第10章 10話
奥の居住区にある会議室に通されるとモニターには新種と思われる『ローパー』が多数映し出されていた。見た目でわかる程に小型な『ローパー』なのだが、これはあれだな、ローターにしか見えないサイズなのだが……やはりそういう使い方なのだろうか。ドン引きだよ。
「ウナ次郎、みんなにお茶をお願い」
「了解でやす」
「あー、ウナ次郎さん。私も手伝います」
アオイちゃんがすぐにウナ次郎を追って行く。どうやら、ちゃんとお手伝いの出来る中学生のようだ。
「そういえば小太郎はどこにいるの?」
「小太郎ならこの時間は散歩に出かけているわ。夕方くらいには戻ってくるんじゃないかな」
「元気そうならいいんだ。仲良くやってるの?」
「ど、どうやら小太郎は、私を主と認識してるっぽいのよね」
若干困り顔でそう話すリナちゃん。犬は一緒に暮らす家族を群れと考え、その中で従うリーダーを決め、その他に序列をつけるのだという。アオイちゃんがどの位置にいるのか気になるところだ。
自由行動な雑種のようだが、あとで一応飼い主であるアオイちゃんに聞いてみたところ縄張りのチェックをしているらしく、おばあちゃんのお墓周辺をメインに見廻りしているとのこと。なかなかに礼儀正しい犬である。
また、ヘビや小動物等を生きたまま持って帰ってきているとのことでダンジョン活動にも協力的なレベル2の賢い犬でもあるそうだ。このあたりはリーダーであるリナちゃんに対して主従の姿勢を見せているのかもしれない。出来る犬なのだ。
「じゃ、じゃあ、そろそろ新種の話をするわ」
「あぁ、すごいね。びっくりしたよ。あのモニターに映っているのがそうなんでしょ?」
「そ、そう。新種が召喚出来るようになったのを説明する前にモンスターの進化について話をするわ」
「進化? えっ! モンスターって進化するの?」
「そ、そう。ダンジョンに仲間入りしたアオイの体を気遣った『ローパー』がある日突然ピカッて光ったのよ。なんと、催淫効果のみを残して中毒性を極力低減させた個体に進化したの」
そ、それは進化ではなく退化なのでは!? しかしあっち方面で考えると紛れもなく安全性が強化された進化といえる。判断が難しいところだ。
「す、するとね、召喚出来るモンスターに『ローパー(中毒性小)』が、選択出来るようになっていたのよ」
「ちなみにモニターに映っている小さな『ローパー』はどんな進化を遂げたの?」
「よ、よく聞いてくれたわ。これはね、私が会談とかで外出してる時にアオイが一人でも楽しめるように出来ないかなって考えてたら……」
「ちょ、ちょっとリナお姉様! な、な、な、何を言おうとしたのかな!」
ウナ次郎と顔を真っ赤にしたアオイちゃんが焦りながらお茶を淹れて戻ってきた。アオイちゃん、もうバレバレだからいいんだ。僕は静岡のお茶をゆっくり楽しもうかな。
「ちょっといいかしら、マスターリナ。この『ローパー』というモンスターは攻撃力の高いモンスターには見えないのですけど『静岡ダンジョン』の防衛は大丈夫ですの?」
「な、何よ。そりゃ、あなたよりは弱いかもしれないけど、モンスターの強さは単体ではなく組合せや仕掛けが大事だとタカシから習わなかったの?」
「も、もちろん知ってるわ。でもそれは最低限の力があってこその戦略じゃないかしら。いくら外を『てんとう虫』さん達が守っているとはいえ、『静岡ダンジョン』はちょっと趣味に走りすぎじゃないかと思うわ」
「お、面白いこと言うじゃない。た、試してみる?」
「お姉様、落ち着きましょう。相手は水竜様ですよ!?」
「ちょ、二人ともやめなって!」
「タカシ様、どうせ『菜の花』さんの催眠にはまだ時間が掛かるのです。私がマスターリナに少し危機感というものを教えてさしあげますわ」
「タ、タカシ。ちょっとこの子に痛い目合わせてあげる。今後のためにもお灸を据えてあげた方がいいと思う。殺したりしないから安心して」
「あら、随分と余裕があるようね。一体どんな勝負をするのかしら」
ダメだ。これはもう止めるよりやらせてしまった方が後々尾を引かないかもしれない。
「わかったよ。二人ともあんまり激しくやらないようにね」
そうして、ティア先生による『静岡ダンジョン』二階層攻略、対するリナちゃんによる防衛対戦がスタートすることになってしまった。
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