第9章 1話
「本当に大丈夫なのでしょうか。私に出来ることが何かあればいいのだけど」
ミサキさんが心配して声を掛けてくれている。今は、『熊本ダンジョン』へ行く前に『佐賀ダンジョン』に立ち寄り、少し休憩をさせてもらっている。ここには、福岡空港から電車を乗り継いで来た。先程、『てんとう虫』さんから乗用車を用意したと連絡があったので、『熊本ダンジョン』にはここから車で向かう予定だ。
「せっかくの機会だし、先輩ダンジョンを勉強させてもらうよ。三日経っても僕が出てこれない場合はうちのボスモンスター達が攻略に乗り込むことになっている。それでダメならどうしようもない。みんなにも伝えてるんだけど、ミサキさんは『新潟ダンジョン』を頼ってもらいたい。決して僕の敵討ちとかを考えないようにね」
「で、でも。はい。……わかりました」
「それに、それはあくまでも最悪のケースであって、僕一人でなんとかする予定だから安心してよ。一応、こう見えて秘策も用意してるんだから」
「くれぐれも気をつけてくださいね。お昼はお弁当を持ってきてるって言ってたから、はい、お土産にアイスでも食べて。とっても美味しいのよ」
「これは?」
「ブラッキーモンブランよ。九州じゃ有名なんだから」
「うわー、ありがとう。じゃあ行ってくるね」
ダンジョンを出ることが出来ないミサキさんは入口ギリギリのところまで来てお見送りしてくれた。ミサキさんが責任を感じているのはその態度や言動からも痛い程感じている。少しでも早く戻って安心させてあげたいものだ。
「マスター、乗用車はこちらになります。あと念の為とおっしゃられていたマスターやティア様達が『熊本ダンジョン』から戻らなかった場合についてですが」
「うん。小型核兵器の使用許可をハリス司令官を通じて手に入れてね。オーウェン大統領を上手く説得してほしい。それから、階層毎に特攻させることになってしまうけど……」
「それ以上はおっしゃらないでください。我々も覚悟は出来ております」
「うん。その時は頼んだよ。じゃあ、ここからは一人で行ってくるよ」
「お気をつけて」
僕は後ろ向きに手をあげて返事を返した。みんなに心配を掛けてしまっているが、もしもの時のことは考えておかないと後に残されたみんなが大変なことになるだろう。リリアさんが簡単に僕を殺すことはないだろうと心のどこかで思ってはいるけど、ダンジョンはそんな甘い場所でもない。ちょっとした油断で殺されてしまうことは僕自身が理解しているつもりだ。
そういえば、『新潟ダンジョン』のサクラちゃんにもかなり心配させてしまった。僕のことを師と仰いでくれる元中学生アイドルだが、一緒に聞いていたミクちゃんが隣で冷静に話を聞いてくれていたからまだ助かったかな。もしもの場合の避難場所としてお願いをしにいったのだが、何故かサクラちゃんに叱られてしまった。
「師匠がもしものことを考えて話してくれてるのは理解してるよ。でもね、そんな淡々と説明されるとイラっとくるんだよね。もしもの時が来るということは自分が死ぬってことでしょ。師匠が死んだ後のことをそこまで冷静に話されたら、とってもさみしいじゃないか」
「ご、ごめん。もちろん死ぬつもりはないし、あくまでも最悪のケースを想定した場合のことだからさ」
「それぐらいわかってるよ。その代わり、もし無事に戻ってこれたなら、私のお願いを一つ聞いてもらうからね」
「へ、変なことじゃないよね?」
「な、何よ。へ、変なことじゃないし……多分」
「まぁ、弟子の頼みだ。聞いてやろうじゃないか」
というようなやり取りが、ここに来る少し前に『新潟ダンジョン』であったのだった。
うーん、多方面で心配をお掛けしています。でも、こんなことでもない限り話す内容でもなかったので、結果的に良い機会になったのかなと思ったりしている。
車は八女インターから九州自動車道を進み八代インターまで行き、更に下道を10キロメートル進むと目的地である八竜山が見えてくる。佐賀からはだいたい三時間ぐらいのドライブだった。
なるべく高いところが見つけてもらいやすいかなと思い、天文台のある駐車場で車を降りた。すると、どこからともなくコウモリが飛んできた。
バサバサバサバサッ
「うぉー、ここにもコウモリさんがいるんだね。頑張って繁殖するんだよー」
「ガルフ! 発見したぞ。北西に500の辺りだ。ダンジョンまで案内しろ」
「了解だ」
「……それにしてもタカシのやつ、我が眷属を見るなり、こ、交尾しろとは、全くもって卑猥なやつだ。まるでやつの血のように卑猥であるな。け、けしからん」
顔を真っ赤にしたリリアは口角が上がっており、どこか待ちきれないような表情をしているのだった。
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