第2章 9話
なんでこうなったのでしょう。
目の前にはゴブリン達が楽しそうに騒いでいる。
俺が侵入者を撃退したんだとか。奴ら必死で逃げ出したとか。俺の魔法にびびって腰を抜かしてたぜとか。
あれっ。なんで私はゴブ語を理解しているのかしら。
ゴブゴブフガフガ言ってるようにしか思えないのに何故か会話の内容が理解出来てしまう。
これもすべてダンジョンマスターになってしまったからなのでしょうね。
私の名前はレイコ。
高校二年生です。
この場所には死ぬためにやって来ました。
だけど直前で怖くなってしまい躊躇していたのです。いつの間にか夜になり、戻るに戻れず歩いた先に見つけた洞窟でちょっと休憩するつもりで入っただけなのです。
えーっと、ここからは何を言ってるか意味がわからないでしょうが、洞窟に入るとワインボトルのゆるキャラが先に休んでいたのです。
お互いに挨拶をするとさみしかったのでしょうね。
身の上話が始まって、それからワインボトル先輩の説教が始まり今に至るというか、流されたというか、はい。流されました。
もともと精神的に弱っていたのもあると思いますが生きる目的を見失っていた私に先輩は強烈過ぎたのです。
「おい、レイコ。侵入者に逃げられたんだ。早くダンジョンを強化しないとヤバイぜ」
「そうは言っても。このダンジョン、なんで『ゴブリン』しか召喚出来ないのですか?」
「さぁ、知らね。」
まったく使えない先輩です。
恐いので口には出しませんが、使えない先輩です。
特典のボスモンスターチケットで召喚されたのは『ゴブリンリーダー』。召喚可能なモンスターは『ゴブリン80P』と『ゴブリンメイジ200P』のみ。
『ゴブリンメイジ』は魔法が使えます。とはいっても初級魔法の炎弾だけです。
私は『ゴブリン』を5体に『ゴブリンメイジ』を1体召喚して彼らが戦闘しやすい『森の部屋100P』をポイント交換しました。
まぎれこんできた小動物や『ゴブリン』がダンジョンの外から追い込みをかけた鹿などを討伐しポイントを稼ぎ『ゴブリン』の数を増やしていきました。
ただ、いささか増やし過ぎました。
ゴブゴブうるさいです。
ダンジョンにサイレントモードはないのでしょうか。
ゴブゴブフガフガ?
ゴブゴブフガフガ
ゴブゴブフガフガ。
ゴブゴブフガフガ(笑)
キッ!
ゴブゴブフガフガ
き、きっとバカな弟を持つ姉の気持ちなはず。
とはいえ、私はこの変わった生活が楽しくなっています。『ゴブリン』達は裏表のない性格でいつも賑やかにしてくれますし、先輩も恐いですが真剣だし私のことを思って叱ってくれます。
私が今まで通っていた学校では陰湿ないじめや陰口が横行しており、先生に相談しようにも、どこか馬鹿にしたような上から目線の発言が多くとても信頼出来ませんでした。
そんな環境から比べるとダンジョンは精神的に居心地が良くて、いつしかみんなを家族のように思っていたのです。
だから私はこの場所を守りたいし、失いたくない。
転機が訪れたのはダンジョン開通から約一ヶ月経った頃です。
「侵入者だ。これは人間か、どうするレイコ」
「なんでこんな場所に人が来るの!で、でも見つかるわけにはいかない」
私は『ゴブリン』達に討伐の指示を出した。
しまった。仕掛けが早すぎた。
そして案の定逃げられてしまった……。
なんでこうなったのでしょう。
意識が低かったのはもちろん、人が来るはずがないと思い込んでいたのもダメでした。
警察とか来るのかな。一瞬だけど携帯で動画を撮っているように見えた。
「先輩、どうしましょう。このままじゃみんなと一緒にいられなくなっちゃう」
「レイコ。大事なのはお前がどうしたいのかだ。俺たちはいつでもお前の味方だし、お前のやりたいことを叶えるために最大限力を貸すぜ。さぁ、どうしたいか言ってみな」
相変わらず男前な先輩を前に私は泣きながら言った。
「せ、せんぱい。わたじ、みんなと一緒にいたいだけなのぉ………」
「わかった……。一応手段としては二つある」
一つ目の手段は徹底抗戦。警察が来ようが鉄砲で撃たれようがゴブリン達で迎え撃ち続けてポイントを貯めダンジョン強化を繰り返す。
ゴブリンは死んでもリポップするから最後の1体が負けなければなんとかなるかも知れない。
ただ、リポップする時間が来る前に侵入者が来たらアウトである。
ゴブリンの数は多くない。リスクが高い……。それに、みんながリポップするという前提条件に嫌悪感があった。
二つ目の手段は他ダンジョンの傘下に入り、助けてもらう。
この場合、ダンジョンの管理権限を全て受け渡すことになる。つまり受け渡した先のマスター次第で、レイコやゴブリン達の扱いが変わる。運を天に任せることなる。
そして私と先輩は話し合った結果、このダンジョンより先に開通していたという千葉ダンジョンのマスターに会談を申し込むことにした。




