閑話 16
ピースケは一人で留守番をしながら目の前の客人の相手をしていた。先程まで一緒に来ていた騒がしいモンスタードールズの三人組は既にマスターがいる房総半島のホテルに向かっている。
会議室のテーブルの向かいには『大阪ダンジョン』の案内人、タコ丸が座っていた。
「なんだこのモンスターは!? 無茶苦茶だろ。カモメの情報から操作してやがったのかよ。まぁ、それがなくても勝てる相手ではなかったようだけどよ」
「贔屓目に見ても、負けるイメージはないっすね。まだ本気出したことがない気がするっすよ」
会議室のモニターでは、マスターがジョナサンを真っ二つに斬るところを映していた。再生が終わると通常のダンジョンカメラに移り変わり、通常通り様々な階層を映し始めている。
「エレメントごと斬るとか化物かよ……。正直言って、このスキルがあればジョナサンが負けることはないと思ってたんだけどな」
「スキルで言うなら、うちのマスターの方が断然上っすよ。『魔力操作』のスキルは汎用性が高くて無敵っす」
出されたお茶を苦そうに飲むタコ丸。クリア直前まで行っていたのだ、それは悔しかっただろう。
「ピース様、なんで俺を助けたんですか?」
「自分が助けた訳じゃないっすよ。理由を聞くなら、うちのマスターに聞いてもらえるっすかね」
「おそらく、ジョナサンを倒したことで10億ポイントをクリアしたんですよね? つまり、案内人が何者なのか知ったというとこでしょうか」
「…………」
「はっ、甘いマスターだな。俺はこれが二回目の挑戦だ。惜しくはあった、善戦も出来たはずだ。しかしながらあえなく撃沈しちまった。既に覚悟は出来ている。さっさと殺してもらって構わない。俺がここで生き残る意味はないだろう」
〈……えーっと、シリアスな感じのところ申し訳ないのじゃが、ダンジョン協会のガズズじゃ。今、わしは、お二人の頭に直接語りかけておる……。ちゃんと聞こえておるか?〉
「はぁ? ダンジョン協会? どういうことなんだよ」
「ガズズ、どういうことっすか?」
〈ピース様はクリアされておりますし、オクト家のは、敗退が決まっておるので伝えるのじゃが。えっと、これ、絶対他の案内人には秘密じゃよ。そのな、……敗退した案内人はな……ダンジョン協会の所属になるのじゃよ〉
「じゃ、じゃあ、マスター達は? 生きてるのか?」
〈……マスターは死んでおるな。ボスモンスターに関しては、一定の期間内であればポイント消費で復活が可能じゃが、ダンジョンマスターがいない場合はそれも出来ない〉
「そ、そうか……。じゃあ、俺はどうなるんだ?」
〈……ダンジョン協会内で研究者として、一生を過ごしてもらうこととなる。それなりに仲間もおるで、楽しく過ごせるとは思うぞ。それから、協会の外には出れん。残念じゃが、身内の者と会うことも出来ないと思っておいてくれ。そのなぁ、頭に輪っかが付いたりしてな、見た目がちょっと死んだ人みたいになるのじゃよ〉
「えっ? それ死んでるっすよね? 生きてるっすか?」
〈……ちょっと透けておるが、普通に会話は出来るみたいなので問題ないと思うんじゃ〉
「へぇー、透けてるっすか。幽霊っぽいっすね」
「幽霊だよっ! それ幽霊だろっ!」
〈……食欲もなくなるみたいで、ご飯も食べないでいいし、寝なくても大丈夫みたいなのじゃ〉
「透けてるのに食事出来るわけねぇだろ! 寝なくても平気? 幽霊だからだろっ! つうか、身内と会ったらダメな理由って間違いなくそれだろっ!」
〈……オクト家のは怒っておるのか? でも安心せぇ、幽霊になったら心が落ち着くみたいじゃぞ〉
「おい、今、間違いなく幽霊って言ったろ? 言っちゃったな? おいっ!」
〈……ということじゃから、気軽に死んで大丈夫じゃよ。これからは同じ研究をする仲間として迎えよう〉
「ピース様、こいつ、ちょっと頭おかしいって! 気軽に死ねとか言ってるし」
「ガズズ、ちょっと聞きたいことがあるっす。他ダンジョンの案内人を、自ダンジョンで討伐した場合って何か特典あるっすか?」
〈そんなこと今までの歴史上あるわけないんじゃから、わからないに決まっておろう〉
「つまり、何かしら特典を貰える可能性があるっすね」
「ちょっ、待って!」
「さっき、さっさと殺してくれて構わないとか言ってたっす。でも、案内人が案内人を殺すって微妙っすね。マスターかボスモンスターに討伐させるべきっすね」
「ピ、ピース様、あんまり痛くないのでお願いしたい……かな」
「しょうがないっすね。寝てる間に向こうへ送るように言っておくっす」
それにしても失敗した案内人がダンジョン協会に戻されるとは意外だったっすね。話を聞く限り完全に幽霊だから微妙っすけど、全てが無くなってしまうよりはいいっす。元に戻る可能性だってあるかもしれないっすからね。
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