69話 変身!(本人の同意なし)
「ほら、やっぱり! 大鏡を壊せば死ぬ! それが、あのゲームのラスボスの最期だもの! よくも、わたくしを陥れようとしたわね! ざまぁだわ!」
完全勝利とばかりに、セレスが笑うが――彼女は、まだ自分の異変に気付いていない。
大鏡パリーンで、己の勝利を確信したのは、セレスだけではない。
セレスの中にいる邪霊もまた、大勝利と思ってはしゃいでいるらしい。
まさかのメタモルフォーゼに絶句する周囲。
その温度差でセレスはようやく、異変を視界に入れたようだ。
自分の髪が、にょろっと伸びて蛇のようにうねりだすという、異変だ。
それが目に入って、セレスはようやく自分の身に起こった異常事態に気が付いた。
「え、なに?」
それでも、変身は終わらない。
毛先からは黒いモヤモヤが溢れてきて、やがて掌くらいのかたまりになる。
そして、毛の先に留まったソレは……カサカサと、動いた。
形態はGそっくりのアレ、瘴魔だ。
邪霊成分が抜けたのか、ようやく瘴魔を瘴魔と認識できたらしいセレスは、自分の髪が大変なことになって泣き叫ぶ。
だけど、彼女が泣こうとわめこうと、中に居座った邪霊はお構いなしらしい。
ぞぞわっと髪の毛が一斉に動いた。
こっちを狙って。
(守らないと!)
みんな、突然の変身に驚いていた。
私は、今際の際だったせいか、我に返るのが人より少し早かった。
だから、動けた。
ルヴァを守ろうと瘴魔に立ち塞がる。
(あ、これ……初めて会った時みたい)
あの時は、訳が分からないまま、ただ必死だった。
でも、今は違う。
ちゃんと、自分の意志で行動している。
(ルヴァを、守りたい!)
そう強く思う私は、誰かに抱き寄せられた。
これは……。
「ルヴァ」
「僕が、君を守る」
「――っ」
そうだった。
私のそばには、いつだって、君がいるのに。
「うん。だったら、私がルヴァを守るよ」
抱きしめられた腕に手を重ねると、ルヴァの魔力を感じる。
私の方へ流れ込んでくる。
――ヒビ割れた体なのに、変だ。
今なら、なんでも出来そうな気がする。
『今度こそぉ! 食らってやるぞ!』
迫ってくる瘴魔が揃って同じ声を発した。
これもまた、一番最初に聞いた声だ。
だったら、退治するときのセリフは決まっている。
「せーの……!」
私のかけ声に合わせて、ルヴァが口を開く。
サッチュウザイ!!!!
私とルヴァの声が重なって、視界は真っ白になる。
「きゃあ!」
『グわぁぁぁぁっ』
セレスの悲鳴と邪霊の苦しそうな声が届く。
思った通りだ。
私が最初に、強い感情を込めた音、それはルヴァと私の間で魔法として認識されたんだ。
音に思いを込めて魔力を放つ――それが最強の魔法だ。
嫌な気配が消える。
よかった、邪霊はもういない。
瘴気はティアが浄化できるし、スィーヤもいるし……。
ルヴァは……
(あ、もうダメかも)
力が、今ので全部抜けた。
全部の感覚が遠くなっていき――どこかで、鏡が割れるような音がした。




