうだったね。確かに日程の調整は必要になるね。ん? ということは、アモナ姫も魔王城に戻るんですよね。それでしたら第三世界に戻る前にお願いがあります」
5月24日に集英社ダッシュエックス文庫より発売となります。
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